第16話 乱れたオンナは微かに笑う
私はその衣装に着替え、撮影に臨む。
自分の中の自信をそのまま表情やポーズで表す。
それが伝わったのか、カメラマンのテンションは次第に上がり次々とシャッターをきる。普通では考えられない程現場のテンションはどんどん上がっていく。
その様子を遠目から見ていた雑誌の編集が不思議そうに進藤に話しかける。
「これ、どうなっちゃってんですか!?トラブルなんて感じさせない程の発想力と表現力。自分も色々な撮影現場を見てきたつもりですけどこんな衝撃を受けたのは初めてですよ!色々な意味で、」
「わかります。私も初めて見た時は同じ事を思いました。でも、姫乃の撮影現場はいつもこんな感じですよ。これでもまだ静かな方ですし……」
「いやいや、これが静かって……」
「私が初めて見た時なんて盛り上がりすぎて突然倒れるスタッフもいたぐらいですから」
「確かに、それと比べれば静かですねー。………………倒れたッッ!てどういう事ですか!??」
思わず進藤の事を二度見し勢いよく突っ込む。
「そんな驚く事ないじゃないですか?」
「驚きますよ!そんなの驚くに決まってるじゃないですか!」
「それが彼女の普通ですから。。そんなことで驚いてたら彼女のマネジャーは成り立ちませんよ。あっ、ほら、」
姫乃の一番近くにいたスタッフが突然倒れる。
「嘘でしょ。本当に……どうなってんですか。とにかく助けないと」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。姫乃のオーラを近くで浴びすぎて倒れただけですから。時間が経てば自然と気が付きますから安心して下さい」
「オーラを浴びすぎで倒れるとか…………なんか現実じゃないみたいですね。この撮影だって側から見たら何かのパーティーやってる様にしか見えないでしょうし。こんな撮影現場世界中探してもきっとここだけですよ」
「当然です。それが姫乃の魅力でもあるんですから。だから無理な事でもやってあげたくなるし、なんとかしてくれる気がするんですよね」
こうしてトラブルは無事チャンスに変わった事で撮影は順調に終わりを迎えた。
そして翌月遂に私が表紙を飾った雑誌が次々と店頭に並んだ。
今話題の姫乃皐月が専属モデルとしてしかも表紙とあり発売前から大きな話題になっていた為か、発売直後から瞬く間に品切れが続出。それによりフリマアプリには大量に高額な値段で転売が行われている事が問題に。
それに対するように出版社側が大量増刷を行うことを決定。これにより問題は消息すると思えた。だが、雑誌の売れ行きが想像を遥かに超える勢いで上がっていく為に幾ら増刷してもこちらの需要に必要な分まで追いつく事が出来なかった。
それによりこの事が社会問題になり今、世界で一番手に入らない雑誌として数々のメディアに取り上げられた事がきっかけでより人気に火がつく事になりさらに入手が困難に。数多の重版がかけられ最終的に女性雑誌としては異例の200万部を超えた。
これは女性ファッション誌としては普通有り得ないことであり今まで一度も達成された事の無い異例な事態である。
これにより当然、姫乃皐月という人間の人気は鰻登りに上がっていき瞬く間に芸能界に自らの居場所を築き上げ不動の物にしていたのだった。
とあるホテルの一室。
乱れたベッドに二人の男女が共に落ち着いた夜の時間を過ごしている。
女は飲みかけの缶酎ハイを片手にスマホを見ている。
その表情は非常に険しく先程まで見せていたであろう幸せな表情とは比べものにならない。酒の影響なのか感情が昂り言葉にならないような女は怒声をあげスマホを投げ捨てる。
それを見ていた男は女を優しく慰める。
女はそれに応えるように落ち着きを取り戻しさっきまでの険しい表情などすっかり忘れて笑顔まで垣間見れるようになり再び幸せな空気が二人をつつんだ。
投げ捨てられたスマホの画面には先程の衝撃で激しくヒビが入っている。
そのヒビの下には姫乃皐月が来期のドラマ主演が決まった事を報じるニュース画面が映っていた。
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