第11話 食堂でオカンと呼ばれた僕が、味噌を使う話

「まぁ、料理をしていくわけだけど。今回は魔物の素材は一切使わないよ」

「どうしてだ。です」

「単純だけど、みよりの故郷の味を作るわけだから、入れるわけにはいかないんだ」


 これはあくまでプライドの話。オカンと呼ばれている僕が、絶対に守っていることだ。

 ただご飯を食べに来ているのなら、おいしいご飯をもちろん出すが。そうじゃないお客さんもいる。

 お客さんに合わせて作るのが、この店のやり方だ。


「よし、作るか」


 この料理のメインかつ、みよりの故郷で取れていたサバ三枚におろす。

 朝で、お客さんもいないので切り身を三つに切り分ける。

 ひっくり返し、身の皮側から分厚い部分にバツ印に切れ目を入れる。

 こうすることで、火が安定して入るのでやっておくといい。

 このバツ印で何を作ているのか察したみよりは、椅子から立ち身を乗り出す形で見始める。

 切ったものを網の上に置き熱湯をかけ、臭みと汚れを取る。

 これで、サバの下準備は終わり。

 次にフライパンを出し、水を入れさらに少し多めに酒を入れる。

 

「酒をそんなに……贅沢だ。です」

「そうだね、贅沢だ。でもこうすると身がふっくらするから」

「でも、生臭くて魚嫌い」

「あはは、なんとなくそんな気はしてたよ。でも大丈夫そんなシャリテでも食べれるようにできるから」


 ですをつけ忘れていることから、心からの言葉なんだと苦笑いしつつ作業を進める。

 ここに、みりんと砂糖を加えて沸騰させる。沸騰したところにスライスしたショウガ、サバを入れる。

 ここで忘れちゃいけないこと。

 アクを取ること。

 これが臭みの原因だ。これを取らないと鼻に生臭さなどが残って、シャリテが食べれなくなってしまうので気を付けて取る。


「な、なんだ。その茶色いの……土? です」

「あれは違うにゃ。味噌って言って料理に入れると物凄いおいしくなるにゃ!」

 

 

 今、説明してくれた味噌を入れる。

 ただ、直接入れるんじゃなく。フライパンのつゆを皿に入れそこで一回味噌を溶かす。

 こうすると、だまにならずに全体になじむ。

 もちろん直接入れてもいいが、これは好みの問題だろう。

 これだけでも十分おいしいのだが、現地のアレンジ。切ったジャガーを加える。

 ここまでしたら、落し蓋をする。

 十分ほど雑談を楽しみながら待ち。さらに粗熱が取れるまで待つ。

 冷ます過程で身が引き締まり、つゆを良く吸うのでやった方がいい。

 それも終わったなら、再度温め。冷えてしまったらおいしくないので、温めなおすだけ。

 落し蓋を外すとともに、店内に広がる味噌の香り。

 他に料理を作っていないので、味噌の香り一色だ。

 その香りを嗅いで、みよりは二本の尻尾をぴんと立てつばを飲み込んだ。

 今日はまだ何も食べていないらしく、きゅるるると可愛らしくおなかも鳴る。

 出来たものを皿にのせその上にバターを乗せいたら完成。


「サバの味噌煮だよ。ご飯とさっきシャリテがいってた味噌をお湯で溶いたものも出すから待っててね」

「味噌汁もあるんですかにゃ⁉」

「味噌があるんだからそれぐらいできるよ。冒険者が居酒屋のように使うから忘れられてるけど、ここ食堂だから」


 味噌汁の具はジャガー、豆腐というシンプルなもの。みよりは、そこにわかめを入れたものを出す。


「みよりだけ、なんか入ってる。です」

「わかめっていう海藻だね。あれは僕たちは食べるとおなかを壊すからダメかな」

「そうなのかにゃ? ならなんで私だけ食べれるにゃ?」

「それは昔から食べられてきたからだよ。長い間食べられてきたから、食べれる体になった。逆に僕たちにはなじみがないんだ。それを食べる習慣がないからね」


 エプロンをとり、パトリもカウンター側に回る。


「「「いただきます」です」にゃん」


 みよりは、魚に久しぶりに持つ箸を入れる。


「にゃあぁ」


 簡単に箸が入り、あまりの嬉しさに声がこぼれた。

 シャリテも震える手でスプーンにサバを乗せ口に運ぶ。


「うみゃぁああああ」

「うまぁあああああ」


 大絶賛だった。

 これにはパトリも嬉しそうにサバを食べる。

 うん。うまい。

 口いっぱいに広がる味噌とサバ。そこにショウガのアクセントが効いていてご飯がとてもすすむ。


「うまいにゃ、本当に。本当に」


 零れ落ちる本音。

 いきなり知らない場所。知らない人に囲まれる環境。

 不安でいっぱいいっぱいだったはずだ。

 実際まだまだ、パトリにシャリテに隠していることは多いはずだ。

 それでも、この料理を食べてる今だけは。料理を通して、故郷に帰ったと思ってほしい。

 それが、パトリ食堂あるべき理由だと思うから。

 そこからは、しゃべらず黙々と故郷の味を少しでも長く味わうように食べた。


「ありがとうにゃ、パトリ」

「いいよ。これがオカンの存在意義だから」

「本当にうまかった。です。魚があんなにうまくなるなんて、倭国恐るべき国だ。です」

「まぁ、確かになぁ。あの国は、事食事においては鬼気迫るものを感じるね。また行きたいよ」

「あ、そういえばパトリ」


 唐突に、何かを思い出したようにキッチンで皿洗いをしているパトリを呼ぶ。


「本当に、ただの店主じゃなかったにゃ!」


 今日一番の笑顔で、みよりは話した。

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