第12話 食堂でオカンと呼ばれた僕が……
だ、駄目だこのままじゃ。このままじゃ村が……みんなが殺される。
俺がッ、俺が何とかするから! それまでは、どうか。どうか。
燃える村。それを背にし飛び出したたった一人の魔族がいた。
〇 〇 〇
シャリテとみよりに買い出しを頼んだその日、それは唐突に来た。
開店前、店の扉が開く。
「すいませんお客さん、まだ開店——」
前、そういおうとして言葉が詰まる。
そのお客は服の端が少し焦げている魔族だったからだ。
明らかに異常事態に頭を切り替える。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
「————だせ」
「はい?」
「シャミデス・リ・テーラだせ!」
一瞬誰のことかわからなかったが、魔族つながりということもあり。すぐにシャリテを結びつける。
「今、少し出かけていまして少ししたら帰ってきますよ」
「今すぐだっていってんだろ!」
「どうした。です」
今にも暴れそうな魔族だったが、ちょうどシャリテが帰ってきたことで何とかなる。
「シャリテどうにかしてよ、君の知り合いでしょ」
「お前は―—誰だ?」
「いや、知らないのかよ⁉」
「まぁ、接点ないから当然だ。そんなことよりシャミデス・リ・テーラは貰っていく」
やはり、意味の分からないことをいう魔族。
誰も話についていけない現状。
「貴様など知らぬが、わらわは今から開店準備がある。出ていけ」
「ふん。あのじゃじゃ馬だった魔王の娘シャミデス・リ・テーラ様が、ずいぶんとまるくなったじゃねぇか」
魔王の娘……? 今、知らない情報を聞いた気がする。
「だったら、どうした? 貴様に関係あるか?」
「ないな、だがそれはこちらも同じだ」
いきなり手を突き出す魔族。
「やめろ。こんなところで魔法をぶっ放す気か。移動するぞ」
「本当にまるくなったものだ」
〇 〇 〇
いつぞやのドラゴンを止めた場所に来た三人。
そこで、シャリテと魔族の戦闘が行われた。
「もう一度問う。なぜ来た」
「魔王になるため」
空気が明らかに重くなる。
ここまでやってきて、やっと話しが分かってきた。
どうやら魔族は魔王になりたいらしくここまでやってきていた。
その魔王になるためには、シャリテが必要ということらしい。
だから、最初に会った時にあんなにやつれていたのかと理解する。
「魔族の社会は男尊女卑とまではいかないが、それに近いところがある。なぜだかわかるか男よ」
「さ、さぁ」
「力で勝てないんだよ圧倒的にな、だから――」
パトリの目の前から二人が消えた。
それと同時に強い衝撃派。
その場に立っているのがやっとの風が吹き荒れ、耳を押えたくなるほどの大きな音が響き渡る。
魔族の重い一撃を受け止めたシャリテの手がしびれる。
空いている手でさらに攻撃をしてくる魔族。それになんとか追いついていくのがやっと。
シャリテ側から攻撃したのは、ほんの数発。それほどの差があった。
「ここまで落ちたか」
「——ッ」
魔族は抜いていた手に力を込め、再度殴りつける。
「ガァッ」
シャリテの溝内に入り、あまりの苦しさに立ち止まり。今度は右頬を殴りつけられる。
そのまま回し蹴りされて、後ろの岩にめり込んだ。
「シャリテ!!」
何が起こってるかわからないパトリ。
しかし、シャリテが負けていることは理解した。
だが信じられない。いつもシャリテの強いところを見ていたパトリは、負けると思っていなかったから頭でわかっていてもそれを受け入れてなかった。
だから、だからこそ。体が動いた。
「はぁ―—はぁ――」
「ちゃんと眠らせてやるか」
再度、魔族はシャリテを気絶させようと右手の拳を引き突き出した。
しかし、結果的にシャリテに拳は届かず。その代わり、生暖かい血を浴びた。
「ゴフッ」
痛い。熱い。痛い熱い痛い熱い痛い熱い―—
お腹に激痛を感じるパトリ。
それもそのはず、魔族の右手が貫いているのだから。
でもその痛みのおかげで、意識を何とか保っていられる。
「え……な、んで」
最初は、何故攻撃を食らわなかったのかわからないシャリテだったが。
顔を持ち上げやっと状況を理解する。
震える声でパトリに問うが、ただ立ってるだけ。
「はっどうした人間! この魔族に情でも湧いたか! いいか、こいつは魔王の娘!
人間を殺し続けた魔族の長の娘だ! かばう義理がどこにある!」
「しる、かッ。お前なんか、に。シャリテは渡さない!」
もうほぼ死んでるパトリ。だがそれでも、ほんの少し魔族を後ずさりさせた。
ずるりと、腕が抜け後ろに倒れるパトリ。
「本当に、なんでっ!」
そんなパトリを受け止め涙を流すシャリテ。
「僕が、そうしたかったから……」
誰がどう見ても、助からない重症。
息も絶え絶え、しかしいいたいことはいった。とパトリは瞳を閉じる
「ま、待って! ねぇ! パトリ! 噓でしょ! ねえってば!」
パトリを殺してしまった魔族も動けずにいた。
シャリテを連れて帰るはずなのに、それができずにいた。
「いやぁぁああああああぁぁああああぁあああああああああああ」
森の中にこだまする悲鳴に似た叫び声。
こうして、パトリは人間としての生を終わらせた。
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