第9話 食堂でオカンと呼ばれている僕が、魚を盗まれた話


「ちょっと待って! なんでないんだ⁉」


 午前中。食堂の中でパトリの声が響き渡る。


「どうした? です」


 あまりの声の大きさに、外の掃き掃除をしていたシャリテも様子を見に来る。


「いや、昨日仕入れておいた魚がないんだ……」

「別のところに置いてあるとかは? ないです?」

「今日の朝、起きてきてすぐに届いたからね。受け取ってこの台所の上に置いてあるはずだけど。全く見当たらないんだ。」


 何より、運ぶときに使われた箱だけ残っているのがおかしい。

 シャリテに作ってもらった冷蔵庫に入れるなら、箱のまま入れるだろうし。


「てことは、盗まれた。です?」

「考えたくないけど。そうなるかな」


 受け取ってから二時間、その間に盗まれた可能性が高い。


「とりあえず、このままだと魚料理何品か出せなくなっちゃうから。僕、市場の方行ってくるから留守番お願いしていいかな」

「任せろ。です」


    〇    〇    〇


 その後、一週間ほど取られ続け流石に動こうかなと思っていると。


「名探偵シャリテ動きます」

「いつから名探偵なってんですか……」

「自称に決まってるだろ。です」

「自称かよ!」


 服屋のお姉さんに着せ替え人形にされているらしく。

 そのお礼にと、もらった帽子を被り店内を一周し始める。


「ぺろっ、これは塩!」


 キッチンに置いてある粉を舐めて、わけのわからない事をしているがスルー。


「犯人がわかりました」

「早いな! もうわかったんだ」

 

 この速さで気づけるのなら、本物の名探偵だ。

 犯人の答え、にワクワクしていると。


「猫です!」


 と、わけのわからないことを言い始めた。

 いや、わけはわかるのだが……


「僕だってその可能性は考えたさ、だから他の店にも聞きに行ったよ」

「なんで、他の店にも行ったです?」

「猫だった場合、他の店にも盗みに入ると思うんだ、どう考えてもこの店だけなんてことはないって」


 もちろん、この街には他にも飲食店がある。魚をメインにしてるお店だってあるわけだ。しかし聞いた結果は……


「他の店は盗まれてないってさ」


 これで、犯人が猫である可能性は極めて低いと思った。

 だとすると、何に盗まれたのかという話になる。

 妥当なのは、やはり人。

 今回盗まれているのは、少し高い魚。しかし、生ものである以上日持ちはしない。

 考えれば考えるほどわからなくなってくる。

 

「まぁ、明日早く起きて罠でも貼れば。です」

「やりたくないけど、仕方ないか」


 次の日、いつも仕入れている魚をキッチンに置き二階から様子を見る。

 もちろん、何かあってもいいようにシャリテを呼んでいるが、パトリに寄り掛かるようにしてまだ寝ている。

 しかし、一向に犯人が現れずうとうとしていると。

 ガタッと、音が鳴り飛び起きるパトリ。


「やばい、うとうとしてた! 追いかけないと」

「痛っ」


 寄りかかっていたシャリテはそのまま床に激突。

 そんなことも気にせず階段を駆け下りる。


「シャリテも早く来て! 犯人が逃げちゃう」


 うとうとしていたせいで、犯人の姿を見ていないため、小さい影を見失わないように必死に走る。


「早すぎでしょ!」

「何してるです?」


 後から走っているシャリテに追いつかれる始末。

 いや、魔族ということもあって身体能力が違うだけだと思う。

 運動神経がないとかじゃない、多分。


「あの前の影を追いかけてるの! 多分あれが犯人」


 犯人は人じゃなく動物だった。予想とは違うが、そんなこと言ってられない。あのすばしっこい動物を捕まえなければ。


「捕まえればいいの? です」

「あ、あぁ」

「任せろ。です」


 少し右足に力をためるように、前傾姿勢になる。

 パトリが瞬きをした瞬間。強い風が吹き、目の前の黒い影に追いつく。


「おすわり」


 その一言で、小さな影も止まった。


「パトリ、捕まえた。です」

「はぁ、はぁ、ありがとうっ」


 首根っこを掴まれている猫がいた。


「やはり、わらわの推理は当たっていた。名探偵シャリテです」

「噓でしょ……」

「わーわー。謝るから、魚とったこと謝るから下ろしてほしいにゃん!」


 今いるのは、シャリテとパトリだけ。だが、聞いたことのない声にあたりを見回す。

 

「何きょろきょろしてるにゃ! 今首根っこ掴まれてる猫にゃ!」


 ゆっくりと猫を見下ろすと、目が合ったとたん。おはにゃと流暢に言葉を話す猫がいた。


「「しゃ、しゃべったー⁉」」

「どうもにゃ」

「魔物か⁉」

「こんな魔物見たことない。です」

「にゃー! 魔物なんかと一緒にするにゃ! 私は由緒正しき猫又族の田代美縁たしろみより! あ、呼びずらいと思うからみよりでいいにゃ!」


 猫が話していることに驚いていたら、流れで自己紹介までされてしまった。

 でも、何というか胡散臭い。

 どうやら、シャリテも同じようであからさまに疑っているような目を向ける。


「ま、まだ信用されてないにゃ⁉ こ、これならどうにゃ!」


 ポンッという効果音

 煙が上がり――猫の耳、二本の尻尾。膨らんだ――胸。


「ちょ、ちょっと待って⁉ 戻って⁉」

「なんでにゃ! もっとみてにゃ!」

「わかった! わかったから! 信じる! 信じるから戻ってくれー!!!」


 朝早いとはいえ外。なのに全裸でいられたらまずいどころの話じゃない。


「信じてくれてありがとうにゃ!」

「でも、盗んだことは別だ。です」

「んにゃあ?」


 いったん家に帰り、服を渡し。そっから事情を聴くことになった。

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