第7話 食堂でオカンと呼ばれた僕が、契約をする話
「腰が……痛いッです」
「本当にそうですね……」
途中に休憩を挟みながら五時間。馬車に揺られカドリフォリエの故郷、アントワーヌに着いた。
「それで、ここに何しに来た? です」
「一つはカドリフォリエの育った環境を知るため。もう一つはジャガーの有名な生産地であるアントワーヌとの契約をしたい。ぶっちゃけこっちがメインかな」
あの四人を見た時から、作る料理は決めていた。いつもなら、店にあるものでもできるし、なんならあの時作れもした。
でも、依頼されている以上準備しておきたい。
一面ジャガー畑。たまに家がぽつぽつと建っている。
まずやることは、この村の村長と話がしたいので、村の中心まで行きたい。
「とりあえず、歩くか」
「です」
十分ぐらい歩いてやっと村の中心に着く。
「おや、あんた見ない顔だね」
「ランソンブレという町で食堂を営んでいるパトリと申します」
「若そうなのに立派だねぇ。で、パトリ君は何しに来たの? こんな辺境に」
「ジャガーの仕入れをお願いしたくて来ました。村長はどこにおられますか?」
「あー村長は今家にいるかね。案内するよ」
少し歩いて、二階建ての一軒家に入って行く。
「あんたーお客さんだよー」
「「あ、あんた⁉」です」
「あー旦那なんだよここの村長」
すると、呼ばれた村長が階段からりてくる。
「やあ、こんにちは。外からお客さんとは珍しいね」
「パトリです。すいませんいきなり」
「いやいや、いいよ。むしろ嬉しいことだからね」
優しい口調で相槌を打ってくれる村長。この人が村長になっている理由が少しわかるかもしれない。
「じゃあ、あたしは仕事に戻るね」
「あ、すいません。案内ありがとうございました」
「いえいえ、何もないところだけどゆっくりしていってちょうだいな」
「それで、何の用かな? こんなところに」
「実はジャガーの仕入れの契約をしたくて来ました」
「なるほど……」
少し空気が重くなるのを感じる
値踏みされていることを察して、パトリも気合を入れる。
「失礼だけど君はどこから来たのかな? それと何をしているのかもいいかい?」
「ランソンブレという町で、食堂を営んでいます」
「そんなに若いのにかい?」
「二年ほど前に、両親は他界しました。今はこのシャリテと一緒に働いています」
「すまない、野暮なことを聞いた」
「頭を上げてください、もう大丈夫ですので」
こんな子どもにも悪いことをしたと、すぐ頭を下げる姿勢。
ぜひともこの人と契約したい。
「契約に関してはやぶさかじゃないが、なんでこの村なのか聞いてもいいかい? ジャガーを育てているのはこの村だけじゃないはずだ」
「単純ですよ。僕がこの村のジャガーが好きだからです」
あっけらかんとしていうパトリに、さすがに村長もシャリテも目が点になる。
「ど、どういうことだ。です?」
「少し前、町に仕入れられてるの見たんだけど、一個一個が大きかったんだ。これがどういうことがわかる? シャリテ」
「わ、わからない。です」
「村で大きさを厳選してるってことなんだ。もちろん少し高いってのもあるんだけどね」
村長は目を見開いて驚く。もちろん、ただの子どもではないと思っていた。
だからこそ、契約を提案してきた際はしっかり対応するつもりでいたし、子どもだと思わないようにしていた。
はずだった、だが見誤っていた。
なにが少し前だ、三年前一回だけ売りに行っただけだ。
更に、二年前の経営し始めてからならまだしも、その前からしっかり経営者の目で見ていたことになる。
そんなパトリのすごさに、村長は冷や汗をかいていた。
「他の村で作られたジャガーはそうじゃない。いろいろな大きさがって、なんなら少し傷んでるものもある。だから、この村は買い手を想って、やっているんだなって。それと、ジャガーのをしっかりおいしいものとして生産した初めての村だしね」
「な、なるほど。です」
シャリテもそこまで気にしているのかと、驚きを隠せない。
「——わかりました。契約しましょう」
「え⁉ 僕まだ何も……」
「いえ、あなたほどの人と契約できなければそれこそ恥ですよ」
村長は確信していた。
この人なら間違いなく自分たちの育て上げたジャガーを無駄なく使ってくれるだろうと。
「ちなみに、どいった契約内容ですか?」
「それは、契約する前に聞いてほしいです……まぁ、少し難しいかもしれませんが、こっちから提示するものは一つです。この村からランソンブレに卸すのはパトリ食堂だけにしてください」
「それだけですか?」
「はい。ですが、それだけだと村の利益が少ないかもしれないので、少し多く運んでもらって僕の店で売ります。とれたて新鮮な野菜として。だから、なるべくいいものを厳選してほしいということです。そこに関しては、心配していませんが」
なるべく利益均等になるように保ちつつ、生産しているところをないがしろにしない提案。そしていいものを卸してほしいという、少しの圧。
村長の目の前にいるのは、紛れもない化け物だった。
そんな化け物に対し、村長はニヤリと笑い。
「いいでしょう。契約はそれでお願いします」
「よかったぁー。契約できたぁー」
契約完了が決まったとたん、年相応の態度に戻るパトリ。
そんな光景に、シャリテも少し笑ってしまう。
「あ、そういえばなんですけど。別件でもう一つ聞きたいことがありまして。エスポワールという方の両親の家ってどこにありますか?」
「あぁ、それでしたらここですよ」
「「え?」」
「エスポワールは私の息子です」
「「えぇー!」」
確かに、いわれてみればどことなく似ている。
しかし、それならば話が速い。
「申し訳ないんですけど、実はとある料理を作ってほしくて」
「料理に関しては嫁が作ってますので、仕事が終わってからでもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
この後しっかり、お願いした料理を見せてもらい。それを味わって食べた。
一日泊めさせてもらい、その間いろいろな話を聞かされたパトリ。
四人は一緒に晩御飯を食べてたとか、畑に入って怒られたとか。それはもう色々。
「話に付き合わせて悪かったね。おかげですっきりしたよ。あの子たち仕送りとかはするけど帰ってこないんだもの」
「あはは、今度会ったら伝えておきますね」
「恥ずかしいけど、頼むねぇ」
「あ、あと最後に。先に子のジャガーもらっていいですか?」
「それでいいのかい?」
「はい、これじゃなきゃダメなんです」
「ならいいんだけどね。じゃ、また来ておくれ」
「わかりました!」
こうして、パトリとシャリテはアントワーヌを後にした。
あとがき
久しぶりのあとがきです。
いきなりで申し訳ないのですが、この作品はわりと一気に書いてることが多いです。ノリと勢いってやつです。ですので、誤字などありましたら、書いてもらえると、次読む人がというか僕がありがたいのでお願いします。
一方的ではありますが、あくまでお願いですので「しゃーねぇーな」くらいで受け止めてもらえたらと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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