第6話 食堂でオカンと呼ばれた僕が、依頼を受けた話
「いらっしゃ……いませ?」
いつも通り、営業していた時。見かけない四人が入店する。
かなり防具や武器を外しているが、大きな体、周りを為やつするような圧。すぐに冒険者だとわかる。
「おい、あれって……」
「あぁ、Aランク冒険者の『カドリフォリエ』だろ? なんでこんなところに」
カドリフォリエ、聞いたことがある。
F~Sまである冒険者のランクで、Aランク冒険者として認められた四人のパーティ。
男性二、女性二からなるパーティで、実力が高く様々な依頼を受けているとか。
そんな人たちが、なんでこんなところにいるのか少し不安だ。
シャリテが魔族ということもあって、かなり気が気ではないパトリ。
そんな四人は、テーブル席ではなくパトリの目の前のカウンターんに座る。
店内がピリつくのを感じる。
常連の冒険者はいつでもパトリのカバーに入れるように準備していた。
「ご注文はありますか?」
「いや、今日はちょっとし依頼があってね」
リーダーらしき大きな男が、優しい口調で話しかけてくる。
「君がここの店長のパトリ君で間違いないかい?」
「はい、そうですが」
「さっき周りの人が言っていた通り、僕たちは冒険者でね。君に依頼があってきたんだ」
「僕は一応料理人で、依頼なんて受けれるかどうか」
「大丈夫。君にしか頼めない事だから」
Aランク冒険者の方がからの依頼。正直何が来るかわからないため、少し冷や汗をかくパトリ。
それを感じ取ってか、シャリテも心配そうに見ていた。
「うまい飯をつくってほしい」
「んえ?」
思ったより、普通の依頼が来て間の抜けた返事をしてしまう。
「それだけ……ですか?」
「まぁ、それだけっちゃそれだけなんだが。あぁ、その前に自己紹介がまだだったな。俺はエスポワール」
ちょっと怖い顔をした体の大きい冒険者。
「私はフォワだ」
長髪が綺麗な冒険者。先程のエスポワールの次に身長が高く、パトリも少し見あがる形にはなっている。
「わたくしはジュテームと申します」
ショートカット冒険者。フォワとは違い、綺麗というより可愛らしいという言葉が合う女性。パトリと同じくらいの身長だが、大人びた口調で子供らしさを感じさせない。
「最後にオレっちは、ボヌール。よろしくな!」
すごく元気な冒険者。物凄く声が大きいが、わりと常連にいるタイプなのでパトリも安心する。
「俺たちの自己紹介も終わったところで、そろそろほかの客の警戒を解いてくれないか? これじゃ、落ち着いて話しずらい」
「あ、すいません。皆さん心配してくれてありがとうございました。もう大丈夫ですので、食事を楽しんでください」
パトリが常連に呼びかけると、やっとカドリフォリエに対して警戒を緩めていく。
その光景を目にして、エスポワールは少し笑う。
「愛されているんだな、この店は」
「わかりますか?」
「もちろんだよ。普通Aランク冒険者が来たら威圧されて動けないやつもいる。なのに、ここにいる奴らは格上相手でも臆していなかった。それだけあんたのことが好きなんだろうよ」
「お、わかってくれるかい? いい人なんだなあんちゃんたち」
常連のおじさん。エトワーが絡みに入る。
「ああ、オカン食堂と言われてるだけはある」
「ちょっと待ってください。オカン食堂ってどこで聞きました?」
「確かですが、ギルドの町案内掲示板に書かれていたとわたくしは記憶しています」
「おれっちも、そう覚えてるぜ。なんなら、ギルド嬢に聞いたらオカン食堂おすすめされたっす」
「あのギルドかァ!」
バジリスクの余った素材を売りに行ったギルド。あの時は気にしていなかったが、どうやら案内板にはオカン食堂と書かれていたらしい。
「それに、町の人に聞いたらオカン食堂ならあっちだよ。と、案内もされたと私は記憶している」
「町の皆さん⁉」
親しまれているのはとてつもなく嬉しい、愛されていることも分かっている。でもさァ! ここはパトリ食堂って名前なんだよね!
「諦めな、オカン。これは宿命か何かのたぐいだ、んでもって俺たちからの敬愛の証だ」
「その称号が、オカンってどうなんですか……」
「満場一致だよそれに関しちゃ、なぁ皆!」
エトワーは後ろを振り返り、他の常連に呼びかける。
それに反応して、笑いながら「オォー」と元気よく帰ってくる光景を見て、パトリは笑いながら頭お抱える。
そのやり取りを聞いていて、カドリフォリエは驚いた顔をする。
「君がオカンなのか?」
「まぁ、一応そう呼ばれています」
「オカンと呼ばれるくらいだからもっとご年配の方かと思っていました」
「あーまぁ、普通そうですよね」
自分より年下の男が、オカンと呼ばれているのは確かに違和感があると思う。
オカンと呼ばれる大きな原因があるのだが、まだカドリフォリエは知らない。
「それで、以来の方ですけど。うまい飯を作れですか……うちじゃなくてもいいのでは?」
「もっともな意見っすね。説明はジュテームにお願いするっす」
「任されました!」
こほん。と軽く咳しジュテームは説明に入る。
「わたくしたちは、自分たちでいうのもあれですけど有名な冒険者です。それなりに腕もたちますし、お金も仕事内容に応じてもらっています。なので、王都の色んな料理店に行きました。どれも美味しかったです……ですが、何にか足りないと思いました。これが飽きただけなのか、もっとおいしい料理を求めているのか、それがわからないから今は活動をやめて旅をしています。ですので、今回の依頼はおいしい料理というのはもちろん。わたくしたちを唸らせる料理を作ってほしい。と、いうことです」
なるほど、確かに難しい。普通の料理店なら。そう、普通の料理店なら難しいが、ここは普通の料理店ではない。
「わかりました。依頼をお受けします。期限はいつまでなどありますか?」
「そうだな……一週間でどうだ?」
「十分です。あ、あとその前に皆様は兄妹ですか?」
「いや、アントワーヌという辺境の村で育った幼馴染だな。それがどうかしたか?」
「いえ、少し気になったので」
確認したいこともできた。しかし、今回の依頼はさらに手の込んだことをしたいので、食堂を休みにしたい。
「すいません皆さん、一週間ほど店を休みます」
「オカンの料理を食べれなくなるのは悲しいが、今回ばかりは仕方ないか。それで、一週間後に来たらカドリフォリエさんたちと同じもの食べれんのかい?」
「まぁ、一応」
「じゃあ、文句ねぇ」
「それじゃあ、俺たちの依頼お願いします」
「わかりました」
こうして、パトリとシャリテは次の日アントワーヌに向かって馬車に乗った。
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