第4話 食堂でオカンと呼ばれた僕が、町の外に出かける話。
作業着を受け取った夜。早速、シャリテは仕事をし始めていたのだが……
「わっ――」
宙を舞う料理。つまずくシャリテ。それを即座にカバーするパトリ。
一回だけではない、十回以降は数えてなかった。
そう、シャリテはポンコツだった。
「次こそは、ちゃんとやる。です」
「うん……頑張ってね」
頑張ろうとする意志は、パトリも感じ取っていた。だが、それ以上に壊滅的なほどポンコツだった。
シャリテ歩けば絶対コケる。
幸いなことに、お客さんは笑ってみているし。シャリテのことを見て早々、ファンクラブが出来上がっていた。
だから、問題になることはないのだが。料理を運ぶことすらできないことに、シャリテ自身が絶望していた。四つん這いになりながら、燃え尽きた灰のようになっている。
「オカンいつの間に、天使なんて雇ったんだよ」
「今日からだよ。思ったより……いや壊滅的にポンコツだけど」
実際初めての業務だから、慣れてないだろうし。時間が空いたら出来るようになるかもしれない。
しかし、今日だけは別だ。
また、転びかけているシャリテを後ろから支える。
「あぁ、生きててよかったと俺は感じている」
「おお同士よ。あの天使を崇める会に入らないか」
「あぁ、ぜひとも入らせてくれ」
そんな声も、店内から聞こえる。
初日なのに、この食堂のマスコットキャラの地位を確実に確立した。
ゆっくりじっくり。二週間と言う時間をかけて、やっと仕事に慣れたシャリテ。
そんなシャリテは、とあることに気づく。
「パトリ休みがない!」
これは、シャリテにとっても驚きのことだった。
自分の父親ですら、週一回は休みを取っていたのに。休むことすらしないパトリは異常だ。
実際、客にい聞いても「確かに休んでないかも」など言っていた。
このままでは、身体を壊してしまう。恩人がそんなことになっては、シャリテとしても嬉しくない。
「パトリ!」
「どうしたの?」
「今日は休むぞ! です」
「わかった。どっか行くなら僕に言ってね。食堂にいると思うから」
「ちっがーう! パトリが休むのだ!」
「えぇ? 僕? 僕が休んだら、食堂動かなないよ?」
「なに、当たり前のことを言ってるのだ! たまには休んで体を休めた方が良いのだ」
パトリは、休むという感覚がどうにもわからないようで、首をかしげる事しかしない。
「それに、今日もお客さんは来るし」
「わらわが、今日は休むことを伝えてきたぞ! 感謝するがいい! です」
シャリテは先手を打っていた。常連の客に明日は休むことを伝え、服屋のお姉さんにお願いし、休めるように周りの声かを頼んでいた。
常連は、「天使のお望みとあれば」など言って去って行ったし、お姉さんも「休んでなかったのね……私も協力するわ」と言ってくれていた。
「だから、出かけるぞ」
「街の中なっていつも見てるから、代り映えしないと思うけど」
「大丈夫、街の中じゃない」
「え?」
「町の外に出よう」
街の外と中を区切る門の方向を指しながら、パトリの手を引く。
「わかったから、ちょっと待ってよシャリテ」
「なぜだ」
「戦闘経験なんてほとんど皆無の凡人が、準備なしじゃ死んじゃうって」
シャリテは魔族だが、パトリは一般人。めったに街の外に出ることなんてしないのだ。
とわ言っても、ここら辺はキャベツやレタスの魔物など、比較的弱い植物の魔物しかいないのでさほど準備はかからなかった。
「とりあえず、準備できたよ」
「なんだそのリュックは」
かなり大きめのリュックを指さしながらシャリテは問う。
「これ? これは素材回収用のリュックだよ。普通に取れるキャベツと魔物になったキャベッツだと、魔物化した方が美味しくて。なんで魔物化してるのかは、まだ明かされてないみたいだけど」
「そんなことも知らんのか。人間領で魔物が発生する理由だが、人間の使う魔法は精
霊から杖を介して使っている。自然界にあふれている精霊の力があふれ出して作物などに影響を与えやすいのだ。逆に魔族領は魔素があふれていて、動物に影響を与えてモンスター化するわけだ。そんなことどうでもいいから行くぞ!」
「今、学者も驚くレベルの話してたんだけど!?」
そんな話に興味を持たず、パトリをシャリテは手を引いて門を潜り抜けた。
「そういえば、なんで休暇なのに採取しに来てるんだ?」
「休暇なんて、何すればいいかわかんないからね」
少しでもパトリの息抜きになるなら、まぁ、いいかと思うシャリテ。
「ねー見てみて。キャベッツが飛んでる」
「あれぐらいなら、結構見つかるぞ」
イメージとしてはスライムに近い感じで、葉をパタパタさせて飛ぼうと必死になっている。可愛い魔物。
倒し方は単純でひっくり返して、芯の部分を刺せば絞めることが出来る。
基本的に害がない為、牧場で育てられているところもあるとか。
「ていうか、もっと奥行くぞ」
「もっとって、どこまでですか?」
「行けば分かる。乗り物も用意しておいた」
少し離れた所に止めてあるらしいので、そこまでついていくと。
「ド、ドドド。ドラゴン!?」
それはもう、立派な赤いドラゴンがいた。
「えっ? これに乗って移動するんですか!?」
今にも襲ってきそうなドラゴン。
固そうな赤い鱗で覆われていて、こちらをにらみつけているような気もする。
「大丈夫なのだ、こいつは調教してあるぞ」
その言葉に反応するように、グルルゥと唸るドラゴン。
「じゃ、じゃよろしくね。ドラゴンさん?」
「グルゥ」
「なんか、やけに機嫌良いな。です」
ドラゴンの背中は意外に広く、安定感もあり乗り心地はかなり良かった。
そんなことを気にしていたためか、パトリはさらに森の奥。魔族領に入っていっていることに気が付いていなかった。
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