第3話 食堂でオカンと呼ばれた僕が、服を選んだ話

「仕事なんだけど、今日からでいいかな?」

「任せろ。です」

「てか一つ聞いていいですか?」

「なんです?」

 

 そう最初から思っていたこと。


「です。ってとりあえず付けてるのか?」


 何と言うか、人間の言葉が下手だ。聞いた話によると、魔族と人間では言語が違うらしい。

 練習したんだろうが、つたなさが目立つ。


「人間の言葉難しい。です」

「まぁ、その見た目なら大丈夫だろ」


 ぱっと見十歳ぐらいで、あんまり言葉が上手くない子だと思われるだろう。


「ちょっとまて、わらわ何歳に見えてる。です」

「十歳ですよ」


 シャリテはワナワナし始める。


「わらわは、十六歳じゃー!」


 勢い余って変な語尾が消えているが、そんなことはどうでもいい。と、パトリは頭を振る。


「十六歳!? 嘘ですよね? そんな体形で十六歳なんて嘘だ!」

「貴様! わらわが密かに気にしていたことを!」

「ま、まぁなんにせよ。多分大丈夫だと思うけど、常連さんには僕の方から言っておくよ」

「魔族であることは、隠しておいた方がいいんだろ。です」


 どうやら感情が高ぶると、キツイ口調になって語尾がとれるらしい。


「まぁ、そうだね。魔族ってだけで面倒ごとになると思う。となると、その角だな」


 シャリテの耳の少し上から二本生えている角。

 これがある限り、魔族とすぐばれてしまう。

 魔族と人は、休戦しているとはいえ、現在進行形で戦争状態。そんな状況で、魔族がこんな場所にいるとなれば、大騒ぎどころではなくなってしまう。


「その角、布とかで隠すっていうのはだめかな?」

「強い魔法とかを使えなくなるだけ。です」


 幸い、シャリテの髪の毛は長い。

 パトリは、角の長さを大体図ると。上の寝室から、裁縫道具と布を持ってくる。


「何をする。です」

「カバーを作るんだけど、髪の毛をツインテールみたいにすれば多分ごまかせるかなって思って」

「なるほ。です」


 パトリはそう言いながら、手早く縫っていく。


「はい、出来た。ちょっと付けてみてよ」

「はっや」


 シャリテは、驚きのあまり語尾が取れてる。


「な、なんか……つけずらい。です」

「じゃ、僕がつけるね」


 角にかぶせる様にして、カバーを付ける。

 最後に、リボンで根元を止めれば完成。

 シャリテはぺたぺたと角を触っている。


「違和感ある?」

「違和感はある。です」


 パトリはシャリテに手鏡を渡す。

シャリテは気に入ったのか、触りながら何度も確認していた。


「これで、魔族ってバレずらくなったと思う」


 こんなところに、魔族なんていないと思うだろうし。多分大丈夫なはずだ。


「ただまぁ、それは置いておいて」


 シャリテの下から上へとじっくり観察する。


「汚いな……」


 長旅ということもあってか、髪の毛は砂ぼこりでボサボサ。服もボロボロだし、とりあえずお風呂に入れないといけない。


「出かける前に、まずお風呂入ってきてほしいかな」

「お風呂あるんですか!」

「う、うん」


 食い気味で反応するシャリテに、面を食らう。

 やっぱり女の子ということもあってか、匂いとか気になるのかもしれない。


「服は、お風呂出た後買いに行くから。僕の貸すからそれ着てね」

「わかった。です」


    〇    〇    〇


「お、おぉー」


 お風呂から出てきたシャリテは、控えめに言って綺麗だった。

 真紅の髪が腰まで伸びており、まだ少し水滴がついていて、キラキラと反射している。お風呂上がりで、頬が赤みを帯びている。パトリの服を着ているため、かわいさが半減しているが、もし服を買っい今以上に可愛くなるということ。


「可愛い」


 あまりの可愛さに、口からするりと零れる。


「な、なな。あ、当たり前だ! です」

「そ、それじゃ。僕は外で待てるね」

「わかった。です」


 その場から逃げる様にして、パトリはお店の出入り口へと向かうのだった。



「お待たせしました。です」

「大丈夫だよ」


 シャリテの髪は、すっかり乾いてたが、おそらく魔法を使って短時間で乾かしたのだろう。

 同じシャンプーなはずなのに、ちょっといい香りがすると感じてしまうのは、男のサガなのだろうか。


「今日は服買うだけ。です?」

「そうだね。私服三着と、作業服も三着欲しいかな」


 計六着を今日中には買いたい。作業服はパトリも買っているお店なので、あるとは思う。しかし、女の子の私服は見ていなかったので、どんなのがあるかわからない。

 それに、センスがあるわけではないので、似合ってるしか言えない自信がある。


 服屋につくと女性の店主が迎えてくれる。

「あれ? パトリちゃんじゃない」

「パトリちゃんはやめてよ、おばさん」

「お・ば・さ・ん?」

「お姉さんですはい」


 三十歳と言っても、十四歳離れてるのだ。正直おばさんのほうがしっくりくる。


「それで、お姉さん。本題なんだけど、この子の作業着と私服三着ずつ欲しいんだけど」

「作業着って食堂の?」

「そうだね」

「あら、人雇った……犯罪はダメよパトリちゃん」


 お姉さんは、シャリテを見ながら、パトリの肩に手をを置いてゆっくり優しく話す。


「ちょっと待って!? そんなことしてないよ!」

「なら奴隷でも買ったの? あんなかわいかったパトリちゃんの性癖が歪むなんて」

「ひどすぎでしょ! このおばさん!」


 なんで、シャリテを雇ったのかなどを一から説明し、それを面白そうにお姉さんは聞いていた。


「なるほど、行き倒れね」


 もちろん。魔族の部分は伏せて話しているので、ちょっと話に嘘を混ぜているが、仕方ない。

「それに、二年前の僕を見てるみたいで、ほっておけなかったんだ」

「それは……そうね。でも、まず大人を頼ってほしいわ。パトリちゃんはもう立派になったけど、心配してない人はこの街にはいないのよ」

「わかってるよ、お姉さん」


 元々食堂は、パトリの両親が経営しているものだった。

 しかし、二年前その両親が亡くなり、泣いているパトリを常連や町の人々は心配していた。

 それは、今でもだ。


「でも、大丈夫だよ。僕も立派なパトリ食堂の店長だから」

「立派になったわね。おばさん涙腺脆くなっちゃって、泣きそうだよ」

「自分でおばさんいっちゃってる。です」

「わかったわ! 新しい従業員のシャリテちゃんの服を用意するわ!」


 打って変わって、明るい雰囲気で話し始めるお姉さん。


「確か、十歳ぐらいのサイズもあったはず」


 そして、おもいっきりシャリテの年齢を間違えるお姉さん。


「すいません、お姉さん。シャリテ僕と同い年なんです」

「え!? 噓でしょ!」

「本当です。見てくださいシャリテの顔を」


 シャリテはいっぱいの涙を貯めながら、頬を膨らませながら、ぷるぷると震えている。


「ご、ごめんね! 大丈夫よ、若く見える方が得するのよ。私なんてもうおばさんなのよぉ」


 お姉さんは、お姉さんで嘆き始める始末。

 ここが地獄かもしれない。


「作業服は、どうにかなるけど。私服はパトリちゃんに選んでもらいましょうか」

「え! なんでですか!」

「当たり前でしょー。女の子の似合う服を選ぶのは、男の宿命よ。勇者になったら魔王を倒すのと同じぐらいね!」

「意味わかりませんよ!」


 そんなパトリの抵抗もむなしく、お店の裏側へ引きずり込まれる。

 そして、一時間以上拘束され。ひどくやつれたパトリが、歩いているのを目撃されたとか。いないとか。 


〇あとがき

~シャリテの服選び~

姉「清楚系の服装。布面積多いけど、その中でたまに見える生足!」

パ「かわ……いい!」

シャ「恥ずかしぃ」


姉「ゴスロリ衣装! 乙女の秘密を黒い服で隠しちゃう!」

パ「かわっ!」

シャ「はずいぃ」


姉「製作者不明!らんどせると言うリュックに、黄色い帽子!」

パ「こ、これは犯罪の匂いがします!」

姉「合法よ! 安心しなさい!」

シャ「はじゅかしい」


姉「ふざけてるんじゃないの?」

パ「いや、よく考えてみてください。こんだけかわいいのなら何着てもかわいいでし        ょ(真顔)」

姉「確かに(真顔)」

シャ「はじゅ……(赤面)」

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