第四章 電気室
さあ皆様、こちらが電気室ですわ。さっきの部屋と何が違うのか、きっと皆さま分からないでしょう? 見た目はほとんど同じですもの、それも無理はありません。でもある機械は、全くの別物。先刻の部屋は、優しい優しい
あなたたち、もたもたしていないで、早急に電気刑を始めなさい。
皆様、お待たせいたしました。それでは
十三号を電気室まで運んできた職員の一人が、慎重な手つきで護謨の手袋をはめた。高圧電流を流すため
部屋の外に出た職員は、
「ぐうぅぅ……」
高圧電流特有の弾けるような音が、小さな電気室の中に響き渡る。十三号の小さくくぐもった苦悶の声も。
もう、終わらせて。喪うのはもう嫌なの。置いていかれるのはもう嫌なの。それならいっそ、もう私を終わらせて……。
長いようで短い三十秒が過ぎ去る。電気刑は、別に
ああ、また、終われなかった……。
残念なような、安心のような。終末への羨望と、結末への恐怖。過去への強い憧憬と、なおも残る未来への期待。矛盾する様々な感情が、
「壊れたか?」
「いや、壊れてはなさそうだ。機械群のの
「でも動かないぞ」
「おい、十三号。電気刑は終わりだ。作業場に戻れ」
しかし十三号は、その言葉に反応することはない。ただ、その機械の瞳を一瞬、二人の職員に向けただけだった。無力感・絶望、そして自分自身の矛盾した感情への困惑。胸に去来する様々な感情に苛まれる十三号に、二人の職員に興味を向ける余裕はなかった。管理職員達は、その様子に気が付いて大きくため息をつく。
「結局今回もダメか」
「だな。もう何度目だ?」
「知らん。十を超えてからは数えてない」
「まあいいか。十三号、作業室に戻れ。もう一回電気刑にはなりたくないだろう。さっさと動け」
そういいながら、護謨製の手袋を着けた手で十三号の端子から導線を引き抜く。十三号は、今度は声を出すことも、管理職員のことを顧みることもなかった。何処か茫洋とした、幽鬼のような足取りで、電気室から出て行く。
私は、どうしたらいいの? どうして私は、終われないの? 教えて、
茫洋と、呆然と、浪浪と、十三号は、廊下を歩く。
あら残念、今回もあの
それでは皆様、本日の見学会、楽しいお時間も残念ながら、こちらで幕引きになりますわ。皆様、楽しんでいただけたかしら? 楽しんでいただけたのなら幸いですわ。さてさて皆様、お帰りはあちら……、あら、何かしら? 十三号と直接話したい? 駄目ですわ、駄目ですわよそんなこと。認められるわけありません。あら? 皆様もそうおっしゃるの? 十三号から始まった今回の騒動の落とし前は、十三号でつけるべきだ? 修理出来たらよかったが、結局修理できなかったじゃないか? もしこのまま十三号に会わせなかったら
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