第三章 調整室
皆様、こちらが調整室になります。皆様が
今から皆様にご覧いただくのは、そんな電気刑とは違い、壊さずに
「遅いぞ! 何をやっていたんだ、十三号、七十七号! 電気刑にされたいのか!」
機械に囲まれた無機質な部屋に、監督役の職員の怒声が響く。百九十号を悼んで、作業場に残っていた二人は、しかしその声に何も答えることはない。せめてもの反逆か、その深い絶望ゆえか。十三号は、うつむき気味にしていた顔を上げ、怒鳴り散らす職員に目を向ける。その眼の光に、その眼に宿る力に、押されたようにうろたえる職員。
「っつ、もういいっ! 早く調整台につけっ! 今日の調整過程を始めるぞ!」
人形達からは返事はない。ただ、電気刑という絶対的な恐怖を前に、人形たちはただ命令に従うことしかできない。自由意志を獲得した人形たちは、その自由を守るために、自由を捨てるしかない。所定の位置についた人形たちを見て、職員は満足そうに、その高慢さを示す独裁者のように、自らの地位が保たれることだけに固執する臆病者のように、その口を喜悦に歪めた。自らが気圧されていたという事実を、その気圧されていた対象を、自らの下だと再確認して。自分のことを、独裁を奏でる指揮者だと勘違いした職員は、仮初めの指揮棒を振るう。その手には何も持っていないことにすらも気が付かずに。しかし奏者達は、
仮初めの独裁者は、意気揚々と、
「うぁぁぁァァァァァァ。ガァァァァ。ガ、ガガガガガァ……」
「っく、
そしてそれに続く、苦悶に耐え、名を呼ぶ声も。十三号。予見はしていた。予想はしていた。
認めたくはなかった。そんなことないと思いたかった。十三号の鋼鉄の心に宿る感情が、それを認めることを、認めてしまうことを全力で拒んでいた。しかし、現実は
「
……。
十三号に応えるのは、周りの人形達の、小さな苦悶の声のみ。さっきまであれほど聞こえていた、七十七号の苦しむ大きな声は、すっかり聞こえなくなっていた。その代わりといわんばかりに、指揮者の怒声が響く。自分の陽気な指揮を邪魔された彼は、十三号に大層ご立腹のようだった。
「十三号ッ! 貴様、何をやっているッ! 名で呼ぶのは禁止だぞッ! 電気刑になりたいのかッ!」
「
しかし傲慢な指揮者の声は、十三号に届いてすらいない。奏者達は、独裁者を無視して、音を奏で続ける。十三号は七十七号の名を呼び続け、他の人形達は、それぞれが喪失に抗うために各々の闘いを続け、苦悶の声を奏でている。管理職員は、自分の手から指揮棒が離れていくような感じがした。もとから彼の手には、何も握られていなかったというのに。そのことにすら気が付かずに。ぎりぎりと、彼の手が強く握られる。
「電気刑ッ、電気刑だッ! 十三号、お前は電気刑に処すッ!」
しかしその声さえも、今の十三号には届かない。十三号はもう、心底から絶望してしまっていた。今までに、もうすでに。そこに今日のこの追い打ちだ。姉妹とさえ呼んだ人形達の、連続の死。もう、
その後も特に動く様子もない十三号を見て、我慢できないというように、管理職員は、部下に命じて、十三号を電気室に運ばせた。電気刑。
その様子を、心配そうに眺める
さあ皆様、どうでした? ご満足いただけました? この手法をやる意味は、ご理解いただけました? そうでしたら私、とっても嬉しいですわ。七十七号のように、
本当はここが最後の予定でしたけれど、
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