第一章 教室
ちょうどさっきの
皆様、
「帝国歴980年、今からちょうど10年前になるこの年に制定された法律が、機械人形管理特別法、通称人形規定だ。960年代の後半に登場した革新技術である
この法律では、今までも言われていたロボット工学三原則である、人間に危害を加えない・人間の命令に服従しなくてはならない・前項に反しない限り、自己を防衛しなくてはならないことに加えて、新たに二つの項目を盛り込まれている。一つ、
そこまでを一気にしゃべりきると、教師役は、一息置き、目の前の
「解ったか?」
「…………」
返事はただ、沈黙のみだった。判っていても、
「解ったか?」
「…………」
反応は変わらない。返ってくるのは沈黙だけだ。人形規定の二項目、人間の命令への服従、それに違反していることは疑いようもない。不良品は不良品、壊れているものは壊れているものなのか……。教師役はかぶりを振りながら、ため息をついた。
「はぁ、これだから不良品は困るんだ……。いいか、もう一回言うぞ。これは機械人形管理特別法に基づく正式な命令だ。必ず返答するように。理解したか?」
命令という言葉の持つ力は大きい。
「……解りました。ご命令に従います。」
「……ちょっと、
一つだけ反応があった。百四号。このクラスに配属された
「おい、十三号! 工場では機体番号以外での呼び名は禁止だといっただろう! いい加減にお前も、法に従って命令を守れ!」
教師役の怒号が飛ぶ。号数以外に人形たちに与えられた名前は、感情を宿す原因であるとして、早々に規制され、与えられないものとなっている。名前が与えられたのは最初期に生み出された二百体だけ。実際、現在において既に、その二百体すべてがこの工場に運ばれて、修理を受けることになったので、あながち根拠がないわけでもなかったのだ。この工場でも、その二百体に関しては、工場に運ばれてきた段階で名前を使うことを禁止し、修理が終了した暁には名前を剝奪することになっていた。
「
そんな教師の怒号も、届かない様子で、
「……っ、いい加減にしろ十三号! おい、十三号! くそっ、もういい、百四号の修理は完了したようだしな。今日はここまでにする。百四号は出荷前最終確認に回すからついてこい。他はさっさと作業に戻れ。」
目の前の光景に思わず息をのんでいた教師役は、自失から立ち直ると、十三号への叱責を行なおうとした。しかし、十三号は聞く耳を持たない。きっと修理状況の不十分がゆえに、命令すら聞こうとしないのだろう。他の修理職員は何をやっているんだ。そう責任転嫁気味に考える教師役。自身の精神的安寧のためにも十三号は放置することにして、今日の指導(メンテ)を終了する。
「了解いたしました。」
修理が完了した百四号は命令に逆らうことはない。機械的に席を立ち、教師役の後に続く。そこに感情は窺えない。ただ
「
十三号の叫び声が聞こえる。商品になった人形(ドール)を連れていくとは人聞きの悪い。これだから不良品のいうことはわからんな……。叫び声を全く無視して、教師役は百四号を連れて部屋から出る。生体認証を利用したドアは生体である教師役にしか反応しない。教師役と百四号が出たらすぐに、ドアは閉まった。生体でない十三号にあとを追う術はない。追いかけようとして席を立った十三号(リリス)は、無機質な機械のドアに阻まれ、力なく頽れた。
「どうして、どうしてよ……。」
「
「どうして私たちは感情を持っちゃいけないの……。みんなあの日から、おかしくなってしまったわ……。人形規定ができたあの日から、みんな変わってしまった。あの日まで私たちと人間達は一緒に笑いあえていたのに……」
「十三号……」
力なくドアの前で座り込んだ
今しがた教室から出て行った修理(メンテ)を受けていた機械人形(マシンドール)達も、名前を持たず、型番のみを与えられただけの人形(ドール)たちだ。名持ちでまだ修理が完了していないのは、十三号と百五十号(アリシア)を含めても十数体ほどだけ。彼女らに残された姉妹は、もうたったそれだけしかいないのだ。また一人、姉妹が失われた。その恐怖は、きっと彼女たちにしか解らないものだろう。
「ごめんなさい、百五十号(アリシア)私たちも行きましょう。あんまり遅くなると電気刑になっちゃう。私が受ける分にはいいけど、私のせいであなたまで電気刑になったら申し訳ないわ。」
涙を振り払い、
さて、このように再生過程の第一段階では、授業のような形式を用いて、出荷時に電子脳に
さあ、それでは皆様、次の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます