5.好奇心は猫を殺す話(R-15)

 前提として、彼らは実の兄弟であるが、互いに対する愛情は世間一般の物よりも、兄は深く暗く重いものを隠し持ち、弟は大きく高価で無邪気なものを惜しみなく注いでいた。これが世間一般から著しく逸脱しているのことを、兄は重々、弟はまあまあ理解していたが、それはそれとして、仲良し兄弟というコンテンツを作り上げて、世間には認知されていた。弟は兄が大好きで、兄といる時は弟味が増すという認知で。

 実際の日常生活でも、兄は弟に甘くて、なんでも提案を受け入れる、優しい兄貴だと弟は思っているし、どんな無茶でも、弟の提案を、兄は断らずに、受け入れるのだ。




 で。

 事の起こりは、弟の生真面目さが故であるのだから、彼らを知る人間であれば恐らく、ため息の一つを落として聞かなかったことにするだろう。

 弟が部屋でいくつかの撮影を終えた後。

 最近、ぽつぽつとコーディネーターからの案件が増えてきたのだ。

 あまり編集は得意ではないけど、自分が好きなゲームであったので、引き受けたのだ。

 まとめて撮影しようとセッティングした日に、兄が久しぶりに訪ねてきてくれたのだ。

 お前の誕生日が近いから、という理由で来てくれた兄は、現在、ソファーでウトウトと船を漕いでいる。

 目の前には、ビールの空き缶があり、弟は思わず笑顔になった。

 兄の移動手段は車だ。

 ビールを飲んだという事は、今日はすぐに帰らないという事だろう。

 気持ちよさそうにウトウトする兄を横にするべきかと悩みながら近づくと、兄の頭がゆっくりと持ち上がり弟を見上げた。

「あ、もう終わったのか?」

「うん、ごめん、またせた」

「いや…悪い、久しぶりに飲んだら、回ったわあ」

「俺、腹減った。兄ちゃんも食うでしょ?」

「食う喰う」 

 2人で出前を頼み、缶ビールを数本空けながらバラエティ番組をダラダラと見る。

 というのも、初めて出演依頼が来たテレビ番組なのだ。そこの共演予定の芸人をみるためだった。

 共演予定の芸人の名前の冠番組で、色々なネタに挑戦するという番組構成だ。

 兄弟は、柿の種をポリポリ食べながら、その番組を見る。

 放映時間は深夜に近いせいか、アダルトなネタが多かった。

 その中で、芸人のチャレンジとしてあげたネタに、弟が「へー」と食いついた。「男でも、乳首でイケるぐらいに感じるんだって」

「…まあ、性感帯だからな」

 兄はごく真面目にかえす。というのも、睡眠不足にめっぽう弱い兄に再び睡魔が忍び寄ってきていたためだ。

「気持ちいいのかなあ?」

「気持ちいいんじゃね?」

「兄ちゃんでやってみてもいい?」

「ああ……あ?」

 弟の言葉に兄は眼をぱちくりと瞬かせた。

 その言葉を言った弟は、ニコニコと実に楽しそうな笑顔をみせながら、両手をあわせて合掌する。

「ちょっとだけ、試しにさあ。おねがい」

 新作ゲームをちょっとだけやらせてよ、みたいなノリで弟が頼む。

 弟にとっては、アルコールによってちょっとだけ超えてしまった好奇心と悪戯心の両立であったが、兄にとってみれば、なんで弟に乳首をいじられなきゃならねぇんだ、というごく当たり前な感情が芽生えて来る。

 だが、弟にも弱いこの兄は、弟の「おねがい」を断る術をあまり持ち合わせていなかった。

 もちろん、弟はそのことを把握した上である。

「………ちょっとだけ、だぞ」

「やった!気持ちよくさせてあげるね!」

 実に嬉しそうに言う弟を見てため息を吐きながら、兄は自分からシャツを脱ぐ。完璧な空調のおかげで寒い暑いということはなかった。

「ほれ」

 兄はソファーにごろりと横になる。

 なんで夜更けに弟に乳首をいじられないとならないんだ、と思いつつも、眠気の方が勝ってくる。

 何もしなければ、このまま眠ってしまいそうだった。

「へっへっへ…覚悟しろよ」

「したした」

 兄の言葉に、弟はウキウキとしながら、兄の乳首にちょんと触れる。

 テレビで芸人がしているように、周りをなぞったり摘まんだりするが、兄のそれは色づくことなく、固くもならず。だが、兄はずいぶんと蕩けた表情をしている……と思ったら、ただ単に眠たいだけのようだ。

「ちょっと、ちゃんと起きててよ」

「…あ?…つか、お前、下手すぎんだろ」

「えー失礼だな!」

 少し不機嫌に弟は声を荒げる。

 兄はむくりと起き上がると、弟の顔を両手で包み自分の方へ引き寄せ、そのまま勢いのまま甘く口を食まれた。

「んんん!」

 くぐもった声で抗議の声を弟はあげるが、兄はかまわず、弟をむさぼる。

 眠たい兄の舌先はいつもよりも熱く、ねっとりとじらすようにサーチングをする。

 触れてほしい場所を軽く掠めるだけで、酷くもどかしい。

 寝ぼけているのか、それとも酔っているのか。

 兄の右手が、いつの間にかひたりと弟の胸の上に置かれていた。手のひらで強く円を描かれる、僅かに離れたかと思うと、布越しに優しく乳輪をなぞられ、背筋にと股間に快楽が僅かに駆け抜ける。

優しいなぞられを継続しながら、兄の足が弟の股間に割り込んできた。そのままいやらしい動きで股間を兄の太ももでこすられる。なんてことをするんだと声をあげたいが、食まれた口からは涎が垂れるばかりで、どうにもならない。こんな同時にするなんて器用じゃないか、と意識のどこかで思うのだが、左手が頬を離れてシャツの裾を掴むと、するりとたくし上げられ、右の乳首が空気にふれる。しかし、右の乳首に兄は触れてこなかった。左の乳首は相変わらずソフトタッチに乳輪をなぞり、時々、先端を掠めると言うのに。

 執拗に口腔を舐られ、股間を擦り上げられ、左の乳首も触れられているというのに、身後の乳首だけが、まるでイジメのように、何もされず、赤く色づいたまま、つんと光にさらされている。

 唐突に口が解放された。

 涎でべとべとになったが、互いに気にならない。

 頭がふわふわする。上気する頬、あがる息。

 それらが濃密に空間を満たし、微かに匂うアルコールに常識や理性が溶けて崩れていく音を、聞いた事にした。

「にいちゃん…さわってぇ…」

 理性を崩した言葉を弟は口にした。

 口さみしいと思いながら、弟は解放された唇から懇願を紡ぐ。「いじわる……こっちも、さわってよぉ…」

 ふるふると震える右手の乳首に自ら触れようとするのを、兄に止められる。シャツの布が乳首に触れ、思わず「あ!」と嬌声をあげた。

「残念、両手がふさがった」

 実に楽しそうに兄が言う。「感じたら、それでおしまいじゃねぇの?」

 心臓がうるさいぐらいに高鳴っている。最初に理性を崩したのは兄だった。アルコールのを言い訳にしているのも、兄だった。けど。

 弟は頭を軽く横に振ると「なめて…にいちゃん…ねえ、いじわるしないで!」

「しかたねぇな…」

 弟は兄に手首を掴まれながら、自らシャツをたくしあげる。何もされていないのに、赤く固く震える乳首は、兄の施しを今か今かと待っていた。

「ふうん…ほら、こっち触ってもいないのに、なあ」

「だから、はやく…!」

「うん」

 兄は意地悪く右手の動きと足の動きも止めてしまった。

「いや、ちょっと…なんで…!?」

「うん」

 言葉には答えず、兄は弟の顔を覗き込む。破裂寸前のような弟は、真っ赤な顔で震えるばかりだった。

 兄は満足げに笑いながら、弟の耳に口を近づけて、言葉を吹き込む。

「いいよ、燈、いってもいいよ」

「あ、ああッ……!」

 言葉だけで。その兄の色づいた言葉が全身を快楽なって駆け抜けた。力の抜けた弟の体を、兄はしっかりと抱きしめてやる。

 弟のはくハーフパンツは色を変えて、雄の匂いが部屋中に充満する。

「乳首どころか、言葉でいけたな」

 兄の言葉に「こんなの、反則じゃん!」と弟が泣きそうな声で抗議する。「なんだよ、さんざん焦らして!蛇の生殺しかよ!最低兄貴!」

「悪い、悪い」

 兄貴は抱きしめながら「お前想像力ありすぎ。変な奴にひっかかったらどーすんだよ」

「うるさい!うるさい!兄ちゃんだからだろ!他の奴なんかしらねーよ!」

 ぎゅうぎゅうと弟は兄の体をへし折らんばかりに抱き着いてくる。「俺、他人に舐められるの、キモイから嫌なんだよ!」

「…ッ…」

「え、にいちゃん?」

「…………………。」

「にいちゃーん?」

「………見るな」

 先ほどよりも濃く漂う雄の匂い。

 兄は真顔だが、真っ赤な顔で視線を反らし、弟はそんな兄の表情が珍しくて、先ほどの涙顔はどこへやら、にやにやと笑っている。

「なんだよーもう、おあいこじゃーん」

「なんだよ、あいこって」

「あーもー兄弟でくっせーなあ」

 弟は笑って「とにかく、汚れたから、兄ちゃん、一緒に風呂入ろう」

「わかったよ」

 弟の提案を、兄は断らずに、受け入れる。




2022.8.25  

2023.12.4加筆修正 

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