第6話 ノエノス・ラドルガ

「はぁーはぁー。」真夜中の森を走る足音と息遣いが聞こえる。


「くそぉぉぉぉ。こいつしつこい、しつこい奴は嫌われるんだぞ!」とか言って二つの大剣を振る女。何匹のモンスターを倒したかわからない。けどボロボロになりながら迷いの森で叫んだ。


あれは親狼が死んでいる傍ら、子供の狼を助けようと大熊の前に出たのがいけなかった。

見捨てれば良かったかと思ったが、そんなことができるほどの性格をしていない。


例えモンスターだったとしても子供を見捨てられない。

逃げても体力を失うだけだと判断して向かい合う。


「流石に限界かな?でも諦めない!妹のために!幻の薬草を持ち帰んるんだ!」そう決意して大きな熊に向かって大剣を振るおうとした。


その大剣は熊の固い皮膚に阻まれ折れてしまう。


「えっ!?」という声をあげて二つの折れた剣の柄を投げて、距離を取ろうとして、お腹を鋭い爪で刺された。


「ぐはぁぁぁ。」


「ぐぉぉぉ。」という熊の叫び声を聞きながら薄れ行く意識。


まだ負けないと腕に力を込めて、熊の腕を捻った。


「ぐぎゃぉぉぉぉ。」と痛さのあまり悲鳴をあげる。

腕を振り回し女騎士を投げ飛ばす。

そのまま大きな木に当たりダメージを負った。

逃げるように大きい熊は去って行く。


「ごめん、お姉ちゃんもうだめだ。」と大樹に寄りかかりながら涙ながらに病弱な妹のクロエのことを思っていた。

そこから立ち去る影が見えたような気がした。


テト、いや今は冒険者のヘイロンはこの街の通路を通り、辺りの様子を確認しながら街の外を目指していた。


「ちっこくて、弱いのに冒険者ならやめちまえよ。」


前にいたごろつきのを無視するように通り過ぎる。

日本人は回避能力に優れた種族らしく。前にいたくらいでは躱せないわけでもない。


時々ガンガンと鎧を殴る(鱗と言うべきか?)うるさい音が近くでする。

「なんだこいつ、攻撃がまったく効いてないぞ!」

「嘘だろう。」

「これでも食らえ!」

ボっという小さい炎の攻撃を受けるがまったく効いていない。


むしろ魔法の攻撃を受けたことで、〝魔法 ファイヤーボールを修得しました。〟

おおう、ごろつきも役に立つな!と感心したくらいだ。


そんなことを数分続けただろうか。後ずさるごろつき達。

「俺は逃げるぜ!」

「やってられるか!」そんな言葉が聞こえてくる。


「おい、お前等逃げるな。新入りにわからせるんだろう。冒険者なんて死ぬようなもんだって!」

一人リーダーらしき男が逃げずに踏ん張っているが・・・


逃げようとする雑音を振り払う様に殴り飛ばし、そいつ等から武器や防具を取り上げた。

それが一瞬のことで反応が出来ずに、リーダーの男はだらだらと汗を流して立ったまま気絶した。


「こいつ器用だな。」と言って肩を叩いて大剣だけもらっていく。



ショートソードを持つ、まぁ持てないことはない。ぎゅっと握れば割と握力がありそうだった。

カツアゲした冒険者の肩掛けベルトをして腰に剣を佩く。

少し冒険者らしくなったかな?とか思いながら外に出て行った。



なんだか森の前にやってくると、ぶるっと震えている女がいる。


なんだこの女は?よく見るとスミンと同じ格好をしたメイドのようだ。

ちょっとあほそうだ。失礼かな?


「どうしよう。どうしよう。」なんか困っている顔をしている。


「ミコミがお嬢様をハメたのが、あのいけ好かないスミンに見られていたなんて、う~ん悔しい、悔しい、完璧な計画があの女のせいでぇぇぇー、もうもう!」と手振りを交えながら、地面を蹴ったりしている。


そして何もないはずなのに、転んだ。


「うわぁぁぁー。」とか言いながら。

「ミコミは負けない!こんなことになってもミコミは負けない!スパイとしてスパイとして、兄弟を守るんだ!」とか燃えながら決意をしている。


鑑定をしてみる。


ミコミ

職業 ドジっ子面白スパイメイド(ドジを踏むがなんだか許されるスパイ。その理由が面白いからと言われている。)

スキルに悪運がついていたりする。


そっと同情するような顔を向けた。


「おい、お前、何さっきから見てるんだ!」月明かりの元なんだかえらぶって話しかけてくる。


カツアゲされているが、なんだろうか。さっき見た鑑定の結果が頭によぎり、全然恐くない。


〝なんですか?〟と聞いた。


「はっ!ちーん!」とミコミの頭脳が何等かの計算を弾き出し、使えると思ってしまい、にへらっと笑ってしまう。


「むふふふふ。おいお前、この森の中でノエノスお嬢様が迷子になっている。」

なんかすごく偉そうな態度だ。殴ってやろうかと拳を握るが、相手は一応ドジっ子スパイメイドそう思えば全然大丈夫だ。


〝なんだ。何か用か。〟その言葉に後退りそうになっている。


「頭の中にエイリアンがいる!」と人の念話をそう評価する失礼な奴だ。そもそも異世界にエイリアンなんているのか?


はっ!とかミコミは思いながら。

「相手はチビ、相手はチビ。」なんか言ってやがる。マジで殴ってやろうか?


「お前にノエノスお嬢様の救出を命じる。決してこんな暗い森が恐いからとか、一人がやだとかじゃない!ラドルガの領主からの命令だからな、ふふーん、ありがたく依頼を受けるんだな!」メイドが貴族じゃないはずなのに腕を組んで偉ぶっている。


なんか衝動的に拳がメイドの眼前で止まっていたりする。


それを視認していたのか。その風圧を感じて後ずさったからなのか。

「ぎゃあ殺されるー。」とか言いながら慌てて凄い速さで街に戻っていた。


走った後には砂煙が舞っていた。


「ああ、ああ。凄い濃いいメンツだな。」と声帯の練習をして声が出始める。

メイド二人がスパイとかとんでもない。


声帯をゲットしたと言うアナウンスが流れる。


「なんでもありかよ!」と簡単に声でツッコミを入れてしまう。


「まぁいい。」そんなことよりまがまがしい気配がさっきの森から感じている。

レベル差による威圧なのだろうか?その森に俺は足を踏み入れた。

まるで少し入っただけで迷子になってしまいそうな森だ。


〝マップ機能をゲットしました。〟

絶対このアナウンス俺で遊んでないか?そう思わずにいられない。


入って早々に何か大きなサルの生き物に囲まれている。

「様子を伺っているのか?こっちは戦闘の素人だと言うのに、警戒心が強いことだ。」


一匹に鑑定を向ければキルモンキーだってさ、レベル二十もあったりする。

ステータスも俺に及ばないが中々にあるようだ。


「さっき修得した魔法か、使えるか?ファイヤーボール。」手の上に火の玉が出る。

その炎はコントロールされたようにサルのモンスターに当たる。


「ぎょえあああああ。」とか言いながら倒れた。

なんかゲームみたいにドロップアイテムみたいな物が出てくる。

キルモンキーの肉とか。


周りを見ればサルの目が一匹やられたことで、戦闘態勢に入ったようで全員で襲い掛かってくる。


レベルが上がりました!


その瞬間に周りがゆっくりと見える。

サルの動きが事細かに見えすべての攻撃を躱した。


「ふむ、一気にレベル10か?」


ステータスも中々上がっている。一匹でこれならここにいるサルを全部刈れば・・・レベルがもっと上がるよね。


俺の目が赤く光った。


「ふははは、俺の経験値になれ。」俺の周りにはファイヤーボールが数多浮かび上がり追尾するようにサルたちに飛んでいった。


逃げようとするサルたちをまるで鬼ごっこのように追いかける魔法。


「さぁ鬼ごっこの時間だよぉぉぉ。」サルたちに取っては俺が鬼に見えたかもしれない。

若干小さい角が生えているから間違いではないかもしれない。


辺りには硝煙の匂いが立ち込める。

サルのドロップアイテムを回収しながら、焦げ臭い薬草なんかもアイテムボックスに入れた。


レベルも25くらいまで上がったりしている。

進化ボタンなんかもあったりするが大きくなるのがいやなので、押してない。


「食えんのかこのサルの肉?」と疑問に思い、そしてお腹が鳴る。

そう言えば何も食っていない。


仕方ないからサルからドロップして食えそうな肉を丸かじりする。

お尻とか顔の肉とか出て来なくて良かったと思ったりする。


「意外にいけるな。うんうん。もぐもぐ。いや、これは俺が竜だからか?まぁいいか。」


お腹が満腹になる。そこに近づいてくる気配を感じる。

敵意とかではない震える身体で、勇気を出して近づいてくる。

白がなんだか輝いて見える。まだ幼狼なのか。


鑑定すれば銀狼とか書いてあったりする。まだレベルも5くらいだったりしていた。

頭をかいてやる。警戒しないように手名付ける。

「非常食か?」そう言うとビクッとする。

「冗談だよ。」

そして何かを思い出したかのように、何かを訴えるように俺を引っ張ろうとする。


「?」なんだ?結構必死になって俺をどこかに導こうと。

ぱっぱっと走りながら森の奥へ進んでいき、俺はそれを追いかけて行く。


そしてなんだか血の匂いが辺りに充満している場所にくる。

そこかしこにドロップアイテムが落ちたりしていた。


ラッキーと思って少し拾い始めようとする。

「おん。」とこっちこっちと言っている子狼に急かされたら仕方ない。


連れていかれたそこに足を向ければ、大樹に寄り掛かるように腹から血を流す鎧姿の美女がいる。

きっとこのままでは死んでしまうんじゃないかと思うほどの血の量だ。


「どうしようか、俺はこう言うのは正直手に負えないぞ。」さすがに傷を治す方法を俺は知らないしそう言ったスキルを習得していない。


「あおん。」とか言ってどうにかならないか?とか聞いてくる。

「くっ!くっそ!」どうすればいいんだ。このままじゃ目の前の女が死んでしまう。


しかも鑑定すれば主人の姉のノエノス・ラドルガと出ているじゃないか・・・俺に刻まれたテイムの命令が助けろと言っている。


「助けて。助けて。助けてぇぇぇー。」とか頭に響いてくる。

まるでクロエがこの現場を見ているかのように声が届いて来る。


「うるさい、黙れ!今考えてるんだぞ!」

「回復魔法なんか使えないのか?」と念じるが無理そうだった。


〝回復魔法への適性がありません。〟

くっそ、なんかアナウンスさんにそう言われるとむかつくな!


「どうすりゃいいんだよ!」


そう言った途端に頭に声と画面が現れる。


〝ノエノス・ラドルガを眷属化しますか?〟


はいといいえから変わったYESのボタンが目の前に現れる。


えっ何これ?


「助けて助けて。」その間も声が響いていたりする。

取り敢えずなんでもいいとボタンを押してしまう。



〝それではキスの儀式をして眷属化を行ってください!〟


「はっ?はぁぁぁぁぁー。」という声をあげたが、なんだか身体が言うことをきかない。


「なぜ?なぜだ?」


〝それは貴方がテイム状態のため主人の命令を断ることが出来ません。〟


「あのクソガキ見てんのか、この状況!」


「なんなんだよこれは~!」とこうして俺は人生初のいや竜生初のファーストキスを体験してしまった。

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