815 相手の精神をドブに沈める

 比較的、爽やかな感じで終わった、飯綱ちゃんと相手側の先輩との前哨戦。


だが、それは嵐の前の静けさ。

試合が始まってしまえば飯綱ちゃんが、そんな優しい筈もなく……


***


 そんな感じのままで、無常にも試合は開始される。


『ボールトス』


今までの全試合では美樹さんが、これを行なっていた最初のボール争奪戦なんだけど、実は、これ自体が飯綱ちゃんにとっては全てがフェイク。


此処では、その張本人である飯綱ちゃん本人がセンターサークルの中に入る。

そして飯綱ちゃんの馬鹿げたジャンプ力が有れば、主導権を握る事は、なにも難しい事じゃない。


現に……



「なんやのん?ウチがチビやからって、そんな手ぇ抜かんでえぇのに」

「へっ?なっ……」

「ゴメンなぁ、悪いけどボールは貰うわな」


『バシッ!!』っと叩かれたボールは、私の元に飛んでくる。


瞬時に反応して、ボールを手にした瞬間。



「眞子師匠!!3P」

「OK!!イッケエエェエェェ~~~~!!」

「えっ?まさか、このパターンは……」


『パサッ』


よっしゃあ!!

一回戦で真上さんが見せた『オープニング3P』を、私も完全に再現する事が出来た。


……って言うかね。

今、私が打ったシュートの、この場所って、真上さんが一回戦のオープニングで3Pを放った場所と寸分違わず同じ場所なのよね。


あの時の真上さんの見せた体重移動から、放たれた後のボールの軌道。

更に、力の入れ具合を計算した上で、その自分との誤差を修正すれば、この3Pシュートを決める事自体は、そんなに難しい事じゃない。


ただ只管に、真上さんのコピーをすれば良いだけの事だからね。


まぁ伊達や酔狂で、私もベンチを温めてた訳じゃないんですよ。



「眞子師匠ナイス!!眞子師匠ナイス!!流石、ウチと、真上の師匠やね!!正確さが格段に違うわ!!」

「あっ、あの女が、あの女達の……師匠ですって?」

「ハァ~~~、イチイチうるさいわよ、飯綱。この程度の事で騒がないの。何処から打とうとも、ゴールなんて入って当然でしょ」

「なっ……」


そぉなんだよね。


飯綱ちゃんは、日本での練習の時、私の3Pを高く評価してくれていた。

それに、コピー技術の事も同じく買っていてくれていた。

だからこそ、今の今まで私を『秘密兵器』としてベールに包み、一切、試合に出さなかったんだよね。


それとね。

試合前に飯綱ちゃんが言ってた『秘策』なんだけど。

もぉ、今の段階でお解りだとは思うんだけど、こうやって『美樹さん』『飯綱ちゃん』『真上さん』よりも、私のバスケの腕の方が格段に上だと、相手に思わせる事自体が策なのよ。


そう思わせてしまう事によって、今まで『相手方が立てていた作戦を崩壊させる一手となる』って話。


故に此処では、ちょっと偉そうな意地悪眞子で、みんなに対応しなきゃいけない訳ね。



「そやけど、師匠。完璧な3Pでしたよ。惚れ惚れしましたわ」

「もぉ、そんな終わった事は、どうでも良いから。早くディフェンスについて、私にボールを廻しなさい。全部ゴールに入れてあげるから」

「解りました。任せて下さい。……真上、ドンドン取って行くで」

「あぁ、はい」


これでまずは、相手の精神的なペースを崩した。


なので此処からは、1度も相手にイニシアチィブを渡さず。

無慈悲な鬼の心になって、容赦なく得点を重ねて相手を畳み掛けるだけ。


……っで、試合再開。

此処でも真上さんのパスをカットする能力が早くも発動。


相手方の二回目のパスで、あっさりスティールを敢行した。


そして奪い去った直後には……



「あっ……」

「真上!!そのまま3Pに行きなさい!!」

「あぁ、はい」


『パサッ』



「そっ、そんな、ボールを奪った直後だと言うのに、あの場所からの連続3Pだなんて……」


この後も、相手方が点数を入れても、絶対に3Pを打たせない布陣でディフェンスに付き。

こちらは真上さんと、私とで徹底的に3Pを入れていく。


それが例え、飯綱ちゃんがゴール下までボールを運んで行ったとしても、必ずバックパスをして3Pのみを入れて行く。


前半だけで3P13本で39得点。

これだけで相手方は、その隠せない動揺からリズムを完全に崩して、多くのシュートを入れる事も出来ずに6本で12得点。


得点差は、早くも27点差になっていた。



『ピッピッピィ~~~』


そこで前半終了の合図であるホイッスルが無情にも鳴り響いた。



「こっ、こんな事って……」


完全に項垂れる相手方の先輩の人。


そこに飯綱ちゃんは、無常な言葉を吐いて、無慈悲にトドメを刺しに行く……まさに勝負鬼だ。



「なぁなぁ、綺麗なおネェさん。ウチなぁ。昨日一晩、色々考えてんけどなぁ。アンタ、試合に負けたら、此処でストリップしてなぁ」

「えっ?」

「外人さんの本場のストリップってもんを一回見てみたかったから、ほんま楽しみやわぁ。ふふっ……」

「ちょ!!ちょっと待って下さいませ……」

「待てへんよぉ。アンタ、あの約束をした時、自分の口で『なんでもする』って言うたやんなぁ。それにほらほら、その証拠に、アンタが書いた書面もあんでぇ。そやから今更、あの約束は反古には出来ひんよ……それがどんな要望であってもな」

「ちょっと!!そんな理不尽な!!お願いですから……」

「知らんね。まぁ、精々、そうならん為にも、後半戦で挽回出来る様に頑張るんやね。ふふっ……巻き返されへんかったら、公衆の面前で、おっぱいポロ~~ンやて。ぷぷっ、アホや。ほんま笑かしよんなぁ」

「あっ……あぁ……」


これで少しは残っていたメンタル面も、完全に崩壊させちゃったね。


これは、何でもそうなんだけど。

特に勝負事をしてる最中に、冷静さを欠いた人間からドンドンと消えていく。

そこに+α、その精神を崩した相手を、徹底的に深みに嵌めてドブの底まで沈める。


これも勝負の掟。


この事からも言える様に……この先輩さんは、飯綱ちゃんを相手にするには、まだまだ精神的にも技術的にも力不足だった。


相手としては悪過ぎたんだろうね。


なにせあの子は、事、勝負事に関しては百戦錬磨の鬼だからね。


でも……相手の先輩さんは、お嬢様っぽい人だから、ちょっと可哀想な気もする。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


……鬼……まさに鬼。

敢えて眞子を師匠と言い、まずは相手の作戦を全て破綻させ。

その上で、点数を取り合う展開にしながらも、コチラ側は眞子と真上さんで3Pだけを決めて行き。


点差だけをドンドンと広めていく展開。


まぁまぁ、中々こう言う展開って作れるものじゃないんですが。

精神的に追い詰められた相手と言うのはミスをしやすくなりますし。

なにより、それが司令塔である人物が動揺してしまっていたら、もぉ相手の思う壺に嵌っちゃうしかないんですね。


それ程心理面と言うのは、試合に影響しやすいものなのですよ。

(但し、技術面も、当然高くないと出来ませんがね(笑))


さてさて、そんな中。

今の状態でも、ほぼほぼ相手の負けは確定した状態なのですが、この程度で終わらないのが飯綱ちゃん。


なので次回は、更にその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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