811 忘れて欲しいと言う気持ち
試合後、叱咤されてる相手チームのメンバーを庇いながらも。
その後、その説教している先輩に対して、またおかしな賭けを持ちかけた飯綱ちゃん。
そんな事をしながらもホテルに戻って行った訳なのですが……
***
……っで、今日一日目の2試合を、完全な勝利を納めた後。
少し高級なホテルに戻ってから、みんなが、試合で『汗を流そう』って話になり。
昨日同様ホテルの大浴場にゾロゾロと行って、みんなで体を洗いっこなんかしながら、湯船に浸かり。
風呂でゆっくりとした時間を過ごす。
でも私自身は、特に試合に出た訳じゃないから、まったく汗を掻いてなかったりするんだけどね(苦笑)
まぁまぁ、そんな事がありながらも、その後は各々自由時間。
その間、美樹さんは、またしても、どこかにお出掛けの様ですが、私は只今、ホテルの自室でお寛ぎ中でございます。
でも私、この状態で思える事は、たった1つだけなんだよね。
……本当に私、なにしに来たんだろね?
これじゃあ役に立ってないどころか。
人のお金でホテルに泊まって、3on3の観戦をしに来ただけなのでは?って言う嫌な風の噂が……
なんて、1人で悲しく疑問に思って居たら、突然、ある話題が浮上した。
「あの……向井さん。お時間を、少し戴いて宜しいでしょうか?」
……っと、部屋割りで、同室になった真上さんが話し掛けてきた。
なんの前触れもなかったけど、突然、なんだろうね?
今日分の試合が終わったから、真上さんも退屈してるのかなぁ?
「あぁ、はい。なんでしょうか?」
「あの、こんな時に、こう言うお話をするのは、自分でもどうかと思うのですが。向井さんは、倉津さんが、何所で行方不明になられたか、ご存知なのでしょうか?」
うわ~~~っ、なにかと思ったら、それって、心底聞かれたくない嫌な質問なんだけどなぁ。
でも真上さんは、明らかに、あの大馬鹿者の真琴ちゃんの事を心配してくれてる様だし、なんか、取り敢えずでも、真琴ちゃんの情報を話さなきゃね。
もぉ嫌だなぁ……真琴ちゃんの事なんか、全く持って思い出したくもないのになぁ。
「あぁっとですね。私の知ってる範囲で良ければ、お話しますが」
「あぁ、突然の、おかしな申し出をして申し訳ありません。あの、ですが出来れば、教えて頂いて宜しいでしょうか?」
「勿論、構いませんよ。私の知ってる情報では、真琴ちゃんは、去年の12月25日に、1度奈緒ネェの家を訪れてますね。その時は、なんらかの用事で帰国していたらしいんですけど。……その翌日から、奈緒ネェにも、なにも言わず、突然、消息不明。現実的な話で言えば、日本に居るのか、アメリカに行ったのかも、なにも解らない状況なんですよね」
「そうでしたか。……ですが、向井さん。どうして、倉津さんがアメリカに行かれたのではないかと感じられるのですか?」
「あぁ、その辺に関しましてはですね。崇秀からの情報なんですよ。25日の帰国は、急遽予定が入ったからの帰国だったらしくて、真琴ちゃん自身は、まだアメリカには沢山の用事が残してたらしいんですよ。……ですから、アメリカに『居る』『居ない』は、所詮、可能性の問題なんですよね」
もぉ、これで勘弁して下さい。
実際の話で言えば、私の中では『倉津真琴』は、もぉ存在して欲しくない忌むべき存在なんですよ。
寧ろ、皆さんが『一早く、綺麗サッパリ忘れ去って欲しい』とさえ思ってる次第なんで。
そんなどうでも良い事なんで、此処は、余り深く追求しないで下さい。
「あぁ……確かにそれだと、中々、倉津さんを見付け出すのは難しそうですね。アメリカと、日本の両方を探すのでは、余りにも範囲が広過ぎますもんね」
「まぁ、そうですね。……って言いますか。皆さんに、こんなに多大な、ご迷惑を掛けてるって言うのに、一体、何所で何をしているんでしょうね」
「あぁ、いえいえ。私は、迷惑だなんて思っていませんよ。きっと倉津さんにも、なにか深い事情があるんですよ」
真上さん……ヤメテ。
そう言う解釈はしないで下さい。
「……だと良いんですけどね。なんて言いますか。真琴ちゃんって、元々チャランポランな人間なんで。私としては、逆に、また何処かでロクでもない事でも仕出かしてないかが不安ですね」
「えっ?そんな事はないですよ。倉津さんは、平気で人に迷惑を掛ける様な方じゃ有りませんよ。きっと、皆さんに言えない様な深い事情が有るに違いありません。そう言う方ですから」
「あぁでも……どう考えても真琴ちゃんだし。あまり信用は置けないですね」
「そう言わずに、倉津さんを信じてあげましょうよ」
「あぁ……」
信じたくないですね。
第一ですね。
あんな男は、信用に足りる人物じゃないですよ。
だから、真上さんも、早急に忘れて下さい。
「それにしても、本当に何所でどうされているのでしょうね?私は、また早く倉津さんに、お逢いしたいのに」
あの……悪意が無いのは、重々にして承知の上なんですけどね。
真上さん……本当にヤメテ下さいね。
下手に、これ以上言われたら、つい、本当の事を言ってしまいそうなんで。
でも、不思議だよね。
なんで真上さん程の人が、アイツの事なんかを、此処まで心配してくれるんだろうね。
そりゃあさぁ、アイツと、真上さんは、色々な時間を共有したとは思うけど。
真上さんに、そこまで想って貰えているのには、正直言えば、ちょっと理解に苦しむなぁ。
「あの……王家さん。王家さんは、どうして、そこまで真琴ちゃんの事なんかを心配して下さるんですか?」
「理由なんてないですよ。ただ私個人としましては、倉津さんと一緒に居て、楽しい時間を沢山共有させて頂きましたので。また、ご一緒したいなぁって思ってるだけなんですよ」
「あの、親戚の私がこう言うのも、なんなんですが。真琴ちゃんは、王家さんが思う様な良い人間じゃありませんよ。どちらかと言えば、社会に多大な迷惑を掛けてる事の方が多い人間なんですよ」
「そうでしょうか?私は、倉津さんは良い方だと思いますよ。……ちょっとシャイで、言いたい事も言えなかったり。意外な程に真面目な方で、なんでも真剣に取り組む。私は、そんな方が悪い方だとは、決して思えませんが」
あの、多分ですね。
多分なんですが。
アイツが、なんだかんだと上手い事を言ってたと思いますけど、あの男は、真上さんに対して『凄い下心が有った』と思いますよ。
実際、真上さんと逢ってる時、自分の彼女である奈緒さんを忘れる様な情けない節も多々あったみたいですしね。
なので余りアイツに関しては、良い様に捉えない方が良いですよ。
所詮、自分1人じゃ、なにも出来無いダメ人間ですから……
「王家さん。それは、あまりにも隙が多過ぎます。そんなんじゃあ、いつか悪い男に騙されますよ」
「そうですね。それは、よく言われます。ですが騙す方も、最初から騙そうなんて思って、相手に近付いて行かれる方なんて居られないと思いますよ。偶然が、悪い方向に重なったに過ぎないんじゃないでしょうか?それに、もし、最初から、そう言う気持ちを持たれてる方が居られるとしても。倉津さんは、決して、そう言う間違った事を考える方じゃないと思います」
違うと思うんだけどなぁ。
第一アイツなんかが、そんなに良い奴な筈が無いだけどなぁ。
元本人が言うんだから、絶対に間違ってない筈だしね。
「あぁ、でも、王家さん。王家さんは、女の私から見ても綺麗な方だから『騙す』『騙さない』は別としても、真琴ちゃんにも、そう言う気持ちがあったかも知れませんよ」
「それは仕方有りませんよ。男性が、女性を求める事は自然の摂理ですから。そう思って頂けたなら、それはそれで良いと思いますよ」
うぅ……ダメだぁ。
出来るだけ真上さんには、アイツの事を忘れて貰おうとして、アイツの欠点や真実を言っても、そう簡単には聞き入れてくれない。
まぁ真上さんは、生まれついての慈悲に溢れた女神みたいな人だから、これは仕方がない事なのかもしれないけど。
でも、だからと言って……
「あの……正直言いますとね。王家さんは、真琴ちゃんなんかと関わちゃダメなんじゃないですか?大体あの子はヤクザなんですよ」
「知ってますよ。……ですが。やくざの方は、お友達を作っちゃいけないんですか?私は、そうじゃないと思いますよ」
「そうですけど……」
「それに大事な事は、そんな世間体や、メリットや、デメリットなどの話ではなく。相手が心から求められるている事に、自身が気付けたのであれば、私は、そのお手伝いが出来たら良いと思いますし。……おかしいですか?」
「……もぉやめて下さい……」
「えっ?」
やっぱり、どう考えてもダメだよ。
真上さんは生粋の良い人なんだから、真琴ちゃんなんて言う屑人間の事は、今後の為にも、もぉ綺麗スッキリ忘れた方が良い。
アイツは……アイツは……真上さんにそんな風に思って貰えるだけの価値なんて、どこにも無い様な屑人間なんですから。
そうやって私は、自身でも気付かぬ内に『必死になって真上さんの中から、真琴ちゃんの存在を完全に消そう』としていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
突然、ややこしい話が持ち上がってしまった様なのですが。
此処がアメリカで、倉津君の行方を心配してる真上さんがそこに居れば、こういう展開にも成り得るかなぁって思い、今回のお話を持って来てみました。
まぁ、今の眞子にとっては、あまり良くない話ではありますので。
どうしても倉津君を否定したくて、この様な言葉ばかりを吐いてしまってはいるのですが。
矢張り7カ月もの間、苦労しながらも眞子として生活をしてしまっているだけに。
『自身の過去を清算したい』その上で『眞子としての存在を真上さんに認めて欲しい』なんて気持ちに成り、必死になってしまっているんでしょうね。
まぁこの行為の良し悪しは別としても、解らなくはない心境だとは思いますです。
さてさて、そんな中。
どうしても、そんな風に倉津君の存在を消したい眞子は、この後も真上さんの説得に当たるのですが。
果たして、それは上手くいくものなのでしょうか?
次回は、その辺を書いていきたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます