810 ねちねち
一回戦は、完全に相手も観客の皆さんも飲み込み勝利した眞子達のチーム。
それ故に、盛大な拍手の中、試合会場から立ち去って行くんだけど。
その後、飯綱ちゃんと共にトイレに向かっていると……
***
そんな風にトイレに行く途中の廊下を歩いてるとね。
さっきウチのチームに惨敗を喫した選手の人が、廊下の床に正座させられていた。
一瞬、何事かと思ったんだけど。
この様子から見て、先程の惨敗を、なにやら先輩の方に怒られてるみたい。
その上、ネチネチと説教されてるみたい……
うわ~~~っ……これって、私の嫌いな『体育会系の独特の乗り』だぁ。
みんな、こう言うのを、よく我慢出来るよね。
「アナタ達、解っておられるのですか?アナタ達は、あんな無様な醜態を聴衆の前に晒して、伝統ある我がファラリス女学園の名前に泥の塗ったのですよ。この責任は、どうお取りになる、おつもりなんですか?」
「せっ、先輩、すみません。まさか、あんな常識外れな伏兵が居るとは夢にも思いませんでしたので。すっ、すみません」
「そんな有り触れた言い訳や謝罪は結構です。私が言いたい事は、そう言う事じゃありません。もしアナタ方に、まだ自分を恥る心が有るのなら、即刻、我がバスケ部を退部なさいな」
「そんな……高々3on3の試合じゃないですか。遊びで出場しただけの大会だから、公式の試合ですらないんですよ。この負けは、私達ファラリス女子の敗北の記録には残りません。……だから、許して下さい」
「そんなの関係有りません。こんな公衆の面前で、あんな無様な大敗を喫したアナタ方が、我が部の人間だと世間に知れ渡っては、ファラリス女子の名が穢れると言ってるのです。それが解ったのなら、さっさと荷物を纏めて学園から去りなさいな。それが当然の処置と言うものです」
「そんなぁ。私と、ジャネットは特待生だから、バスケを辞めたら学校を追い出されてしまいます。どうかお慈悲を」
あぁ……去年の準優勝のチームだけあって、さっきのチームはバスケの名門校なのね。
それで、あの2人は、その学校のバスケの特待生だったんだぁ。
まぁまぁ、確かに、さっきの試合はコチラ側の一方的な試合に見えたかも知れないけど、あれって実は、飯綱ちゃんが試合前に放った言葉や、審判さんのジャッジが相手方の心理に大きく影響を及ぼした部分が多いとも考えられる。
それを顕著に表す為に、試合が始める前から飯綱ちゃんがイニシアチィブを取り、相手の動揺を上手く誘った。
その上で、オープニングから真上さんのセンターサークルからの『3P』に始まり。
飯綱ちゃんの連発する曲芸的なダンクシュート。
美樹さんの豪快かつ魅せるダンクシュートや、上手いフックシュート等で、どんどんと相手心理を追い詰めた結果。
今、廊下で正座をさせられてる選手の人達は、多分、普段から比べれば半分の力も出せない心理状況に陥った。
だから、もし彼女達が動揺する事なく普段通りのプレイしていたら、もっと緊迫した良い試合になっていたんだろうとも思う。
そう考えると……なんか可哀想だね。
「なぁなぁ、そこの綺麗なおネェちゃん。そんな意地の悪い事言うたらんと、もぉ許したりぃやぁ。1試合負けたぐらいでクビにするんは、ちょっとないんちゃうかぁ?」
あぁ……やっぱり行ったかぁ。
相変わらず、素早いなぁ。
まぁ、飯綱ちゃんの心境としたら、さっきまでは、例え、敵同士だったとは言え。
今は、同じバスケが好きな人間同士でしかないから、そう言う理不尽な行為が許せないんだろうね。
「アナタは、先程の……」
「あぁ、ウチは飯綱ね。そんな事よりやなぁ。アンタ、そんな酷い事言うたりなや。この子等かって一生懸命頑張ってやってんから、そんなん言うたらアカンで。それに仲間とちゃうのん?」
「「おまえ……」」
「ふん、ご冗談を……この様な無様な負け犬は、校内で見た事すら有りませんわ。故に、わたくしの仲間ではありませんわ」
「ふ~~~ん。そうなんや。ほんだらアンタも、この子等同様の負け犬にしたるわ。ほんだら、この子等とも仲間になれるんやろ?負け犬同士で仲間って、なんか可愛いね」
「なっ!!わたくしが、アナタに負けるですって?くくっ……冗談にも程が有りますわ。あんな大雑把なプレイで、わたくし達に勝とう等とは、お笑い種もいい所ですわね」
「言うたね。……ほんだら、もしアンタが負けたら、ウチに何かしてくれるん?」
「なんでもして差し上げますわよ。但し、アナタが負けた場合、試合終了後、その場で土下座をして謝罪して頂きますが、それでもよろしいかしら?」
「えぇよ。そんなんでえぇんやったら、なんぼでもしたるわ。その代わり、ウチ等が勝ったら、アンタは、なんでもウチの言う事を聞いてくれんねんね」
「当然です。勿論、わたくしに2言はありませんわ。まぁ、そんな馬鹿げた事態は、絶対に起こり得ませんがね」
「そうか……ほな、一応、書面に記しとこか」
「宜しくてよ。……アナタが無様に、地面に這い蹲る姿が楽しみですわ」
「それわ、それわ」
あぁ……何をするのかと思えば、またヤクザの事を始めたなぁ。
それに間違いなく、書面に書かせるって事は、なにか良からぬ事を考えてる証拠。
飯綱ちゃんって、本当に勝つ為には手段を選ばない子だからなぁ。
豪い事にならなきゃ良いけど……そう思いながらも飯綱ちゃんと、その場を去っていく。
そしてその際に、一応は、さっきの行動が、どういうつもりなのか確認してみる。
「ちょっと飯綱ちゃん、あんな無茶な約束をして大丈夫だったの?」
「あぁ、そんなん全然大丈夫やで。寧ろ100%大丈夫やって。あの子等との試合は、真上と、ウチと、眞子が先発で出たら100%勝てる相手やよ。あぁ言う類の人間は、逆境に立ったら、得てして弱いもんやからね。ふふっ……これはまた面白なってきたわ」
「あの、飯綱ちゃん……なんか、ロクでもない事を考えてない?」
「当然、考えてるで。えぇか眞子?勝負事いうのはなぁ、勝ってなんぼなんやで。勝つ為なら、どんな手段も選べへんのがウチの主義や。それになぁ、眞子との生活費も此処でガッポリ稼がなアカンやろ」
「あぁ……まぁ……そうだけどね。程々にね」
「わかったわ。ほんだら眞子の言う通り、ウチの中での程々にしとくわな」
うぅ……非常にヤナ予感。
……って、そんな事より私、その試合のスタメンに成ってるみたいなんですけど!!
そんな大事な試合に、ヘッポコな私なんかが出場して大丈夫なの??
***
……っで、この後、少し時間が開いてからの二回戦があったんだけど。
別に大した相手でもなかったみたいで46:17と言う、我がチームが誇る圧倒的な攻撃力を持ちまして圧勝しました。
これで本日のバスケの試合は終了。
だけど……私は、結局なにもしていない。
……なんかベンチのシートが、私の体温で、やけに温かいね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
試合では敵同士なのは当然なのですが。
そこから離れてさえしまえば、それはもぉバスケを愛する同志でしかない。
飯綱ちゃんは、その辺をシッカリ弁えている様なので、正座させられてる子達の助けに入りましたね♪
まぁただ、例えそうであっても、ただでは動かないのが飯綱ちゃん。
助けた序にチャッカリと、ロクデモナイ約束を交わしたみたいですね(笑)
あれ……一見したら、公平な約束に見えるんですが。
例え負けても飯綱ちゃんは、その場で土下座をするだけであって。
『特に、その辺をなんとも思わない飯綱ちゃん』には、何の効果もないのですが。
あの相手方のお姉さん。
飯綱ちゃんが勝った時の条件に付いては、特に何も聞いておらず。
『なにをさせられたものか解った物じゃない』って部分には全く気付いてないんですよね。
まぁ本人は勝つ気満々なんでしょうが……いやはや、いやはや。
さてさて、そんな中。
この後は、明日の試合に向けてホテルで休憩……っと言った所なのですが。
此処で同室となった真上さんから、とある質問をされるのですが、それが切欠に成って……
なんて感じのお話を書いていきたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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