第52話

「おはようございます」

「健吾おはよう」

「俺一番最後ですか?」

「いや今日は昂も来る筈だぞ。そうだろ剛」

「はい大河さん。あっ来た来た」


 噂をすれば影とは言ったもので、健吾の背後からポテポテと歩きながらこちらに来る戸乃立が視界に入る。そんな彼も間もなくして皆の輪に加わった。


「では行くか」


 自分が初動の声の声を上げる。それと共に、後輩の4人が続く。今日はいつもより早くバイト先へ向かうと、既に管理棟の窓が開けられていた。どうやら米内は既に出勤しているようだ。自分等は一回目配せをすると、棟内に入り事務所の前へと立つ。そしてドアを叩きくと中から米内の声が聞こえ、自分達は室内へと入る。すると、椅子から立ち少し驚いた表情を浮かべこちらを見つめる米内の姿があった。また、昨日の今日のせいか、そこはかとなく哀愁が漂う。そんな彼が自分等にソファに座るよう促し、米内も椅子を持ち出し同じ机を囲む。


「どうしたんですか皆さんして? しかもこんな早くに」

「米内さん。昨日は一番の古株である自分が取り乱してしまいすいませんでした。米内さんもあの内容の話で話しにくかったでしょうに」

「い、いえそんな。私の方こそ、何の力なれない平社員なものですから、こんな結果になってしまって」

「そんな事ないです。米内さんは自分等の一番の理解者ですし、烏滸がましいですが、戦友みたいな感じですから」

「そうですか…… そう思ってくれてるんですね。うれしいです」


 その言葉に米内の顔が綻び、自分達もまたそれにつられ笑み浮かべる。そんな中、自分は数枚にまとめた用紙を机の上に置く。


「米内さん。あの話の後皆と色々ここの事について話をしたんですが、自分達に出来ることをやろうという結論に達しました。つきましては、可能な範囲で自分達も機械や、備品の修理、保全ができるようになれば、今現在の予測された最長5年よりは存続させることが出来るのではないかという話になったんです。とりわけ、戸乃立と茂宮はR大という事で理系が強い大学に在籍しています。戸乃立に至っては機械工学が専攻なのでメカについてはどうにかカバー出来ることが多いかと。なのでメンテナンスをちゃんとすれば使えない機械ではないと思いますがどうでしょうか?」

「成る程。それはそですね。ある程度のメンテナンスの仕方は私も立ち合ったりしてますのでわかりますし」

「なので、後は設備棟の機械についての説明書があればですが、今はネットがありますので調べがつくかと」

「分かりました。私の方で説明書の類は探してみます」

「後、自分達は、プールの塗装の禿の確認、サイドのメンテなんかを重点的と思っているんですが、その辺りは、米内さんも日常的にやっていらしたりしてますか?」

「そうですね。私も常日頃から携わっていますので詳しく教えられるかと思います」

「良かった。ではその件はまた教えて下さい」

「わかりました」

「後、もう一つお願いがあります」

「何ですか?」

「プール存続5年と言わず、それ以降も稼働出来る様にする為のクラウドファンディングを立ち上げたいんです」

「クラウドファンディング…… ああ、ネットで賛同者をから活動資金を募る取り組みですね」

「はい。現金が関わってくるので、こちらの一存では無理かなと。きっと上の許可諸々が必要かと思うのですが」

「そうですね……」

「米内さんには大変な役回りしかしてもらっていませんが、上司の方にかけあっていただけないでしょうか?」

「何いってるんですか? 最長5年しか出来ないと言われている以上、どんな手段でも試さないという選択肢はないですよ!!」

「ありがとうございます!! 因みに出資して頂いた際には、戸乃立が泳ぎお教えるという話になりました」

「それは興味深いですね。この前、彼がどなたかに教えたという話を聞きましたが、面白企画かと思います」

「そう思われますか? 自分もそう思います!!」


 自分は自信げに胸を叩いてみせると、戸乃立以外がほくそ笑む。そんな我ら5人の言動を見つめる米内が立ちあがると一回頭を下げた。


「本当にありがとう。私は本当に君達と一緒に仕事が出来てうれしいです」

「米内さん。頭上げて下さい。自分達も同じですよ」

「君達は……」


 すると、米内は自分達の顔を一人ずつみると、笑みを浮かべる。


「では、皆さんが集まっている事ですし、早速プール存続プロジェクトの発足と共に、これからの方針を再度、申し合わせをしましょう。ある程度の概要は羽鳥君が話してくれたので、そこに少々の付け加えをすれば、良いと思います。それにしてもこの短時間であそこまでよく練り上げましたね。若さがなせる事かもしれませんが」

「すげーー ベタ誉めじゃん」

「うむ。米内さんも舌を巻く程だ!!」

「米内さん。因みにどこでやります?」

「そうですね実々瀬君。サークルルームはホワイトボードもあったのでそこにしましょうか」

「だそうだぞ皆」

『うぃーす』


 その返事と共に、自分を含む皆がサークルルームへと楽しげに話ながら移動を始める。そこにはもう昨日の重苦しい空気は微塵も感じる事はなかった。



(いやはや皆には感謝だな)


 開場する前のプールサイドで準備と整備でせせこましく作業をこなす同僚達を目で追う。今自分も開場前の点検の途中である。先日立てたプランに合わせ、以前より出勤を早めている。そんな中、自分含む皆が出来る範囲で各自動き出していた。戸乃立と茂宮は、米内がどうにか見つけてきた、説明書を見ながら、三人立ち会いの元、設備棟の機械を見て、メンテナンスのノウハウや機械の仕組みを覚え最中である。そして自分、実々瀬、梶山は、塗装の禿や、雑草など目についた箇所を清掃、修復等をこなす。また、それらと並行して米内はクラウドファンディングが通せるよう、上司に何度も話を持ちかけ、打開策を提出したと話してくれた。自分達に作業を教えがてら上司を説得するなど大変な所業に、尽力してくれた米内に、感謝しかない。


(自分も出来る最善を尽くそう)


 しかも今日含め今季のプール営業は5日であり、その期間内によって来季の営業にも関わってくる。気を抜く事なく無事に今季の営業を終わらせ来季の弾みにしなくてはならないのだから。すると、管理棟から大河がこちらに近づいて来るのが視界に入った。


「御影さん。朝礼するそうです」

「分かった今行く」


 そう答え自分は彼の背中を追うように管理棟へと向かった。



※2月1日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

※ハートありがとうございます!


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