第43話
(まあ念は押しといたから大丈夫だろう……)
日差しは相変わらず強いものの、後1時間で閉場を迎えようとしている。いつもなら人が減っていく時間なのだが、今日はなかなか人がひく様子がない。そんな中、監視台に座りながら、ふと今朝、母がここに来たいと言いだし、諫めた事が頭を過る。自分が起きるやいなや彼女がそう言い出し騒がしい寝起きとなった。勿論即答で『来るな』と告げどうにか説得しここに来たのだが、おいそれと聞き入れる母ではない事も知っている。お陰で今日は自然と場外にも目を向けてしまう始末だ。その時、実々瀬が自分に近づいて来る姿を捉える。
「おい健吾何処見てるんだ?」
「いえ、ははは。お疲れ様です。で、どうしましたか?」
「ああ。米内さんが、上司から臨時レンタルの件で追加の報告書を提出するよう急遽達しが出たらしくな。その項目で健吾に聞きたい事がるらしい。なので、米内さんの所に行ってきてくれ。その間は俺がここにいる」
「わかりました。じゃあ終わり次第直ぐ戻ってきます。よろしくお願いします」
そして自分はそこから直ぐに米内のいる事務所へと向かった。どんな質問内容か少し不安が過ったが、思っていた以上にあっさりしたもので数分程で聞き取りは終わり、元来た場所へと戻るべく、屋外へと出る。一瞬強い日差しに視界が眩むも、すぐさまいつもの視界に戻った。すると、自分の右視界の端の方につばの広い帽子にサングラスをした人物が場外を覗いている事に気づき、自然とその者にフォーカスがいく。不審者とも捉えられるがそれ以上に、背格好、雰囲気からして似てる人物を自分は知っていたからだ。だが、確信が持てない中、自分の足は自然とその方へと向かって行く。勿論その人物も自分が近づいていく事に気づき、右往左往した挙句近くの木に隠れる仕草をとる。しかし、その間距離を詰めた事により、ほぼこの人物が特定出来てしまった。ゆっくりとした足取りはいつの間にか駆け寄り近づくと、フェンス越しから睨む。
「来んなって言っただろお袋」
そう言うと幹から恐る恐る顔を出し、母がこちらを見る。
「でもやっぱり気になっちゃって」
「あのねーー」
案の定といえばそれまでだが、やはりこの年で母がバイト先に見に来てる事自体恥ずかしいくもあり、周りの人には知られたくない。
「と、取り合えず様子は見たんだろ? 俺も1時間で閉場だからアパートに戻ってくれない!?」
「えっ、お母さんさっき来たばかりでまだ全体見てなんだけど」
「それは良いからっ。また俺が休みの時にでも外場から説明するから、今はっ」
焦りのあまり声が裏返ってしまったその時。
「茂宮君ここに居ましたか。先程の件で聞き忘れた……」
母に気を取られ全く背後の気配など気づかなかった。慌てて振り返えり彼を見る。
「は、はいっ、米内さんっ、あのっ」
慌てふためく自分を彼は不思議そうな表情を浮かべ見つめる事暫し。万策尽き言い訳も思いつかず、自然と苦笑いが零れる。
「母が、実家から遊び来まして……」
それに答える様に母が帽子とサングラスを外し、頭を下げる。
「い、いつも息子がお世話になっております。いきなりこんな形で押しかけてしまって申し訳ございません」
「ああ。そうでしたか。私はここの責任者の米内です。茂宮君には今季からバイトをしてもらっていますが、仕事も的確でこちらも助かっています」
「そうなんですか!! それは良かったです。なんせ一人暮らし初めての上、うまくやっているのか心配でしたので」
「そうですよね。それこそ、もう少しで閉園になりますし、まだ暑い最中。管理棟内でお持ち下さい」
「いえいえそんな」
「米内さん!! そうですよ!! 米内さんもお仕事、さっきの報告書仕上げないといけないじゃないですか!!」
「茂宮君大丈夫ですよ。もうほとんど終わりですから。お母さんも何のお構いもできませんが気になさらずどうぞ」
「そうですか…… ならお言葉に甘えて待たせて貰っても良いですか?」
「お袋!!」
「どうぞぞうぞ、暑い最中、ここまでこられたのだから、せめてお茶一杯飲んで言ってください」
「ありがとうございます」
自分の声など届いていない雰囲気の二人を目の当たりし、半ば呆然と佇む自分に米内は聞きたい内容を簡潔に質問する。そして、それが終わると母と米内が各々管理棟の方へと向かって行くと共に、その姿を目で追いながら自然と深い溜息が漏れた。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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