第41話

「いきなりだが、米内さんの様子おかしいと思わなかったか?」


 急に投げかけられた問いに自分は羽鳥以外の面々の顔を見合わせる。


「そうっすねーー 今日事務所で話しましたけど普通だったと…… うん? でもプールサイドで見かけた時はなんだが少し元気がない? ような」

「剛さん。俺も思いました。なんだか肩落として歩いてる感じじゃないですか?」

「言われてみれば…… そうかもれないな」

「大河もそう思うか」

「はい。いつもより会話に歯切れがありませんでした」

「大河さん。米内さん歯切れってあるんですか?」

「ある」

「ははは。即答されたな健吾。まあ自分等は多少つき合いが長いから多方面からくみ取れるってことだな」

「にしても何があったんすかね」

「心配…… です」

「じゃあ剛さん、戸乃立さん二人で米内さんの所に行って探りに行くってどうですか?」

「何で俺等二人なんだよ健吾」

「嫌だかな…… 僕は」

「えっ、いや。俺じゃあ新米だし、だからって大御所二人にお願いするもの気が引ける感じがして。そうなると中堅どこかなって」

「おいおいなんだそりゃ」

「でも剛なら探り入れられそうだな。一人で行ってこい」

「大河さん。さっきの話しまだ根に持ってます?」

「何のことだ?」

「彩音ちゃんのこと」

「だからやめろって」

「ほらーー やっぱりそうだーー」

「あ、あのーー 落ちつて下さい二人とも」

「茂宮君。暫くほっといてみよう」

「えええーー 戸乃立さんーー」


 ちょっとした即興コントを見るかのような生暖かい視線を送るも、二人の騒ぎは尚も続き混迷を極める空気が漂う。そんな中、ふとした時一人、その輪に入らず真剣な面もちで、窓ガラスの外を見つめる羽鳥の姿が自分の視界にチラついていた。


 先方、実々瀬の家で別れ、一人で自転車を漕ぎアパートに向かう。ここの所、夏休み中で一番充実した日々を送っている実感を肌で感じ、噛み締めながら漕ぎ進めていた。休み入った当初はバイトの不慣れから人間関係の問題諸々。その合間にゼミ合宿やいきなりの教授の呼び出し。様々なことが、一気に起きたよう感じではあったが、今では大学は完全に休み入り、バイトも、場数をこなしてきた事もありだいぶ慣れてはきた。また人間関係もどうにかうまく収まり、今は体力的にも精神的にも、落ち着いた状況である。兎角、実々瀬との間が元に戻った事が今一番にうれしい。あのまま拗れた常態で、今日に至っていたとしたら、自分自身こんな晴れやかな気持ちでいられない。ましてや一緒に帰宅なんで出来なかった。


(ある意味、彩音さんのお陰かな)


 彼女と偶然にも合い、実々瀬と合っていなければあんな展開にはならなかったのだから。


「でもそれ言うなら、俺を大河さんちに行かせた米内さんって。偶然なのか? まあ何にせよ感謝だよな」


 思わず独り言をこぼしてしまった。まあ、自転車漕いでるし、内容がわかる人はいないというか、そもそも歩いている人もいないのだから誰かが聞く事もない。自然と陽気に鼻歌を歌いながら、アパートへと向かう。すると、前方に人影を発見した。キャリーケースを引いた女性のようだ。自分は鼻歌を止め、その女性の横を自転車で追い越して行く。すると、数回ペダルを漕いだその時。


「健吾ーー」


 自分を呼ぶ声がいきなり背後からしてきたのだ。ただ、気のせいかと思い、尚も自転車を一回ペダルをふんだ。その時またもや。


「健吾ーー 置いてかないで」


 すぐさまペダルから足を下した。明らかに自分を認識しているのだ。ただ、あの一瞬すれ違っただけで、何故、通り縋りの人が自分を認知しているのか分からない上、恐怖を覚える。ただ、自分もそのまま行ってしまえば良かったものの、こうして足を止めてしまっている。この常態からまた漕ぎ出すのはそれはそれで、どんな人であれ、自分と認識している人に対して失礼だ。


 自分は恐る恐るゆっくりと振り向く。すると、数メートル先の女性が大きく手を振った。


「重いのよーー 荷物持ってーー」


 疲れたような表情を滲ませつつも、満面の笑みを向けている。ショートカットの目のくりっとした小柄な女性。


「お袋!!」


 驚きのあまり思わず叫ぶと共に母の方へと駆け寄る。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです

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