第40話

 今日は予報通りの晴天に恵まれ、プール場にも多くの人が今日も押し寄せてた。そんな中で自分含む諸先輩立も、勢力的に仕事をこなして行く。


 まあ自分以外は、去年のプール場の現状を知っている為、忙しいとはいえこの場所に多くの人が来てくれているということが、とても嬉しくやりがいがあると口々に言っていた。また、昨日の雨天の休場により、多少の休息をとる事か出来たのだ。お陰で体力も回復し万全の常態でバイトを始めることが出来たと言うこともあり、閉場までの時間が思いの外あっという間に過ぎて行った。


「今日は、客の人数のわりには大きな問題もなく終わりましたね」

「それが、一番だ健吾」

「はい大河さん。あっそうそう。今日戸乃立さんが泳ぎ指導した子来てましたよね」

「えっ、そうなの昂」

「う、うん。そうみたいなんだよ剛」

「で、なんだって」

「うん。時間空いたから弟と来たって」

「それってリピーターを一人増やしたという事だろ!! 凄いじゃん昂!!」

「あっ、あっ、うん。ありがとうっ」

「にしても、戸乃立さん。彼女ちゃんと泳いでましたね。あれならもう大丈夫ですよ」

「そ、そうかな……」


 先日彼女を教え終わった直後、少々心配をしていた戸乃立を目にした。が、今日の女の子を見て多少は胸をなで下ろすことが出来たのか、少し安堵の表情を浮かべる彼の姿に思わず笑みが浮かぶ。


「にしても兄弟かーー 俺一人っ子だからある意味羨ましいな」

「剛さん一人っ子なんですか? 俺もです」

「健吾は何となく分かるが、剛は以外だろ」

「ええーー そうっすか御影さん」

「俺もそう思う」

「大河さんまでーー なあなあ昂はどう思う」

「…… わからない」

「あああっもう。うまい落ちつけられた感じするわーー そう言えば昂って兄貴いるんだっけ?」

「うん」

「で、大河さんは彩音ちゃん」

「おい、何故名前呼ぶ!!」

「良いじゃないですか、減るもんじゃないし」

「駄目だ」

「えーー お義兄さん怖いーー」

「やめろ」

「はははは。剛、大河を構うのもそのぐらいにしとけ」

「御影さん。俺構われたんですか?」

「違うのか?」


 すると実々瀬が梶山の方に流し目で視線を送ると、彼は天井に視線を送りながら、口笛を吹くような様をした。


「剛…… お前」


 言葉を発するとほぼ同時に、梶山の首に実々瀬の腕を巻き締め上げる。


「ううう、く、苦しいっす。ギブギブ」


 途切れ途切れの言葉を発しながら実々瀬の右腕を叩き降参の合図を送ると、彼は梶山の首を開放した。


「苦しかったすよ大河さん」

「しょうがないだろ。自業自得だ」

「まあまあ、二人共。そうそう、さっきの話しに戻るですけど、羽鳥さんって兄弟いるんですか?」

「自分か? 居るぞ。今は4つ下の弟がいる」

「じゃあ二人兄弟なんですね」

「いや自分は次男だからな」

「羽鳥さんの上にお兄さんがいるんですね。似てるんですか?」

「そうだな…… 兄の方がもっと色男だったような気がするが、不慮の事故で今はいないから何とも言えんな」


 彼の話を聞いた全員の顔が氷つく。確かに今まで羽鳥の家族構成をちゃんと聞いたことはなかったのだが、そんな回答が返ってくるとは思ってもしなかったのだ。


「あ、あの、すいません」

「何故謝る健吾。別に自分は気にしていないぞ。それに兄が亡くなって大分経つしな。まあだからと言って自分は兄の事を忘れたわけでもない。名前を『学』と言うのだが。うん。そういう名前だけあって兄からは学ぶことがたくさんあったぞ」

「そ、そうなんですね」

「自分が言っているんだ気にするな」

「はい……」


 それでもその場の空気が沈んでいる事を察した様で、視界に入る彼が少し思考を巡らせる様子を見せると声をあげる。



※1月18日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

※ハートありがとうございます!



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