第39話 4レーン
「米内さん。久々じゃないですか。その席に座っているの?」
「そうですね。ここ最近晴天でプールもフル稼働してましたらね」
今日は久々の雨模様により、市民プール場は休みとなった。ここの所の暑さで夏日が続き、プールの入場者数も軒並み増加していった。そんな中、ローテーションで休みをとってるとはいえ、少ない人数の中でシフトを組み回している手前、監視員として働く彼等にとっては久方ぶりの良い休息になっているであろう。かたや、唯一の市職員である私は雨の日も普通に勤労に励んでいる。ただ、雨天は直行する場所が違う。市役所3階にあるスポーツ健康推進課。そこが私が本来在籍している課である。
基本推進課は市民の健康作りをサポートするということで、肥満や、運動不足を減らし、健康な体を作り、少しでも医療費を減らしていく事を目標に掲げてはいる。しかし、それをそのまま公言するのは露骨過ぎる為、基本楽しくスポーツをして汗を掻きましょうで進めている。やはり楽しく出来なければ続けられないからだ。またこの課では、市で運営しているスポーツ施設全般管理してもいる。市民体育館から始まり、テニスコート、弓道場、野球場、陸上競技場。様々な施設がある中で、季節限定で開放している施設が数箇所。その中の一施設が市民プール場である。私は夏期以外は基本内勤であり、市役所の机でデスクワークに勤しむのだが、この時期だけは、プール優先の生活を送っていた。まああのプールは地元民である私が幼少期に新設された施設で、社会人になるまで海のないこの県で、近場で泳ぎ遊べる場所として楽しませてもらった。私にとってあの場所は青春の一ページと言うべき処。なのでここの管理を任された時には嬉々たる思いが込み上げた事を今でも鮮明に覚えている。そんな事が思い返えされる中、勤務体制も気づけば6年目を突入していた。
そんないつもと変わらないデスクワークに勤しむものの、今日は仕事に身が入らない。今では珍しくない、叩きつける様な雨がガラス窓を激しく鳴らす様子を思わずじっと見てしまっている。これではいけないとは承知はしているのだが、どうにも落ち着かない。その要因とは、今日ある議案が課長会議であがっているのだ。すると朝イチから組み込まれていた全課長会議が終わり、課長が戻って来た。そして、窓際にあるいつもの彼の指定席に、深々と座り込む。その姿をみるやいなや、足早に向かい課長の前に立つ。
「橘課長お疲れ様です」
「お疲れ様米内君。どうしたんだい? そんな怖い顔して」
「すいません。私自身そんなつもりはなかったんですが」
「分かっているよ」
「つきましては、課長今日の議案にあがっていた、例の案件はどうなりますか?」
「やはりその件か」
「…… はい」
すると課長は両肘を机につくと、組んだ指の上に顎を乗せた。
「単刀直入に言う。あのプール施設は、現状維持。ただ、老朽化による補修工事等は一切行わない。以上だ」
「と言うことは、もし要になる設備棟で故障が置き、自力で復旧できなければ、そのまま完全閉場という事になるということですか?」
「まあそう言うことだな」
「課長。先日もお渡ししましたが、利用者は今年日に日に増加しています。また、それに伴い、レンタル数も増えそちらの収益も右肩上がりです。それなりに結果は出ていると思うのですが」
「まあ、今年を見ればの話しだろ。昨年は猛暑とゲリラ豪雨のダブルパンチで期間中の稼働率は一桁に近い」
「去年は確かに異常気象で」
「今年だって、異常気象だとニュースで取り上げられている。結局の所、野外の季節型施設は昨今の急激な地球変動ではまともな稼働などできやしない。それに、二ヶ月前に実施した市民ミーティングでもこの話しがあがったらしい。うちは、市民の声に対して重点度が高いからな」
「では、もうこの案件は」
「ほぼ、決定事項と思ってくれ」
「…… 分かりました」
今、私が言える言葉はこれ一択であり、どうしようもない絶望感を抱きながら、机へと戻って行った。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
※ハート、星。また今回は数話でコメント頂きました! 本当にありがとうございます!
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