第36話

 今日も天気は良く、夏らしい入道雲が遠くで沸き上がっている。夏休みまっただ中と言うことで、子供の姿も多く見受けられるのだが、こういった日こそ注意深く監視しなければならない。それは事故件数の年齢別でみてみると、小学生の層が事故に巻き込まれることが多いと分かっているからだ。


 それらを把握した上で、プール内でもそうだが、プールサイドにおいてもいつもより注意をはらわなくてはならない。ましてや今日も夏日という予報であり、遊びに熱中のあまり、水分を摂取しないでいると、熱中症になる恐れも出てくるのだ。なので、こういった子供の多い日には豆に水分の補給のアナウンスと、プールサイドの見回り強化が必要となってくる。それに伴い今日は急遽自分も早い時間からバイトに入っていた。因みにただ今は途中休憩の為、管理棟の日陰で茂宮と一緒に休んでいる最中である。


「それにしても今日は小学生多いですね」

「うん。みんな元気だ」

「本当ですね。そういえば、戸乃立さん地元でしたっけ?」

「うん」

「この辺りの学校も夏休みプール行ったりするんですか?」

「僕の時はあったよ」

「そうなんですね。俺もプールっていうか海に泳ぎに行かされたりしたんですよ授業で。遠泳とか言って大変だったな。でも、戸乃立さんって水泳昔から得意だったんですか?」

「どうして?」

「確か水泳指導管理の資格持ってるって聞いたので」

「得意…… というか。僕それしか取り柄ないから」

「はあ……」

「兄より出来たのって水泳しかなくって……」

「ああぁあ…… そうなんですか? いやっ、そんなことないです!! 戸乃立さんバイトの時は仕事ばっちりじゃないですか? それに泳ぎ教えられるのって凄い事ですよ」

「…… そうかな」

「そうですよ!!」

「おーい。何盛り上がってるのかな?」

「剛さん」


 中で休憩を取っていた梶山が外に出てきた。どうやら休憩時間が終わりに近づいてきていたようだ。


「いえね、戸乃立さんのもってる水泳指導の話をしてたんです」

「昂の資格のな。あれ昂しかもってないだからすげーよな。俺も追々取りたいと思ってるんだけどさ」

「あっ。俺も取りたいです!! 戸乃立さん。その時は指導お願いします」

「いやっ、僕が教えられるような事はないよ。だいたい取れたのも奇跡みたいな感じだし」

「でももってるんだから良いんだよ昂!! っと時間だぜ」

「あっ、もうそんな時間ですか? じゃあ行かないと」

「僕も行く」


 そう言うとプールサイドに向かい各の持ち場へと向かって行った。

 日差しが容赦なく降り注ぐ中、赤いライフジャケットに黒のボディースーツを着用しながら、片手にはミネラルウォーターを持ち、首には保冷タオルを巻きプールサイドを俳諧していた。今自分の持ち回りは、プールサイドの見回りである。とりあず、運営側でもアナウンスはしているが、この暑さ。日陰にいようが多少意識し、こまめの水分補給をしていないと脱水症状に陥ってしまう。なのでこういった見回りをする事で抑止力と、症状らしい人の早期発見を目的としているのだ。にしても流石に自分が呼ばれる事はあるぐらいの人の入りようで、いつもはそうはいない競泳用プールさえも全てのレーンに人が泳いでいる。その時、その競泳用プールの監視をしていた実々瀬が、自分を見つけ手招きをした。それに応じそちらの方へ行く。


「昂すまない。笛の調子が悪いので交換してくる。その間少しここにいてくれないか?」

「はい、分かりました」


 すると彼は素早く監視台から下りると、うまく人並みを避けながら早歩きで、管理棟へと向かうと、ものの数分で戻ってきた。


「ありがとう。助かった」

「いえ」


 軽く返事で答え、見回りをスタートしようとした矢先、日陰で膝を抱えながら、競泳プールを見つめる小学生ぐらいの少女に目が止まった。どうやら友達は泳いでいるようで、縁に掴まりながらプール内より声をかけられている。ただ、彼女はそれに何がしらの声を上げるも、プールに入ることはなかった。それは次の全体休憩が終わった後にもそのスタンスは変わっていないようで、先見た時と同じ、膝を抱えて座っているのだ。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

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