第34話
ドッボーン
大きな音と共に水しぶきが高くまであがった。
「剛さん」
不安な表情を浮かべながら声をかけてきた健吾に、視線を移す。
「なんだよその顔」
すると、プールに落ちた2人が水面から顔を出すと激しく咳込み、立ち上がろうと試みる。しかし、気が動転している事と、酔いが完全に回ってしまったようで、うまくプールの底を足が捉える事が出来ず、縁にへばりつく。その状況に、プールサイド場から見ていた俺は健吾と顔を見合わせた。
「おひきとり頂こう」
「そうですね」
そんな会話をかわしてると、騒ぎを聞きつけ羽鳥等が現場へと集まってきた。勿論その後、屈強な羽鳥、実々瀬に再度厳重注意を受け、つまみ出されたのは言うまでもない。
「んーー 疲れたーー」
一人先にロッカールームに戻り着替えをしながら体を伸ばす。昨日から今日にかけて怒濤の日々がどうにか終わろうとしてた。若いとはいえ、流石に昨夜から今までの出来事はハードな事ばかりで疲労も溜まる。が、気持ちは今まで経験した事の無い程に清々しい。そんな晴れやかな気分で帰り支度をしていると、更衣室の外から声が聞こえると共にドアが開かれ、健吾と戸乃立が入ってきた。
「お疲れーー 健吾、昂」
「お疲れ様でした。剛さん」
以前の調子を取り戻した感覚を俺自身感じとっていたが、それは健吾も同じ事を思っていた様で、彼も先の一件の様な曇った表情は微塵も見せる事なく笑みを浮かべる。そんな彼の背後から身を屈めながら戸乃立が様子を伺うようにこちらを見た。
「今日は大変だったね剛」
「そうだなーー ちょっと色々あり過ぎたかな」
「うん? 色々あったの? 僕は、暑くて大変だったなと……」
「ああーー 今日は本当に暑かった!!」
かみ合わない会話を繰り広げる俺等に少し苦笑を浮かべる健吾を横目に、2人の方へと近づき背後に回り両手で2人の肩に手を置く。
「なあ今からじゅうじゅう亭行こうぜ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。今日はまだ」
「わーてるって健吾。学生のお財布事情は把握しているつもりだ。今日は割り勘」
「そ、それなら良いですよ」
「昂は?」
「僕もご一緒しても良いんですか?」
「勿論です。戸乃立さん」
「じゃあ決まりだな。俺は先に下りてるから。二人は慌てなくても良いからな」
そう言うと、人先一階に下りるとタイムカードを押し管理棟を出ると共に、どこか解放された感覚に思わず頭上を見上げる事数分。背後から足音が聞こえたのも束の間、俺の隣に気配を感じる。
「お待たせしました剛さん」
「はえーな健吾」
「そうですか? 戸乃立さんはもうちょっとかかる言ってました」
「おう」
すると、隣にいる茂宮も同様に水色に広がる空を見上げた。
「これからもよろしく頼むよ後輩」
「こちらこそ先輩」
その言葉に互いに反応すると顔を見合わせ笑う。すると身を丸めながら戸乃立がこちらへと近づく。
「お待たせしてすいません。僕の為に待ってもらって申し訳ないです」
「そんなに待ってないから昂。じゃあ行きますか」
「はい。俺腹ぺこぺこですよ」
そう言いながら、未だ暑さ残る夕刻に、いつものじゅうじゅう亭へと足を向けた。
※※1月11日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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