第32話

 蝉時雨の鳴く並木道をひたすら、猛スピードで駆け抜ける。


「やばいーー 遅刻じゃん!!」


 昨夜、遅くまで健吾と話していた事もあり、大幅に寝坊をしてしまったのだ。お陰で出だしから予定時間がずれにずれ、今はバイトに遅刻かそれとも、ぎりぎりセーフかの瀬戸際にたたされていた。しかも、そんなせっぱ詰まった時に限って尋常ではない暑さ。猛暑日とネットニュースで上がっていた事もあり、熱気でアスファルト周辺に靄が発生していた。そんな状況が故に、自身もダイレクトに熱が伝わり、玉のような汗を流しつつペダルをこぎ続けると、視界にはプールサイドが見えくる。ここまでくれば後は飛び込むばかり、すぐさま管理棟横の駐輪場に停め、室内に入ると一目散にタイムカード前迄行きカードを押す。と同時に大きく肩で息を吐いた。


「間に合ったーー」


 その声に管理室にいた、米内が、ひょっこり出てきた。


「お疲れ様です梶山君」

「お疲れ様です。すいませんちょっとギリギリすぎちゃいました」

「いえいえ。少し息を整えてからでいいですよ」

「ありがとうございます」

「で、今日も来場者多いので、いつもの通りでお願いします」

「はい」

「後、昨年もありましたが本日は猛暑日と予報されてましてね。このままだと、午後一番には猛暑の基準となる35℃以上となります。そうなった時点で、熱中症とのリスクが一気に上がってきたり、水温もここ最近の晴天続きで、お湯みたいになっちゃいますから、プール場を急遽休場する可能性がありますので、その時はお客さんの誘導等よろしくお願いします。それと開場時短の可能性もあったのでやるつもりなかったんですけど、急遽臨時レンタルをする事にしましたので茂宮君のヘルプもして頂けますか?」

「わかりました。今日は本当に暑いっすもんね…… 了解しました」


 そういうと、一回腕で汗を拭い、二階の更衣室に直行し、急いで着替えると、プールサイドまで一気に出た。


「ひやーー 猛暑日確定だなこれ」


 見渡せるプールサイドには暑さの為、人はそんなには歩いていないものの、直射日光を避ける為、日陰には多くの人が座っている。また、プールに目をやると、密集度が過去最高ではないかというぐらいに、人が入水していた。これはまるで水風呂につかっているような感じで、泳げる状態では無い。また、流水プールに至っては、遠目で見ると、カラフルなスーパーボールが回っているようにも見える。


「今日は凄いな」


 思わず感嘆の声が漏らしながら、茂宮の居るレンタル場所へと向かった。すると、俺の姿に気づいたらしく手を大きく振る姿が目に入る。


「お疲れ様。健吾」

「お疲れ様です剛さん。急がしかったですか?」

「スゲー忙しかったぞ!!」


 そう答える俺の姿に健吾が少しホッとした表情が滲むのが分かり、少し照れくささを感じつつ彼の前へと立った。


「こっちこそ、昨日はすまなかったな」

「いえ、俺は何もしてないんで」

「そういう事にしておいてやる」

「えーー」

「まあ、とりあえずこの話は終わりな。そうそう。米内さんが健吾のヘルプに入って欲しいって言われたけど、どうだ進捗は」

「はい。空気は入れるだけ入れました。後はそろそろ休憩が入るので、少し早めに切り上げ遊具とか運べばどうにかなるかなと」

「じゃあ後は場所の設営とこれを運べば良いんだな。まあ二人でこの数で二往復ってとこか」

「え、でも休憩時間減っちゃいますよ。ここまで出来てるので後は俺やりますから、休憩ちゃんと取ってください」

「いいの、いいの。俺がやりたいんだから」


 そう言うと健吾はにこやかに笑いながら、再度作業に戻る。その姿を目で追いつつ俺も業務を手伝いに入った。流石に2人でやればあっという間に仕事は終わり、休憩の合間に持って行くだけとなったのだ。流石に日陰のだとしても、熱を帯びた空気はどうしても体にへばりつく。それを払いのけることは、外にいる以上は無理の話。お互い少しばかりではあるが休憩を取り、いつもより早く切り上げ遊具は臨時レンタル場まで運び再度遊具を取りに向かう時だった。どこかで聞き覚えのある下衆な笑い声が耳の届く。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです

※ハート、感想頂きました。ありがとうございました!


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