第29話
(あーあ最近バイトのメンバーと話せてないな……)
皆の会話に絡む事なく、俺は公園併設の歩道専用の橋の上で、川の流れを見ていた。プールが閉場してもこの時期の日差しはすこぶる強く、日陰が必須。まあでも、今居るこの橋の袂にミズナラの大木がある為、日が傾く時間に来ると、橋の大半が木陰に覆われる。
数日前時たまこの場所を見つけ、それ以降バイトの後はここで時間を潰すようになっていた。本当ならいつもの様に、皆と話して一緒に帰宅したいのだが、そんな気分には慣れない状況に今陥っている。
原因は勿論、元クラスメイトの多田野と三鷹だ。
彼等とのつき合いは中学時代に遡る。三鷹は中学1年の時と、高校は2年からずっと。多田野にいたっては中学から高校卒業まで一緒という、腐れ縁のような感じなのだ。
まあ誰もが少なからず、入学当初は様子がわからずのまま暫く生活を送るのが大半。当初の俺は、今では想像がつかない程、物静かで目立つ行動を良しと思っていなかった節があった。また、人の意見に同調すること多々。それは俺の中で一番楽で、そうする事で人との摩擦が起こらないということもあり、当時の俺の中では最適なスタンスだと思っていたのだ。
だがそれは、学年が上がるにつれて、綻びが出始めていった。当初からクラスも一緒だった多田野と必然的に話す機会も絡む事も多くなっていく日々。すると、自身の意見を言わない同調タイプの俺に対して、彼の意のままに動く人という認識に変わっていったのだ。そんな多田野は、学年が上がるに連れ、俺に対する口調や態度が横柄になり、要求もエスカレートしていった。そこに高校2年になると、三鷹もその輪に入り、多田野と同じような事を俺にしてくるようになったのだ。
勿論、そうなる前にはっきりと言えていれば彼等の行動を多少抑えられたのかもいれない。ただそれに気づくのが遅かったのだ。高校3年になると完全なパシリ状態になってしまい、苦言を言いたくとも言えない状態に陥っていた。尚かつ、自分のテリトリーを掌握し抑圧された期間も長期にわたっていたので、特に多田野の威圧的な視線を送られた途端、脳裏にデカデカと絶対服従の四文字が浮かぶ。それと共に、何も言えず彼等の下僕として成り下がってしまう現状の俺がいる。
そんな背景もあり、先日も一年半ぶりぐらいに偶然出くわしてしまった彼等に、ほぼ何も言えず、言いなりのまま水着を返金してきた経緯がそこにある。俺自身、やっと彼等から解放され、卒業以降は連絡しないと決めていたというのに…… 晴天の霹靂の如くばったり出くわしてしまった現実。それ以降、ひっきりなしに、メールが来るようになり、会った翌日の夜から、連れ回されている。
「はぁあああ」
とてつもない深い溜息をついた直後、ズボンポケットのスマホが振動していることに気づき、再度深く息を吐く。そして徐にスマホを手にし、画面を見ると多田野と表示されていた。予想はしていたが、やはり気が重い。
「本当勘弁してくれよーー」
切実な思いが無意識に言葉として発っする。そして、立っていた橋の真ん中でしゃがみ、水色とオレンジのグラデーションに染まる空を見上げた。
「行きたくねーー」
思わず大きめな声で叫んでしまい、慌てて回りを見渡し、誰も居なかった事を確認する。
(良かったーー)
兎角こんなしみったれた姿をバイトの人たちには見せたくはない。心配もされるだろうし、そんな過去を知られて同情されるのも嫌だ。今だって、それを隠す為に、皆と帰りたい所をぐっと堪えてここにいるのだから。とりあえずはあの2人が地元に帰省しているだけの期間、乗り切れれば後はいつもの生活に戻れる。
「しゃーー ねーー なーー」
頭を思いっきりボリボリと掻きむしると、ゆっくりと立ち上がった。
「行きますか……」
俺自身に言い聞かせるような口調で言葉を紡ぐ。そして、高欄に寄りかかり、また雲一つない夕空を仰いだ。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです
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