第28話

「ちぇ、健吾めー。最後まではぐらされたな」


 食事は先程終了し、お互い帰路へとついている。健吾とは帰る方向が真逆なので、店で解散してしまい、それ以上の探りを入れることが出来なかった。


 でも、話しを聞き出した感じだと、お互いそんなに関わっていなさそうなのがわかった。だがしかし、あのちょっと親しげな感じが羨ましい。


「まあいいか」


 また、俺が聞けばそれなりに彼は相手をしてくれるであろう。


「本当、あいつお人好しなとこあるよな」


 自然と笑みが零れる。大学でもそうだが、後輩とつく存在が今までいなかったせいもあり、茂宮の事を我ながら可愛がっているのは事実だ。まあ、今まで、学校での部活や、バイトをしてこなかったので至極当然の話ではある。

 

  俺は大学に入る以前、中高一貫校に通っていた。そこは勉強が優先という方針だった為、部活という部活はなく、同好会止まり。ましてや高校になると、『現役合格』をスローガンに、バイトを禁止されていた。なので、横の繋がりはある程度あるものの、先輩や後輩と言った枠組みについては希薄であり、当時はどうでも良かったような気がする。


 まあ、今思えば、狭い世界で学生生活を送ってきたのだなと、バイトを始めて改めて思う。あの時の俺は限られたコミュニティしか知らず、その場所が当時の俺にとっては全てだった。ただ、その時の記憶は俺にとっては良いものではない。


 お陰でその反動ではないが、現在は高校迄の生活では想像出来ない様な言動が表立っているのは俺も理解している。それは裏を返せば過去の学生生活を教訓に変りたいという強い思いの表れであり、当時の同級生が見れば吹っ切れた感があるかもしれない。しかし実際には過去を払拭する事が出来ず未だに胸の奥底に打ち付けられた楔は抜ける気配はない。そのせいもあり思い返そうとしなくとも、かなりの確率で、当時の事を思い出せてしまう。ここの所大学は夏休みで、バイト中心の生活を送っていたせいもあり、不意に思い出すという回数は少ないものの、ふと気を抜くと、走馬燈のようによぎるのだ。


「あっもう、それは云い」


 不意に浮かんだ昔の映像が頭を過る。と、頭上で蠅を追い払うような仕草をしつつ、歩き慣れた道を歩く。そんな中、帰宅路とは反対の道へと方向を変えた。バイトで使用する短パンの下にはく水着を買うつもりでいたのを忘れていたのだ。


  いつものスポーツ洋品店は大通りに面した商業ビル。その洋品店もまた、バイトの人間が贔屓にしている所で、羽鳥はここでプロテインを買ったりしている。またなかなか面白いビルで、だいたいビルごとに同じような店舗が集まりやすい傾向が見られのだが、このビルの店舗は全てのフロアが違う業種なのだ。この前も、健吾がバイトで使う備品が欲しいと言い、場所を教えがてら同行。そして帰りに、そのビル一階にあるカラオケ屋に寄った経緯がある。


(あのカラオケ店立地条件良くてかなり重宝なんだよな)


 そんな事を思いつつ、大通りに出ると、部活帰りの高校生の大群が目の前からやってきた。それをなんなくかわし歩く事5分。4階建てビルの前で足を止め見上げる。外観から3階フロアの照明がついていることを確認すると、向かって右端にあるエレベーターに飛び乗り、ものの数秒で目的地であるスポーツ洋品店に着いた。


「いらっしゃいませー」


 ドアが開くと同時に甲高いおばちゃん店員の声が耳に届く。


「どうもー。おばちゃん」


 軽く手を上げ店内へ入ると、常連と化している俺は、どこに何が陳列されているかと言うことを把握している。そんな状況もあり、他の棚には目もくれず、目的の陳列棚まですぐさまたどり着くと、目的の水着を手にレジ迄持ってく。すると、先ほど出迎えてくれたおばちゃん店員が笑みを浮かべて待っていた。


「いらっしゃい。いつもありがとね」

「いやいやこちらこそ。あっ、この前御影さんがここで試供品で貰った、手順の多いプロテインあったじゃないですか。あれ結構良いって言ってましたよ」

「そうかい。それは良かったよ。そうそう、店長から伝言で、仕入れるかどうか迷ってるプロテインがあるらしくて、お代は取らないからまた試してもらいたいって言ってたわよ」

「分かりました。御影さんに伝えておきます」

「助かるわ。じゃあその旨店長に伝えておくわね」


 張りのある声と共に、手慣れた作業で会計と水着を袋に入れ渡される。


「ありがとなおばちゃん」

「またおいで。ありがとうございましたー」


 その声に手を大きく振り応えると、エレベーターのボタンを押す。すると直ぐドアが開き、それに乗ると瞬く間に1階に着く。ポンという音の直ぐ後にドアが開き、目の前は車と、人が行きかっていた。帰宅ラッシュも重なり、今日一番の賑わいをみせる大通り。そんな歩道に踏み込もうとした時、自分の肩が、すれ違いざまにぶつかってしまったのだ。慌てて、相手側のほうを向く。


「すいませっ」


 息が止まる。一瞬にして硬直する表情。


「どこ見て!…… あれ、梶山か?」

「多田野どうした? 早く入ろうぜ。あれ? 梶山だよな」

「ああ。久しぶり……」

「なんだお前地元だったんだっけ? 悪い悪い」

「三鷹も元気そうだな……」

「ああ。そうは変わらないさ。なんせまだ一年半しか経ってないだからさ」

「そうだ、三鷹。梶山も連れて行こうぜ。俺等も昨日実家に戻ってきて連絡とって今合流したとこでさ。今日はカラオケしに行こうって話しになったわけなんだわ」

「それ良い案だな多田野。じゃあ決まりだな」

「あーー。今日は持ち合わせもないから、また今度にするわ」

「へー持ち合わせね。梶山君その手に持っているモノは何?」

「これは……」

「多田野良いとこ目つけたな。これこのビルのスポーツ屋の袋だよな」

「ピンポーンその通り三鷹。ってことは…… じゃあ梶山返品してこいよ。そうしたらお金戻ってくるじゃん。それでやろうぜ」

「えっ」

「だって今買ってきたばかりだろ。俺の肩にぶつかった所みると、エレベーターで降りてきたってことだろうし」

「おっ、スゲー推理力多田野。じゃあそういう感じなら直ぐやってきてよ梶山」

「そんなこと!!」


 少し誇張した言い方をした途端、多田野が自分の胸ぐらを掴み上げた。


「出来るよな」

「……はい」

「だよねーー 梶山。じゃあ多田野俺、部屋取ってくるわ」

「あいよーー 俺はここで梶山待つから」

「了解」


 すると、三鷹は店へと入って行く。その背を見届けると、多田野は威圧的な目線で自分を見た。


「ほら、お前も行って来いよ。ここで待っててやるからさ」

「……ああ」


 そう言うと、言われるまま、背を丸めながらエレベーターへと二度目の搭乗に向かった。片手に持った袋を強く握り閉めながら……



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

※ハートありがとうございます!

今年は初カクヨム投稿でしたが良い経験させて頂いております

ひとえに遊びに来てくださる皆様のお陰です ありがとうございます!

あと少しで新しい年になりますが、来年も引き続きよろしくお願い致します

では皆様、いい年越しを!


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