第24話
現に梶山は、実々瀬の事を心配している。彼は話し方などから軽率な行動をとるようなイメージが全面に出ているものの、人間的にはブレないビジョン、最低限のモラルを守っている。バイトもなんやかんや言ってちゃんとこなしているし、兎角面倒見が良い事もあり、色々と自分の事も気にかけてくれている彼だ。やはり日頃からそういった事に目配りをしている事もあり、少しの異変にも敏感に感じる節があるのかもしれない。そんな梶山がバイト始めて間もない自分に聞いてくるぐらいなのだから、本当に危惧しているのであろう。
(まあでも、今日の朝礼の実々瀬さんの活力のなさはわかりやすかったか)
前日にあった時同様、悲痛な思いが体全体から滲み出ていた。まあ羽鳥はその雰囲気を感じ取れないせいかそれともあえてなのかは不明だが、話かけていた。しかし、自分含めて、あの拒絶に近い空気を醸し出している彼に、声をかける勇気がない…… そんな朝の出来事が脳裏に浮かぶ中、隣いる梶山が自分の名前を呼び、我に返る。
「健吾。話し聞いてるか?」
「ああっすいません。ちょっと考え事してて……」
「おいーー」
自分が予想していた声色を上げる梶山に視線を送る。すると、やれやれと言った表情を浮かべる彼が、プールサイドに指を指す。
「なんかさ。さっきからあの子何かを探してるみたいなんだよな?」
疑問符を投げかけられた事で、彼が指し示した方に視線を送った直後一瞬息が止まる。黒髪のポニーテールに、淡いオレンジ色のTシャツ。下は同色のフリルの水着を着こなす女性。間違いなく実々瀬の妹君である。そう昨日、実々瀬と話し終わった後、肩を落としている自分を見つけると同時に、いきなり懇願してきたのだ。
『お兄ちゃんの勤務表とか見せてもらえたりしますか?』
まあ家族だし構わないと思い、スマホにとっておいたスケジュールを見せると、彼女も写メを撮り、立ち去ったという経緯があった。が、昨日の今日で来場するとは思っていなかった事もあり、意表を突かれた形となってしまっている。勿論隣にいる梶山はそんな諸事情など知るわけもなく、尚も彼女に視線を送った。
「誰か探してる? みたいだな。よし!! じゃあ俺がちょっと声かけてくるぜ!!」
「あっ、あの、とりあえずもうちょっと様子を!!」
「何いってるんだよ!! 女性が困っているのに、見過ごせというのか!!」
「いや、そういうわけではなく……」
そんなワサワサと動いている人に気づいたのか、それとも梶山の熱い思いが伝わったのか定かではないが、彼女がこちらを向くと一瞬動きが止まる。するとこちらに彼女が近づいてきたのだ。
(完全に見つかった……)
昨日教えた時点で、ある程度の覚悟はしていたものの、いざとなると、内心は動揺せずにはいられない。勿論その思いは、隣に居る梶山も同じであり、彼もまた違う意味で、驚いたであろう。なんせ先から気にかけていた人物がこちらに向かって来たのだから。
「おいこっちに来たぞ!!」
「そ、そうですね……」
自分含め緊張が走る。そんなことなどつゆ知らず、彼女か完全に自分にめがけて走り寄ってくると、目の前で止まった。
「居たーー 茂宮さん。探しましたよ」
「あーー そうなんだーー」
思わぬ展開の会話に唖然とした表情をしながら、自分と彼女の方を凝視する梶山が視界に入った。しかし、テンパってしまっている自分には二人の相手は無理である。そんなこちらの内情など知らぬ彼女から尚も話しが続く。
「昨日はすいません。色々とご迷惑かけちゃって」
「い、いえっ、そんなことは」
「でも、茂宮さんからスケジュール聞いておいたので良かったです。早速来ちゃいました」
「はい…… 昨日の今日で驚いています」
「そうですか? 鉄は熱いうちにとか言うじゃないですか」
「ははははは」
「因みに、今日は?……」
「今日は、ここから一番奥にある競泳プールの担当ですよ」
「そうなんだ。ありがとうございます」
「い、いえ」
すると、自分の隣でいかにもと言う咳払いが耳に届き、恐る恐る視線を送ると痺れをきらした梶山がこちらを見ていた。
※※12月28日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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