第18話
大学内で二番目の広さのある講堂で行われている講義。人気の教授ということもあり、扇状の先にいるホワイトボードを食い入るように見ては、ノートに書き示す学生達が大半である。やはり評判通り分かりやすく、要点をついた内容の為、理解しやすい。そんな事もあり、室内はいつもとは違い整然とした雰囲気だ。教授の声と、その彼がホワイトボードに書くマジックの音が室内に反響しつつ耳に届く。しかし、今日は窓際の生徒は教授の声よりも、窓ガラスを叩きつける雨音の方がよく聞こえているのかもしれない。最近の異常気象のせいか、日本でも度々猛烈な雨が振ることが多くなってきた。昔ではなじみがなかったゲリラ豪雨という言葉は今では認知され、一夏に何回か起こる現象となってる。あの現象は凄まじいと言っていいだろう。
基本あんな降り方をされてしまっては外など歩けるわけもなく、お手上げ状態である。そんな経験も増えてきたせいか昔なら、これだけの猛烈な勢いで窓に叩きつける雨に不安を覚える人も多かったであろう。が、今ではこのぐらいの降りはよくあることと認識されつつあり、動じなくなっていた。
そんな雨音と、ガラスに川の様に流れる雨をじっと見ている自分。明らかに回りの生徒との真剣さとは裏腹に、講堂響くマイクの声はほぼ耳に入っていない。ただただ、雨が窓を鳴らす音の方をずっと見ている。ここの所の雨で野外にあるプール休場が続いており、今日も早朝から休みの連絡が入った。これで続けて4連休。まあ、天候に左右されてしまうのはしょうがない事ではある。だが、ここ数日ふとした瞬間、脳裏にプールサイドでの実々瀬の姿が浮かぶのだ。その姿がどうしても気がかりで、何かと身が入らない日々が続いている。
実は例の一件の翌日から雨模様が続き、彼の様子が伺いしれない状態であったのだ。しかも、あの日は休み時間にも話せず、仕事終わりにと思いきや、帰宅時間が合わず何とも煮え切らない状態になってしまっている。あの時、管理棟から出るのを待ってみる事も一瞬脳裏に浮かびはした。しかし、流石に何時に終わるかわからないのに外で待ってるのは、非効率という事もあるが、かなり鬱陶しいとも思い試みるのをやめたのだ。
まあ、自分の立場上、ばつの悪い状態なのは明確。それに加え、経験年数など諸々において先輩であり、自分がどうこう言ってどうにかなるわけでもないという事もわかっている。だが、休み前のあの状況…… 鮮明に今でも目に残る、実々瀬のあの尋常ではない手の震えを見てしまっては心配の二文字しか脳裏に浮かばない。ましてやあれから4日も彼の様子を伺いしれない状況だ。日が経つほどに、危惧たる思いが増していくのである。
(実々瀬さん大丈夫かな……)
尚も止む気配のない雨をじっと見ていると、周りが騒がしい事に気づく。どうやら自分の意識が別の所にあったせいで、講義が終わっていた様だった。周りの生徒達は、次の講義の為、講堂から次々と出て行く。
(俺も移動しないと。次はゼミだっけ)
確認の為、足下に置いておいたリュックを手に取り、中を探る。
(確かこのクリアファイルに時間割がっと)
すると、ズボンポケットに鈍い振動を感じ、そちらに手を回しスマホを手にすと、画面には米内と表示されおり慌てて出た。
「お疲れ様です」
『お疲れ様です茂宮君。今良いですか?』
「はい、構いません」
『早速なんですが、今から空いてる時間ありますか?』
「今直ぐは、ゼミがあるので無理なんですが、それ以降でしたら大丈夫です」
『そうですか。じゃあその後で構いませんので、市役所の3階のスポーツ促進課まで来てくれませんかね。ちょっとお願いした事がありまして』
「わかりました。では終わり次第伺います」
『はい。ではお願いします』
久々に聞く声に懐かしさを感じつつ米内が丁重に受信が切れるのも束の間、暫しスマフォを持ったまま見つめる。彼から電話を貰う事は初めてのことであり、米内からとなるとバイト関係で間違いない。だが、一連の事を踏まえると、由々しきことが起きているとしか思えず悪い状況ばかりが頭に浮かぶ。
勿論その後のゼミは散々であり、全くと言って良い程はかどらず時間は過ぎていく。そして、ゼミが終わると共に、すぐさま自転車を飛ばし、市役所へと向かった。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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