第12話
自分自身半信半疑な状況に陥るそんな矢先、いきなり自分の顔を覗きこむ彼の姿に驚き目を見開く。
「健吾?」
「あっ、はい……」
「びっくりしたぜ。名前呼んだのに反応ないからさ」
「す、すいません」
「何かあったのか?」
「い、いえ。何もないですよ」
慌てて両手を体の前で振ってみせたと、同時に背後から、室内で休んでいた実々瀬が、姿を現した。
「剛、健吾。休憩終了1分前だ。持ち場に移動だぞ」
「もうそんな時間ですか!! じゃあ俺先行きますね」
自分はその異変を隠すかの様にプールサイドへと一足先に歩いていった。
日差しはますます強く照りつけ、午後に入っても客入りは減るどころか増えていく一方である。部屋に居てもこの暑さは耐えがたい。またこの辺りの地域でも設置が増えてきたと聞くものの、エアコンがない家も多く、暑さに耐えかねてという人もいるのであろう。
勿論、そんな状況もあり、監視員としていつも以上に多忙を極める。やはり、人が多くなればなっただけ、様々な人が集まる事もあり、珍事も増えるのも必然。
現に、自分はそれに巻き込まれている最中なのだ。因みに只今自身が居る場所は、今日の持ち場である、レンタル小屋の裏に併設されている男子更衣室内である。今し方、老人がレンタル屋に来て、ロッカーにお金を入れたものの、鍵が抜けないということで、現場へと足を運んでいた。
「どうですかね」
「うんーー やっぱり鍵が抜けないですね」
「おじいちゃんまだ?」
「僕、ごめんね。早く泳ぎたいよね」
プールサイドも、直射日光が当たる為ダイレクトに体に伝わってくるのだが、更衣室は更衣室で、湿気と、外気からの熱による半蒸し風呂状態化している。これはこれで、あまり長居をしたい環境ではない。しかも子供は早く遊びたい気持ちが徐々に高まり、既に待ちきれる状況ではなかった。勿論自分も持ち場を離れてしまっているので、この状況をどうにか打破し、持ち場に早急に戻らなくてはならい。気持ちは焦るも、いかんせどうにも解決する手だてがみつからないのだ。特に今日は先の休憩後から、思考がうまく回らない状態となっていた。
「どうしたものかな……」
「お兄さん。ロッカーに詳しい人は他にいるかね」
「あっ、そうですよね。管理棟にわかりそうな人いました。すいませんもうちょっと早く俺が気か付けば良かったのに」
「いやいや良いですよ」
「じゃあ、直ぐに声かけてきますから、もう暫くお待ち下さい」
「はいよ」
居ても経っても居られない子供が一緒についてくる形で、蒸し風呂のような室内から、容赦ない紫外線の差すプールサイドへと出た。一瞬汗ばんでいたせいもあり、涼しく感じはしたものの、それは瞬時に感じなくなる。
「やっぱり今日は一番の夏日かな…… 僕。とりえず日の当たってる箇所は暑いから、日陰の所歩いて行こう」
子供を背後について来るよう促すと、管理棟へと歩み始めた。と、明らかに先程には感じることのなかった足下のぐらつきと共に、浮遊感をかんじたのだ。それと共に、平坦のプールサイドを歩いている筈が、まるでトランポリンの上を歩いているような感覚に陥ってしまっていた。
「あ…… れ……」
そんな状態の中、管理棟へ尚も目指すと、棟とプールサイドを繋ぐ出入り口で、米内が丁度ポスターらしき物を貼っている。
「米内さっ……」
半分声を出しかけたと同時、一気に視野が狭まると思った途端、目の前が暗闇と化した。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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