第11話

ピピピピピピ

 

 遠くで鳥のような声が頭上で鳴いているように思えた。だがその音が徐々に鮮明に聞こえてくる様になり、さえずりではない事に気づく。そしてゆっくりと腕を伸ばし時計のアラームを止めた。


「はああああ、眠い」


 先日の歓迎会は、あの後鉄板物を2往復し、バイトである自分達は大満足で店を後にしたあの日。だが、気持ち出資人である米内の背中がどこかもの悲しく見えたような気がした。そんな姿に少々心咎めはしたが、今回の歓迎会を通して、多少とはいえメンバーの事が知れたのだ。


 やはり職場を離れて話すと、いつもと違う面が見て取れる。それにより、自分も以前より彼等と親密度が上がったような気がしたのだ。それが何よりもうれしい。日頃の大学生活の仲間とはまた違う雰囲気と少しの刺激。本当に様々な人がいるのだと改めて思う。


まあ何にせよ、今日は3日ぶりのバイトの日。歓迎会の翌日からゼミの泊まり合宿が組み込まれていたのだ。それもまた、自分も初めての事もあり勝手がわからないままの合宿。しかも担当教授がなかなかのスパルタで、本当に勉強と実験尽くし。イメージしていたゼミ内の親睦うんぬんかんぬんは皆無。ひたすら課題に対する研究を、深夜遅くまでやり続けたというかなり過酷な日々ではあった。


 まあ、学生の本文は勉学なので当たり前と言われてしまえば、それまでだ。が、流石に前々日バイトの上、歓迎会ではしゃいでからのゼミ突入もあり、なかなかの疲労感が蓄積されている事は間違いない。


「さーてと」


 覇気のないで声を口にしながらも、自分に気合いを入れ、ベットから起きあがる。


「やっぱりだるい」


 独り言をこぼしながら、おぼつかない足取りで窓際まで行くと、カーテンを開けた。すると強い光が自分の体を一気に照らすと同時に、眩しさのあまり目を細める。


「今日も天気良さそうだな」


 野外にあるプール場は天気で休みになることもよくある話であり、バイトに行く際は必ず、天気の確認はかかせないのだ。今日の天候から見て開場は間違いない。宴以来皆に会っておらず、ちゃんとお礼も言えてない状況である。まあそれもさる事ながら、兎角あのメンバーと話すのはすこぶる楽しみであり、久方ぶりのバイトに心踊る。


 そんな胸躍る中、出る時間を逆算すべく、時計に再度目をやると、思っていた以上に時間が経っていた事に気づく。慌ただしく出かける準備へと取りかかるものの、明らかに足取りが重い。一瞬熱があるのかもと、脳裏を過った。が、ここ数日の出来事からくる倦怠感であろうと勘ぐると共に、続けて休みを貰った事によるもう訳ない気持ち。そして、彼等と久々に話せるという気持ち華やぐ感覚が優先していた。


「よしっと」


 そう玄関先で気合いを入れると、ドアを開けた直後から、熱風が部屋に入り込む。慌てて進入を防ぐべく即座に閉めると、手にしていたキャップを深々と被り、その場を後にした。


「いやー 今日はマジ暑いわ」

「本当ですね剛さん」

「まあ、夏はこうでなくっちゃいけないけどな!! にしても、この前の歓迎会盛り上がったなーー 久々だぜあんなに爆笑したの。特に羽鳥さんの筋肉愛は半端なかったわー」

「はははは。確かに羽鳥さん熱量凄かったです」

「健吾もそう思ったか」

「はい」


 午後いちからのシフトに入っていたせいもあり、最大級に暑い時間の勤務となっていた。今は丁度10分間の全体休憩に入っているのだが、今日は、今季始まって以来の真夏日。日陰で待つ多くの客達も早く、プールに入りたいという思いがヒシヒシと感じとることができる。中には、入ってしまいそうになる人もいるが、こういう時程、きっちりと休み水分接収を怠ると、追々脱水症状等を招く。それは、監視員も変わらない。


 来場者が入水しないよう見張りながらというものあるが、自分達も置かれた環境は同じなのだ。全体を見渡せる管理棟の日陰から、様子を伺いつつ、梶山がいつものテンションで、自分の隣に座り機関銃トークを繰り広げている。だが、今日はいつもそのスピードについて行けていた話が、いまいち処理しきれいのだ。へたをすると、話しの内容が飛び飛びしか耳に入ってこない上、会話に対しての反応もイマイチ出来ない状況に陥っていた。



※※12月14日20時以降更新烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです



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