第9話
「えーっと。御影さん、米内さん、大河さんはウーロン茶で、健吾はコーラっと。昂は緑茶で俺はノンアルビールってことで、とりあえず揃ったみたいだし、米内さんよろしくお願いします」
「あっ、はい。では僭越ながら私から一言。茂宮君。千代市市民プール場にようこそ。まだまだ慣れない事や、体力面での大変な事も出てくるかもしれませんが、諸先輩方から助言等頂いて、出来るだけ長く、そして体を壊さない程度に頑張って頂きたいと思っています。では、かんぱーい」
「かんぱーい」
グラスを各々上げると、それらを口に運ぶ。
「プハー。一仕事の後のビールは格別だぜ」
「剛さん。それノンアルですよね」
「良いんだよ!! アルコールは筋肉に良くないし、飲み始めるとやめられなくなる。それなら最初から口にしない。これ鉄則な」
「なんか説得力ありますね」
「だろ」
幹事化した梶山が取り皿等を手際よく渡す。
「とりあえず、俺から見て左から、ミックス、餅明太、海鮮って並びかな。勿論全てに麺入り」
「良いチョイスだな」
「大河さん。あーざす」
「じゃあ自分切り分けますね」
そう言い、左側に置いてあったコテを手にし、目の前の代物に突き立てた。と、同時に戸乃立以外静止の声が一斉にあがったのだ。
「ど、どうしたんですか?」
すると、目の前の実々瀬が神妙な面もちでこちらを見ている。
「実々瀬さん?」
「悪い事は言わない。とりあえず、コテを置いてくれ」
「は、はあ?」
すると隣に座っていた戸乃立が自分の肩を叩いた。
「今、どうやって切ろうとした?」
「どうと言いましても…… 普通に……」
「普通に?」
「十字に」
「違うよね」
「は、はい?」
「格子に切るのが普通だよね」
「あっ? はい……」
唖然とする自分の目の前で、日頃の生活では見せない素早さで円盤を裁いてく。彼の今まで目にしていたゆっくりとした初動と打って変わり手際の良さに唖然とその姿を見つめた。すると、米内が尽かさず耳打ちをする。
「戸乃立君ちはどうやら関西出身の方がいらっしゃるみたいで、お好み焼きの切り方だけはこだわりがあるようです。なのでここに初めて来た時も、そんな事情知らなくて、ピザ切りをしたら、凄く凹まれた経験があるんですよ」
「そうだったんですか」
至極納得してしまった自分の斜め前で羽鳥はその一部始終を目の前にし、豪快に一頻り笑い上げる。
「とりあえず健吾の歓迎会だ。心意気無く食せ!!」
「今の言い方。いかにも御影さんの奢りっぽく聞こえますけど」
「大河そんな事はないぞ。自分も重々承知はしている。今回の宴は全て米内さんのポケットマネーである!!」
「清々しいぐらいの開き直り発言っぽくて良いっすね御影さん!!」
「はははは。そうか剛」
両端の異様な盛り上がりの二人の間に挟まれた実々瀬は、呆れた表情を浮かべつつ、コテを手にし、格子に切られたお好み焼きをすくう。
「とりあえず食べるか」
その言葉にゆっくりと頷くと、目の前の鉄板と向き合った。
それからは、凄まじい勢いで鉄板の上にあったお好み焼きを平らげ、今は二週目の麺モノへと、突入しようとしていた。
またそれと同じくして、殻になったグラスと引き替えに、新たに飲み物が追加される。が、とりあえず、胃袋に少し物が収まったということで、気持ち小休止のような状態になっていた。
「本当ここのお好み焼きはボリュームありますね実々瀬さん」
「ああ」
「やっぱり中にアクセントで入ってるおこげみたいなのが満腹感さそうっていうか。それとも他に隠しネタみたいなのもあるんですかね。聞いたら教えてくれるかなー?」
「どうだろうな…… 聞いてみたいで思い出したが健吾」
「はい」
「どうしてこのバイト選んだんだ?」
「それ、私も聞きたいですね」
「ええぇぇ。米内さんまで…… でも大した理由ではないですよ」
「だとしても、茂宮君は初日から熱心に取り組んでいると思いますよ」
「そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。うんーでも俺の動機理由なんてたいした事ないんで」
薄笑いを浮かべながら、その話題をかわそうとしたものの、二人の視線は話す事を前提にした圧のままこちら見続けている。
「ははは。本当にたわいもない話過ぎちゃうんですけど良いんですか?」
「構わない」
きっぱりと言い放つ実々瀬の姿に、諦めの溜息を一回付き、腹を括る。
※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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