第8話

「今日は、米内さんが上がり早くしてくれたので、余裕でこの席確保できましたよ」

「そうみたいですね。私も他のお客さんが居ないの初めてです」

「ですよねーー だいたい誰が一組はいるし、下手するとこの前みたいに座れなくて解散とかですしね」

「そんな事もありましたね。まあ今回はそういった事も踏まえての梶山君ですから。で因みに後二人は?」

「はーい。ここに居ます」


 溌剌とした口調で梶山が答えると、同時に障子がもう一枚ひらかれた。すると恰幅の良い二人がこちらに背を向け並んで座っている。しかも身を屈めている様子であった。


「羽鳥君、実々瀬君お疲れ様です。それにしても実々瀬君はともかく、羽鳥君が静かというのは珍しいですね」

「まあまあ、とりあえず上がって下さいよ!! 俺がリザーブした席へどうぞどうぞ」


 彼のその声に促され順々に畳席に上がる。


「えっと、とりあえず健吾は主賓だから大河さんの前で、米内さんは御影さん前の奥。昂は俺の前と」

「いやはや、宴の仕切といったら梶山くんですね」

「米内さんそんな事ないっすよーー」


 そう言われ梶山は誇らしげに高笑いをしている中、先に来ていた後二人は未だに反応が薄い。すると二人の席の前には何本ものドリンクケースと粉末の粉の入っていたであろうか梱包ゴミの塊。そして2リットルの水が持ち込まれていた。


「これは一体……」


 中央に腰を下ろしつつ思わず出てしまった言葉を慌てて紡ぐ。すると目の前の実々瀬が苦笑しながら口を開く。


「すまん。もう少しで終わりだ」


 そう言う彼の隣に居る羽鳥は今まで見たことのないような真剣な面もちで、何本かあるボトルケースを徐々に一本へとまとめていく。そして最後の一本を入れ終わったと同時に一回大きく息を吐くと、突如顔を上げいつもの豪快な笑い声を轟かせた。


「いやーすまない。今回のはなかなか手順が難儀でな。それでも皆が来る前に終わらせるつもりだったんだが、思いの外時間をとってしまった」


 するとボトルを一気に振り出し始める事数秒、オレンジ色をしていた液体が白濁とした色彩に変化する。


「よし!! 完成だ」

「羽鳥さんそれなんですか?」

「おっ、これか健吾。これはプロテインだ」

「プロテインですか?」

「そうだ。効率良く筋肉を付けるには必須アイテムだぞ!!」

「そ、そうなんですね」

「はいはいーー 御影さんの熱弁は後にして、米内さんと、健吾飲み物どうする?」


 その場を仕切る梶山がメニュー表を素早く渡される。


「あの、戸乃立さんは?」

「僕、緑茶お願いする」

「もう、決まってるんですね。米内さんは?」

「ウーロン茶お願いします」

「じゃあ俺は…… コーラにします」

「おう、了解した。すいませーん」


 軽く手を上げ声をかけると、店長が直ぐに注文を聞きにくると共に、親しげに会話を交えつる事暫し。こちらの注文を聞いた亭主はその場を後にする。


「とりあえず、後は食事待ちってことで。まあ、直ぐ来るとは思うけど。いつもここ早いから」

「結構このお店皆さん来てるんですか?」

「回数はそんなんでもないけど、俺等の食事会はここしか使ったことない」

「プール場から一番近い飲食店だしな」

「言われてみればそうっすね大河さん」

「それに、ここはなかなか料理がうまいし、リーズナブル。そしてボリュームもある!!」

「そうですね。 振る舞う立場でも羽鳥君達のような食べざかりの年頃にも満足してもらえるので本当にありがたいですね」

「米内さん。御影さんと同等までは流石に食べれませんよ」

「何だ大河。そんな速攻に否定しなくてもいいだろうーー」

「俺は食べますよ!!」

「そうか剛!!」

「はい!! 俺も御影さんみたいなマッスルボディー目指してるんで」

「そんな事前々から言ってたなーー なら今作ったばかりのプロテイン飲んでみるか?」

「良いんすか!!」


 梶山が歓喜の声をあがると同時ぐらいに、店長が全員の飲み物を置き、慌ただしく戻った。すると間髪入れず、今度は机中央にある鉄板の上に次々のお好み焼が運ばれ綺麗に一列、3枚のお好み焼きが並ぶ。


 すると、一声かけ小上がりに上がり、仕上げとして慣れた手つきでソースと、マヨネーズを付け直し、トッピングの青海苔をサラリとかけた。そして、『ごゆっくり』と一言言いその場所から去って行く。そんな店主の手際の良さもさることながら、目の前でソースが鉄板に熱された音と共に、焦げた匂いがダイレクトに五感を刺激する。そんな状況もあり、先よりも比にならいならな程の猛烈な空腹が自分を襲う。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

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