第7話

 また、彼は見た目だけでなく、性格も特質した所がある。それは、話す前は冷たいイメージが先行するものの、それを大きく裏切りかなりのネガティブ人間なのだ。先もそうだが、どうしても二言目には否定的な文言が発動してしまうらしい。まあ周りの諸先輩方は彼が話の追記に、口癖のように発するもので、そんな深く受け取らなくても良いとの事だった。しかし、自分はやはりまだ慣れていない為、彼の言葉にシドロモドロになってしまっているのが現状である。まあでも、初対面の時に比べてみれば、少し免疫はついてきた。ただやはり、話す内容は少し考えてから口にするようにはしているのが実状だ。


(うんーー 今までいなかったタイプだから、本当にわからないんだよな。それに、表情もないし。つかみどころがないっていうのも、頭抱えちゃうんだよね)


 そんな悶々とした面もちの中、いきなり自分の斜め上から弱々しい声で自分の名前を呼ばれ、慌てて返事をする。そして、隣にいる彼の方に目先を移すと、特にこちらを見ることなくまっすぐ前を向いた状態のまま、戸乃立が再度口を開く。


「今日昼間。子供助けたって」

「は、はい。たまたま自分の目の前でおきたので」

「僕は無理だよ……」

「そ、そんな事ないですよ!! 戸乃立さんだって仕事合目的にやってるじゃないですか」

「それはこのバイト去年からやってるから…… でも君は始めて日が浅いのによくだよ」

「そ、そうですか?」

「うん」

「あ、ありがとうございます」


 その言葉を口にした直後いきなり、細い彼の腕が上がると青白く、細く長い指が何かを指し示した。それに従うように指先方に視線を送ると、米内が手を振っていた。


「二人ともーー お疲れ様です。後5分ぐらいで閉場なのでよろしくお願いします」

「わかりました」


 自分もそれに応えるように手を振り返すと、隣にいる戸乃立に即座に視点を向けた。


「あの自分よくわからないで、よろしくお願いします」

「う、うん。分かったよ」


 いきなり話をふられ、あたふたした彼は、上擦った声を上げる。そんな中、最初の点検先でもある流水プールの電源が設けられている設備棟へと、そそくさと歩み始めたのだ。自分はその少し丸まった背後を目で追いつつ彼の後についた。

 

 浮き雲がない空に、鳥の群が東に向かい綺麗な弧を描き気持ち良さげに飛んでいく。それが日が傾き始めていたせいか橙色に染まっていた。かたや、地上は、帰宅ラッシュが始まったようで、行き交う車が多くなってきている。それに加え歩行者もまた増え、歩車分離式信号の発動回数が増加していた。お陰で目に見えてわかるぐらいに車列は徐々に長くなっていく。

 そんな道路事情を横目に、目的地である店へと、足を向けていた。場所を把握している二人の足取りは明確ではあるものの、その背後から着いて来ていた自分にとっては、あまり足を踏み入れる事のない場所である。そのせいというわけではないが、自然と辺りをチラチラと見回してしまう。そんな少し挙動不審な態度を取りつつ、着かず離れずと言った状態で、長く伸びた二つの影を追った。すると、いきなり道に写し出されていた影がピタリと止まり、同じくして足を止める。その直後、前を歩いてた米内が背後に振り向く。


「茂宮君目的地着きましたよ」 


 彼の声がする前方に視線を移すと、大通りから小道へと入る道の間。河川で見受けられる中州のような所に、こじんまりとした建物。そして、入口上には、大きく筆文字で『じゅうじゅう亭』と書いた看板が目に飛び込む。また店の前には、店名が記された暖簾と、営業中の看板が掲げられていた。


「へーー こんなお店あったんですね」


 まじまじと店前で全貌をぐるりと見回していると、米内が一番手を切ってドアに手を掛け開けた。それと同時に店員の威勢の良い声が店外にいた自分の耳にも届く。そんな活気のる声に誘われるように店内に足を踏み入れると、鉄板で焼く音と共にソースの焼けた甘い香りに包まれた。思わず大きく息を吸い、一瞬お好み焼きを食べた感覚を味わいつつ、何気なく店内を見回す。


 大きな鉄板のある6席程のカウンター。それを背に4人が座れる鉄板席が2脚が備えつけられていた。また、開店してどのくらいになるかわは知らないが、非常に小綺麗にしてある事に驚く。今までのお好み焼き屋のイメージとはだいぶ違う。門替えは如何にもと言う感じだったせいもあり、このギャップに影響され、再び辺りを見回す。すると一番奥の障子がいきなり開き、見たことある顔と声が店中に響く。


「お疲れ様です!! 3人共こっちすよ」

「梶山君ありがとうございます」 


 そう言いつつ米内はカウンター前の鉄板で作業している店長らしき人に会釈をし、その前を通り抜けると、彼の方へと向かう。その後を追って剛の前まで足を進めた。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る