第4話

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。米内さん」

「仕事の方はどうですか?」

「はい、まだ一部の業務しかしていませんが、今の所諸先輩方の指導もあって、どうにかやっています」

「それは良かったです。今は軽作業的な感じではありますが、今季中には一人前に業務がこなせるようにしてくれると助かりますので、頑張ってくださいね」

「はい!!」

「所で茂宮君。今日のシフトは午前でしたよね。その後、午後とかはプライベートで何か予定はありますか?」

「いえ、今日は特にないです」

「そうですか。それは良かった。実は大変急ではあるんですが、君の歓迎会を催すことになりましてね。 メンバーにも色々聞いて今日が良いようなので」

「えっ、良いんですか!! うれしいです!!」

「では、また時間は後で連絡するとして、場所はここから近いお好み焼き屋さんなんですが、分かりますか? じゅうじゅう亭っていうんですけど」

「うんーー ちょっと分からないです」

「でしたら、閉場10分前ぐらいにここに来てくれた方が早いですね」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします」


 会釈する自分に、笑みを称えながら、『じゃあ、よろしく』と言いながら、また元来た道を戻っていく。その姿がどことなく微笑ましく写る。それは、やけにがたいの良いバイトと一緒に居るせいか、少し小柄も相まってかもしれない。まあ何はともあれ、自分の為に歓迎会をしてくれると言う事。やはり嬉しい。自然と胸が踊り、浮かれ気味なってしまう。と、時刻は正午近くになっていた。自分は正午で、シフトから外れる。近年の政府の進める働き方改革ということが、世間でも取りざたされるようになってから、労働時間が厳格になっていきているのだ。特に市の運営と、肉体労働ということもあり、特に厳たる対応を実施している。その事もあり、時間通りに上がれ、その後の予定が組みやすいのは事実。なので、それまでに引継に関する事柄をまとめ、スムーズに事が進むように、準備する必要があるのだ。


 だが、やはり人の混雑状況や、バイトを始めて浅い事もあり、そういった配分がうまくいかない。理想はバイト上がり1時間前ぐらいから、引継の準備をするというのが、目指す形ではある。が、今日は前者の理由で、定時に上がれることが出来るかわからない状況に陥っていた。


 また、半人前だとはいえ、引継ぎぐらいはしっかりやりたいと思っている中での、大幅な遅れに焦りの色を隠すことが出来ず、思わず独り言を口にする。


「うんっと。この用具は返却にきたから、こっちに置く。空気入れてもらうとして…… 後何かしようと思っていたんだよな何だっけなーー」


 腕を組みながらレンタル部屋の天井を見上げつつ、背後のプールサイドに目をやると、大きく息を吸った。


「あっ、U型遊具がなかったんだ!!」


 そう叫び、慌てて奥から浮き輪を2、3枚持ってくると、ハンドポンプで空気を入れ始める。普通の浮き輪より、気持ち大きいせいが、思いの外空気が多く必要なようで、膨らみ具合が遅い。


「さっき気づいていたのにーー」


 壁時計を睨みつつ、懸命に腕を動かし続ける事暫し。急ピッチで、完成させた浮き輪一つを手に、陳列場所へと急いでプールサイドに出た。


「あっっつ!!」


 正午を迎える時刻に近づき暑さはピーク。また今日は天気も開場から晴天と、日陰で作業をしていたせいもあり、プールサイドがやたら熱く感じる。


「この暑さだとプール入りたくもなるよな」


 改めて納得しつつ、残りの浮き輪を完成させるべく、奥へと行こうとした。その時、斜め後ろになる幼児用プールが視界に入った。奥に監視台に座る実々瀬と15メールの浅瀬プール。自分の一番手前に子供用遊具付のプールを完備し、家族連れが楽しそうに遊んでいる。そんな中、1家族がプールを出て、更衣室の方へと向かって行く。


 だが、その中の一人の男児だけがまだ、遊びたりないのか、出るのを渋っていた。だが、親は、お昼ということと、自分達が行ってしまえばいくら渋っていても遊びを切り上げ、ついて来るであろうと親は読み、子供を置いて更衣室へと向かって行く。     

 その予想は見事に的中し、暫くプール内で止まっていたものの、親が見えなくなった事により不安になり、泣きながらプールから出る。そして、親元へ向かうべく、更衣室に行こうとしたのだ。その直後、プールの縁に立ったものの足を滑らせ、プールに落ちた。


(分かる。分かる。あのぐらいの歳はあるよーー)


 その様子を目にし、変に納得してしまっていた。が、時間は刻々と定時に近づいているわけで、自分の立場が危うい事を思い出し、奥に足を向ける。その矢先、やけに水音がすると思い振り返ると、先程背後から落ちた幼児から発せられていたのだ。ふと監視台に目をやると実々瀬は客に何か質問をされている様でこの状況に気付いていない。一瞬ふざけているようにも思えたものの、もしもという事もある。しかも出るつもりでいた子供がそんな事をするのかと疑問に思い、ゆっくりと歩みよりながら、子供に視点を合わせていく。少しずつ近づいて行く中で、水面を顔が出入している事に気づき、足が一気に駆け足と替わり、常備している警笛を口に加えた。



※※明日20時以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※

※ハート、初星、初コメント有難うございます! 貰えてびっくりしております

(すこぶる嬉しいです)

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