第2話 ザトウクジラの親子
シュノーケリングやダイビングは割と得意な方だったから、同じく鯨類が好きな教授に、ウォッチングじゃなくてスイムがいいんじゃないかって言われた。
色々調べてみると、確かに楽しそうだった。必ず鯨に会えるわけじゃなくとも、海は好きだし、行ってみようと思った。
「潮風気持ち〜!」
まずは船に乗って、鯨を探す。美しい青の空を見ながら、冷たく気持ちのいい潮風を浴びていた。
正直、鯨が見れるかなんて運次第。早く見つかるかもしれないし、夕方になっても見つからないかもしれない。ずっと海の上にいたら飽きる可能性だってある。
だけどやっぱり、鯨に会いたくてここに来た。
初めは見れないだろうと思って来た。やっぱり自然の生き物。そう簡単には会えない。その上、海はあんなに大きな生き物が悠々と泳げるほど広いのだから。
そう、見れないと思っていた。
船に乗ってからしばらく経った。太陽の位置はさっきよりも西に傾いていた。
青空と青い海の境に黒い物体が浮き上がるのが見えた。
「あれなに?」
一人の女性がその物体を指さしている。船は着々とその黒い物体に向かって走っていた。
鯨に近づけるかどうかは船の操縦技術によってだいぶ変わってくる。レーダーを駆使して鯨を探さなければいけないし、スピードにも気をつけなければいけない。
並の技術では鯨と一緒に泳ぐなんてできない。
それなりに近づいたというところで、船は止まった。あまり近づきすぎると、鯨たちに警戒されてしまう。
「鯨にストレスを与えないように気をつけて
操縦士さんからそう告げられ、船に乗っていた私たちはゆっくりと海の中に入った。
潜って見えたのは、海水浴の時とは姿が全然違う海だった。暗くて深い。少し怖いが、それでもなお美しい。
そして、その先に見えたのはザトウクジラの親子。子鯨が母鯨に一生懸命ついて行ってる姿が目に入った。そんな姿が可愛らしくて仕方ない。
近づきすぎないよう、ゆっくりと泳いで鯨の親子を眺める。けど、ゆっくりすぎたのが良くなかったかもしれない。みんな、思っていたより泳ぐのが早かった。
気づいたら、少しみんなと離れていた。もちろん、ガイドさんがついているから置いてかれるということはない。それでも離れてはいたので、追いつこうと泳ぐ。
泳ぐことに必死になってしまい、右の脚がつりそうになった。
やばい、これ以上泳いだら完全につる……! 治まるまで待機しとこう……。
少しじっとしていると、ガイドさんがこっちに気づいて、体の向きを変えた。と、同時に子鯨もその大きな体をこちらへ向けてきた。
なになに、怖い怖い。私なんかしたっけ!? いや、したら母親が怒るよね。いや、そんなこと考えてる場合じゃないし!
動こうにも動けない状態で焦っていると、子鯨が下からゆっくりと上がってくる。いくら子どもとは言え、人間なんかよりも遥かに大きな体を持っている。
そんな巨体にぶつかったら、骨なんて簡単に折れてしまう。
しかし、子鯨は私が思っていたよりも軽く押し上げてきた。子どもでもこんなに力加減ができるものなのかと、私は少し驚いた。
子鯨は私が大変な状況に陥ったことを悟ったらしく、私をみんなのところまで連れていこうとしてくれていた。
とんとんと私を押す。ある程度みんなに近づくと、ガイドさんが私の事を引っ張ってくれて、合流することができた。
子鯨と母鯨は、私が合流したのを見届けると、海の彼方へ消えていった。
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