第50話新年

新年を迎えるまで後十分ほどの時間しか無い。

尊は年越しそばをギリギリの時間に用意すると僕らはそれを啜っていた。

もちろん尊以外はお酒を酌み交わしており、ほろ酔いのいい気分で暖房の効いた暖かな部屋でその時を待っていた。

年越しそばを食べ終えた辺りでカウントダウンが始まり僕らは今年に起きた様々なことを思い出していた。

テレビの向こうの芸能人がカウントダウンを始めると遂にその時はやってくる。

「新年明けましておめでとうございます」

僕らはその場に居る全員を見渡すと礼節を重んじて深く頭を下げた。

「じゃあ日の出まで仮眠しようか」

酔いを覚ますために僕らは各々の部屋に向かうとそのままベッドに向かう。

僕と尊は同じベッドに潜ると今までのことを思い出話のようにして語っていた。

もちろん僕と尊の間にはマリネもいて二人と一匹の思い出話は誰かが眠るまで続くのであった。



「おめでとう。これでもう寂しくないだろ?家族も出来て。本当に良かったよ。またいつの日か会いに来るんだぞ。だがなるべく遅くな。そっちで十分過ぎる程に幸せを感じたらこっちに来るんだ。また家族全員で過ごそうな。またいつか…」



僕の身体を揺する尊のお陰で寝過ごすこと無く起きることが出来た。

「おはよう。今何時?」

眠気眼で尊に尋ねると彼女はスマホの画面を目にして応えをくれた。

「もうすぐ六時だよ。海まで歩いて行こ」

「うん。詠とみどりさんも起こさないとね」

「もう起きているよ。リビングで撮影の準備している」

「撮影?今日からもう仕事?」

「初日の出だけはしっかりと撮っておきたいんだってさ」

「了解。すぐに起きる」

ベッドから這い出ると尊と並んで階下に降りていく。

二人は既に準備万端とでも言うように撮影機材とタンブラーの用意をしており僕は詠に軽く急かされる。

「成哉〜早く準備して〜」

何処かテンションの高い詠に軽く微笑むと了承の返事をしてすぐに準備を済ませる。

僕らは全員で家の外に出ると近くの海まで向かう。

近所の人達はここが日の出のベストスポットだと知っているようでかなり多くの顔ぶれだった。

もちろん星宮の両親も既に居り僕と尊は挨拶に向かう。

詠とみどりが撮影の準備に取り掛かっている間に星宮の両親と昨日の続きのような会話を軽くして過ごしているとその時はやってくる。

初日の出が登ってくるのを拝むとその美しさにただ感動や感謝の念を抱いた。

今日も生きていられることに感謝すると天国で僕のことを見守ってくれているであろう家族に手を合わせた。

「帰ってお雑煮食べよ。身体冷えただろうから風邪引かないようにね」

尊は既に母親の様な世話上手の風体で僕や詠やみどりに声を掛けていた。

「ちゃんと撮れたし帰ろう〜。お姉ちゃんのお雑煮楽しみ〜」

詠は意気揚々と片付けを済ませたので僕らは揃って帰宅する。

僕の腕に抱かれていたマリネはこちらを振り向くとキレイな瞳で僕のことを視線で射抜いていた。

「今年も…これからもずっとよろしくね?私のほうが先に年を取って亡くなるんだけど…それでも最期の時まで私の相手をしてよね?」

そんな寂しい事を言っているように思えて僕は何と答えたら良いのか迷ってしまう。

「そんな顔しないで。だって私が天国に行ったら成哉の家族に会えるんでしょ?それなら私はいつまでも幸せだよ。天寿を全うすることは寂しいことじゃないよ。この世界のゴールに向かうだけ。次のステージに進んで私はまた違う場所でスタートを切るの。ずっとそれの繰り返し。また何処かで必ず会えるから。そんな寂しい顔しないで?私はずっと成哉を忘れないよ。ずっとずっと見ているからね?」

マリネは僕に真摯に向き合ってくれている。

僕もそれに応えなければならないのだ。

だから寂しさを覚えても泣き言など言わない。

僕は全力の笑みをマリネに向けるとぎゅっと抱きしめてマリネの想いに応える。

「僕も絶対に忘れないよ。いつまでも家族でいつまでも一緒だよ」

「それでいいのよ」

マリネは美しい声で鳴くと僕の頬をザラザラとした舌でチロリと舐める。

僕らはお互いに涙など浮かべずに今後もよろしくと言わんばかりに仲良く帰宅する。

帰宅すると尊の作ってくれた暖かいお雑煮を頂いて新年はここから始まろうとしていた。

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