第48話大晦日のプロポーズ

大晦日が世界にはやってきていた。

今年を終える日に僕ら家族は揃って自宅で過ごしている。

「夜に年越しそば食べるから…夕飯はどうしたい?」

尊は仕事をやめても食事係を引き続き担当してくれるようだった。

「鍋が良い!」

詠の元気な発言によって僕らはそれに了承するように頷く。

「詠ちゃん。冬になったら鍋が食べたい。ってずっと言っていたもんね」

みどりはフォローするような言葉を口にして僕と尊は二人の仲の良さを改めて感じていた。

「星宮家にも顔出さないとだよね」

僕は尊と詠に尋ねるように口を開く。

彼女ら姉妹は顔を見合わせると頷き合っていた。

「そうだね。来年は…いいや…まだわからないけど…」

尊は意味深な言葉を僕ら家族に投げかけるので残された皆は顔を合わせる。

「まさか…お姉ちゃん…」

詠は何かを察したのか姉の元へと向かい耳打ちをしている。

みどりも事情を理解したようで表情を明るくさせて二人のもとまで向かう。

「なに?何が起きてるの?」

一人だけ事情を理解できない僕は皆の顔色をうかがっていた。

「いや…まだわからないし…気のせいかもしれないんだよね…」

「え?何の話ししてるの?」

未だに理解が及ばない僕に詠とみどりは呆れるように嘆息した。

「全く…これだから…」

詠は完全に僕のことをバカにするように嘲笑すると首を左右に振った。

「尊さん…早く言ったほうが良いんじゃないですか?」

みどりにせっつかれて頷いた尊は僕のもとまでやってくると少しだけ恥ずかしそうな表情で口を開いた。

「赤ちゃん…出来たかも…」

伺うように僕のことを上目遣いで見つめる尊に僕は言葉を失ってしまう。

「マジ…?」

コクリと頷いた尊を見た瞬間、僕はもうずっと前から覚悟を決めていた言葉を口にした。

「やっと言えるけど…結婚しよう。僕と本当の家族になって欲しい」

僕の日常的でありきたりなプロポーズに尊は静かに頷いて応えてくれる。

「もちろん。ずっとその気だったよ」

「そうか…家族が増えるんだな…」

「そうね。気が早いかもしれないけど成哉くんは父親になるんだよ」

「そうなんだな…不思議な気持ちだ」

「そうね。私も母親になるのか…」

「これからもお互い助け合って生きていこうね」

「うん。これからもよろしくね?」

それに頷くとその場にいた詠とみどりは祝福の言葉を掛けてくれる。

「二人共おめでとう!」

「私からもお祝いさせてください」

二人からの祝福の言葉を浴びているとマリネは僕の背後にやってきて、踵の辺りをツンツンと口で突いた。

後ろを振り返るとマリネは今までで一番の美しい鳴き声で僕らに祝福の言葉を掛けてくれているようだった。

「おめでとうね。私はずっとこうなることを待っていたんだよ」

そんな言葉を掛けられているような気がしてならなかった。

「ありがとうね。マリネちゃん。これからもよろしくね?」

マリネは僕の返事に応じるように再びキレイな声で鳴く。

「じゃあ今日は夕飯前に実家に顔出さないとだね。結婚の報告もしないと」

「そうだね。今から緊張してきたよ」

「大丈夫。絶対に反対されたりしないから」

「そう思う?」

僕の伺うような言葉に姉妹二人は当然とでも言うように心強く頷いてくれるのであった。


次話予告。

星宮家へ…。

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