第47話大掃除競争撮影
クリスマス当日も二人きりの甘い時間を過ごしていた。
肉体的に繋がった僕らは明らかに以前よりもお互いを近しい存在と感じるようになり確実に安心感のようなものを抱いていた。
スーパーに向かって夕食の買い出しを済ませるとクリスマス当日も家でイチャイチャする時間は過ぎていく。
そんな二人だけの甘い時間が過ぎていくと本格的に年末は顔を出して迫ってくるのであった。
「じゃあ成哉は各部屋の定点カメラの設置お願い」
詠の合図により本日も撮影は始まろうとしていた。
「了解。皆は掃除の準備?」
「そう。カメラの設置が終わったら全員が各部屋で掃除を行おう。誰が一番真面目に綺麗に掃除していたか。そんな競争のような感じで大掃除企画を進行しよう」
僕らは今回の詠の企画に賛同するとそこから準備に取り掛かるのであった。
各部屋のカメラの設置が終わると僕らは一度リビングに集合して詠の挨拶から動画の撮影は始まった。
詠は詳しく企画内容を話すとそこから僕らは企画に沿って大掃除を始めていく。
何時間も掛かると思われる大掃除企画を全員が全力で行っていくと正味五時間ほど撮影していた。
全ての部屋の掃除が終わると再度リビングに戻っていった。
「じゃあこれから録画を確認して編集してから順位発表を後日行います!本日の動画はここまで!では!皆さんお疲れ様でした!」
詠の締めの挨拶によって僕らは録画停止ボタンを押す。
「企画にしたから大掃除も面倒な感じじゃなかったね」
詠は今回の企画に手応えを感じているらしく嬉しそうに微笑んでいた。
僕らもそれにウンウンと頷くとソファに腰掛けた。
「コーヒー淹れるよ」
尊はすぐさまにキッチンへと向かうと人数分のコーヒーを淹れてくれる。
「こんなに幸せを感じる年は生まれて初めてでした。来年も幸せな年であって欲しいです」
みどりは心地の良い疲れを感じているらしく軽く伸びをしてソファに腰掛ける。
「クリスマスはどうだったの?」
詠は空気を壊すような言葉をわざとらしく僕らに向けて投げかけてくる。
僕も尊も聞こえないふりをしてそっぽを向いていると詠はニヤニヤして誂うような言葉を口にした。
「おめでとう。お姉ちゃんも過去を吹っ切れたんだね。成哉も良かったね」
目を細めて詠のことを凝視すると彼女は手を払うような仕草を取った。
「違うよ?誂ってないから。本当に祝福してるから」
言い訳を重ねるような詠の言葉に苦笑すると軽く感謝の言葉を口にした。
「まぁ…受け取っておくよ。詠とみどりさんが気を遣ってくれた御蔭だから。素直に感謝する。ありがとう」
詠は少しだけ困ったような表情を浮かべると後頭部のあたりを軽く擦って照れているのを隠しているようだった。
「そんなに素直に褒められるとね…」
モゴモゴと口を開いた詠に僕と尊は顔を合わせて苦笑する。
「どうぞ」
尊はテーブルの上に人数分のマグカップを持ってくる。
そのまま腰掛けた尊は何かを思案しているようで天井を眺めていた。
「次の企画は何にしようか?」
「お姉ちゃんも板についてきたね。今さっき撮影が終わったところなのにもう次のこと考えるなんて…」
「だって新年を迎えたらしばらくは撮影できなさそうじゃない?」
「ん?何か予定入っていたっけ?」
詠は姉の発言に疑問を感じたのかスマホを取り出してスケジュール帳を開いていた。
「いや。まだわからないけど…そんな気がしただけ」
「どういうこと?」
「本当になんとなくだよ。なんでも無い」
姉妹でも通じ合わないことがあったようでチグハグな会話が繰り広げられていたが、この場にいる人間は誰も話の本質を理解できていなかった。
「とりあえず。大掃除は終わったから次はおせちを作らないとだね」
尊の言葉に僕らは苦笑すると詠が代表して口を開いた。
「もうその企画はやったよ」
「そうじゃなくて。ちゃんとした新年を皆で迎えたいでしょ?皆で過ごす初めての新年なんだから」
「あぁ…そうだね。撮影のことばかり気にしてたわ…」
「一旦今日で仕事納めにしましょう。最後に編集して結果発表の動画だけ撮ってさ」
それに僕らは頷くと作業部屋へと向けて尊とみどりは歩き出した。
僕と詠とマリネはリビングのソファで腰掛けている。
詠は何気なしに口を開いて世間話を始める。
僕はそれに合わせて会話を進めていきながらマリネのことを膝に乗せて喉元や頭を軽く撫でてあげるのであった。
編集が終わると再び動画撮影は始まる。
結果発表だけの動画だったが、順位は一位が尊で二位が僕。
三位がみどりで四位が詠だった。
わちゃわちゃと騒いだ一日が終りを迎えると明日からは仕事のことをなるべく考えないようにして過ごすのであった。
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