第46話クリスマスイブ。一夜の出来事で関係性は変化していく
クリスマスイブがやってきていた。
詠とみどりは気を利かせて明後日まで星宮家で過ごすらしい。
そんなわけで現在、僕と尊はリビングで二人きりだった。
マリネも一緒に過ごすはずだったのだが詠に捕まると星宮家まで連行されていった。
本当に久しぶりの二人きりの時間がやってきていて僕らはどちらからともなく口を開く。
「何しようか?」
特別な予定は組んでいなかったため外に出るわけでもなく昼を迎えるというのにリビングで寛いでいる状態が続いていた。
「ちょっと…話があるんだけど…」
尊は言い難いことを言葉にしたいようで表情を察するにかなり苦悩しているようだった。
「大丈夫だよ。話せるようになるまで待つから」
「ありがとう…」
そこから数分ほど思考を巡らせていた尊は遂に決意をして口を開く。
「実は…仕事辞めたんだ。二学期までで仕事辞めてて…今まで言えなくてごめん…」
「あぁ〜そうだったんだ。じゃあ詠の仕事を手伝うのかな?」
「うん。皆揃ったら言おうと思っていたんだけど…二人共気を遣ってくれてみたいで…」
「そっか。十八日まで仕事だったもんね。そこからは半日授業だから仕事が無いんだと思っていたよ」
「半日授業になったのはそうだよ。そこから二学期末まで有給扱いでその分のお給料は上乗せしてもらえるんだ。昨日、一昨日と話す機会はあったんだけどさ…なんとなく言いづらくて…」
「まぁ…そういうものだよね。仕事辞めたことって言いにくいじゃん」
「そう言ってくれて助かるよ…」
そこで自然と会話が途切れると僕らはテレビに映る番組を適当に眺めていた。
僕と尊の関係は精神的に繋がっていると思われる。
別に無言の状態が続いても心がざわつくことはない。
無理に話題を探すようなこともあまりない。
喧嘩らしい喧嘩も今までそんなにしてこなかった。
お互いが居心地の良い環境で毎日を過ごしていると思っている。
なんとなく番組に飽きを感じたころにテレビ画面におすすめの映画を流してみた。
尊も文句のような言葉は口にせずにキッチンへと向かうとコーヒーを淹れてこちらに持ってくる。
片方を僕に渡して一緒に持ってきたお菓子をつまみながら映画が終わる二時間ほどの時間をまったりと過ごしていった。
その映画には続編があるらしく、現在上映中らしい。
スマホで上映スケジュールを確認すると丁度一時間後に上映するとのことだった。
「続き観に行く?」
「観たいな。今やってるんだっけ?」
「うん。一時間後」
「じゃあすぐに準備する」
そこから数十分で尊は準備を整えると彼女の車に乗り込んで映画館のあるショッピングモールへと急ぐのであった。
クリスマスイブの映画館は思いの外、混雑していたがどうにかカップルシートをゲットすることが出来た。
二人してポップコーンと飲み物を購入すると館内へと入っていく。
席に着くとすぐにCMが流れてきて上映時間を迎えた。
今作も二時間ほどの上映時間で僕らは映画に見入っていた。
あっという間の二時間が過ぎていくと僕らは満足したような表情で館内を出る。
「面白かったね。帰りにスーパーに寄っても良い?」
「うん。たまにはこういうのも良いよね。夕食の買い出し?」
「そう。二人だから…いつもより豪華な夕食にしよう?」
「良いのかな?二人に悪くない?」
「悪くないよ。実家で良いもの食べているはずだから」
「それもそうだね。じゃあ行こう」
僕と尊は駐車場に向かうと車に乗り込んだ。
そこから近所のスーパーで食材を買い込むと帰宅するのであった。
帰宅すると尊はすぐにキッチンへと向かいオーブンの予熱を行っていた。
きっと買ってきた七面鳥を焼くのだろう。
夕食を楽しみにしながら僕は自然とメモ帳と向き合っていた。
何をしているかと言えば…。
詠の仕事の企画を考えているのだ。
尊も加入するということで、どの様なタイミングで彼女を表に出すことがベストなのか。
そんなことを考える必要があると思われた。
もう僕も詠の仕事を手伝うと言うよりも本格的にメンバーの一員になっている。
メモに様々な企画を書き記していき時間だけがあっという間に溶けていく。
仕事をするということをしばらく休んでいたため今は夢中になっている状態だった。
脳も身体も心地の良い疲れを感じる感覚が、たまらなく生きている実感を感じさせる。
僕は今生きている。
今日も生きられて美味しいご飯が食べられて暖かな家で眠れる。
そんな当たり前のことに感謝して、それを実感できる喜びに身を任せていた。
尊は数時間の料理を終えるとテーブルにそれらを運んでいた。
「もう食べられるけど…どうする?」
「温かい内に頂きたいかな」
「じゃあ食べよう」
そうして僕らはいつも以上に気合が入った尊の料理をワインと共に美味しく頂くのであった。
夕食も終わり、引き続き晩酌をしていると良い時間になっていた。
尊は頬を赤らめて今にも眠ってしまいそうな表情を浮かべている。
「寝よ?」
尊の手を取って立ち上がらせようとすると彼女は僕をガバっと抱きしめる。
「もう…良いよ?成哉くんとなら…怖くないよ?」
その言葉の意味を僕ははっきりと理解することが出来る。
ゴクリとつばを飲み込んで彼女を優しく抱きしめると一度離れた。
「本当に良いんだね?僕は急かさないよ?」
「うんん。もう…肉体的にも繋がりたいの…」
「………」
その言葉に僕の押さえつけていた欲望は一気に蓋を開けて飛び出した。
「じゃあ…行こうか…」
そうして僕らは寝室へと向かい、クリスマスイブに初めて身体を重ねる夜を過ごしていくのであった。
ここからまた僕らの関係性は変化していく…。
そんな予感を感じさせる一夜の出来事なのであった。
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