第44話大晦日から三が日までの動画のストックを撮影しよう
世界に十二月が訪れていた。
今年は暖冬と言えど肌寒く厚着をしないと過ごすのも厳しそうだった。
退院をして数日が経過した現在は詠の仕事の手伝いを率先して行っていた。
「大晦日から三が日までの動画を撮りためておきたいんだよね。企画から考えて少しでも楽しんで貰える動画になったら嬉しいんだけど…」
詠の部屋で僕と詠とみどりの三人で会議は行われていた。
「企画の段階から考えるんだな…。例えばどんなアイディアがあるんだ?」
僕の問いかけに詠は一応スマホのメモ機能に書き記していた内容を見せてくる。
「こんな感じなんだけど…。おせち料理作って食べるとか…飲酒配信とか…。これはドッキリって体で考えたんだけど…みどりにお年玉って言って一万円渡したらどうなるか!?みたいな企画も一応考えていたかな…先に裏でネタバレしておくけどさ。みどりの好感度アップって企画なんだけど…。そんなことしなくてもみどりは好感度高いんだけどね…。軽いヤラセみたいな企画だけど…みどりが出るとそれなりに数字も回るし視聴者も喜んでくれるんだ」
詠は若干気まずそうな表情を浮かべて罪の告白でもするようにしてメモの内容を口にした。
「う〜ん。ヤラセみたいな企画は…やめたほうが良いんじゃないか?それならば、おせち料理を二人で作って。それをつまみに飲酒雑談配信。最後にお互いがお年玉を用意していました。みたいな仲良しアピールのほうがお互いの印象が良くなるんじゃない?」
「あぁ〜…。そうだね。ってかキッチン使っても良いの?」
「問題ないだろ。撮影は僕がするよ。映したら住んでいる場所が知られてしまう物は映さないようにするから。編集はみどりさんがするのかな?その時も一緒に作業しよう。もしも僕が映してはいけないものを撮っていた場合は都度都度言うから。そこは編集して欲しい」
「わかりました。じゃあ私達はこれからおせち料理の内容を調べて…終わったら皆で買い出しに行きましょう」
「おぉ〜!」
そこから僕らはパソコンやスマホを使って各々の作業に取り掛かるのであった。
おせち料理の内容をネットで調べた僕らはそのまま部屋を抜ける。
みどりの車で彼女の運転で近所のスーパーに向かうと買い出しを進めていく。
正味小一時間ほどの買い物の時間が過ぎていくと帰宅する。
キッチンへと向かった僕らはそこから撮影を始めた。
「皆様。新年明けましておめでとうございます。御存知の通り…十二月に撮影しています。とまぁそんなことはさておき…。えぇ〜。では本日はおせち料理を作るという企画ですね。もちろんみどりにも手伝ってもらいます。みどり〜入ってきて〜」
「は〜い。明けましておめでとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いします。じゃあ早速本日もやっていきましょう」
冒頭の挨拶から動画の撮影は始まっていき、そこから早速料理に取り掛かるようだった。
意外と言ってしまったら二人に失礼かもしれないが…。
この家で料理をするのは尊だけなので他の女性人は料理下手だと思っていた。
だが実際はそんなこともないらしく慣れた手付きで作業を進めている。
あっという間に同時進行で沢山のおせち料理を作っていく彼女らは余裕そうに雑談まで混ぜていた。
撮影時間は四時間ほどだっただろう。
おせち料理が出来上がるとお重に詰めていく。
「じゃあ次回はこれをつまみに飲酒していこうと思いま〜す!皆さんから頂いたコメントや質問などにも答えていくのでお楽しみに!では今回はここらで…」
詠が締めの挨拶をするので僕は録画停止のボタンを押す。
「おつかれ。相当余裕そうだったね」
そんな何気ない言葉に二人は必死で首を左右に振った。
「全然だよ。結構ミスったから編集でどうにかしないとだし…」
「私も。普通にカメラから外れて工程を調べていましたし…」
「お姉ちゃんみたいに何も見ないで何でも作れる域には全然到達できないよ…」
「本当ですよね…。尊さんは凄いって改めて実感しました…」
二人は軽く自信を無くしたような表情で項垂れた。
「そんなことないでしょ?二人共、想像以上に料理上手だと思ったよ」
僕の言葉を耳にした詠は軽く目を細めて僕を視線で貫いた。
「何?私達が普段料理しないから…もしかして下手だと思っていた?」
「まぁ…」
正直に答えて頷いて見せると詠に軽く肩を叩かれる。
「デリカシーないわね!出来ないわけ無いでしょ!」
「ごめんごめん。実際に見たこと無いから…そう勘ぐっていただけだよ」
「はいはい。成哉はお姉ちゃんの料理にしか興味ないもんね。だから、このおせちはあげない。みどりと二人で飲んで食べるわよ」
「………」
「何?そんな顔してもあげないから。失礼なこと言った罰よ。行こう。みどり」
そうして二人はおせちのお重を抱えて作業部屋へと歩き出した。
撮影を手伝うので僕も後を追わないとならないのだが…。
彼女らの機嫌を直すためにお酒の瓶を持って作業部屋へと向かった。
彼女らは別に不機嫌になっているわけではないらしく僕を普通に歓迎してくれた。
「お酒はここに置いて。カメラセッティングして…集めておいたコメントと質問のデータがあるからモニターに表示して」
詠は僕に色々と指示をすると彼女らは鏡で自分の姿を確認して再び撮影へと向かうのであった。
そして、そこからの三日間で大晦日から三が日の分の動画のストックは出来上がるのであった。
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