第43話犯人は捕まり、たまたま傷付いたのが僕で良かった…

緊急搬送されているのか…。

気を失っている間に誰かが救急車を呼んでくれたのだろう。

ありがたいことだ…。

今の失血の量を見れば、きっと警察も呼んでくれたはずだ。

という事は、僕の大切な人達もきっと無事に守られているだろう。

安心した所で再び気が抜けると意識を失っていくのであった。



麻酔が掛かっているのか靄がかかったような視界でもここが手術室だと理解できる。

ピッピッと機械音が聞こえてくるのと執刀医とその助手の話し声が時々聞こえてくる。

どうやら手術は上手くいっているようで医者も話ができるぐらいの様態なのだろう。

安心すると再び意識を失っていくのであった。


「まだだよ。こっちに来るのは早すぎる」

「家族に会いたいのは分かるが…もっと自分も大事にな」

「成兄。しっかりしてよ。諦める様に生きるのはやめて。私の好きな成兄に戻って欲しいな」

「生きるのは辛いよな。独りも辛い。でも生きているだけマシだろ?今日も生きられるんだ。幸せなことだろ?もう目を開けて。新たな家族を安心させてやれ」

「尊や詠ちゃんを大事に思うのは分かるよ。こっちでずっと見守っているからね。でもそれと同じぐらいに自分を大切にね。最期の時まで一生懸命に生きなさい」


夢の中で家族に会っていた気がする。

脳内には言葉の数々が記憶されていた。

もしかしたら僕の妄想のようなものだったかもしれない。

けれど家族に力強い言葉を投げかけられて再び目を開ける勇気を頂くのであった。


明らかに個室の病室のベッドで僕は横になっていた。

傷口が酷く熱く痛みにも似た感覚を覚えたがどうにかなりそうだった。

すぐにナースコールを押すと対応される。

「傷口は痛いですか?痛み止めの点滴を入れているのでしばらくは大丈夫だと思うんですけど…痛くなったらまたナースコールで呼んでください。他に何かありますか?」

「えっと…家族に連絡をしたいんですが…」

「はい。こちらからすぐにしておきますから。ゆっくりと休んでいてくださいね」

「わかりました…」

そうして僕は久しぶりに一人きりの夜を過ごすと明日の朝を待ち遠しく思うのであった。


病院から連絡が入り、私と詠とみどりは朝イチで家を出た。

どうやら犯人らしき人物が駅の監視カメラに映っていたらしく、すぐに警察はその人物に任意同行を願ったらしい。

そして、その人物は犯人だったようだ。

自白して罪を告白したらしく、詠とみどりの件の犯人でもあったらしい。

もしも二人が恐怖を覚えていても相談出来なかった場合のことを想像すると寒気が止まらなかった。

あの時、警察署に向かった私の行動は間違っていなかった。

間違いがあるとしたら成哉くんを家に置いて行ってしまったことだ。

大事な人を傷つけてしまった私は成哉くんに合わせる顔が無いと感じてしまう。

だが詠とみどりに背中を押されて私はどうにか家を出ることが出来たのだ。

病院までの道のりがやけに長い気がしてならなかった。

このまま一生病室には辿り着けず、恋人にも会えないのかと錯覚してしまうほどだった。

だがそんなものは妄想に過ぎず、数十分で病院へと着くと車を駐車場に停めた。

私と詠とみどりは揃ってお見舞いに向かう。

個室の病室でテレビを眺めている恋人を見て私は安堵する。

安堵とともに溢れんばかりの涙が流れてくる。

安心したのは詠もみどりも同じようだった。

自分たちのせいで大事な人を失うわけにはいかなかったのだろう。

目元のクマを見るに二人共、恐怖や不安で数日間眠れていなかったはずだ。

私も同じ気持ちだった。

彼女らにもあっただろうが心配する気持ちも異常なほど胸を覆い尽くしていた。

目の前で元気な姿で再会できた恋人に近づくと私はすぐに謝罪を口にしようとする。

「ごめん。心配掛けた。ミスったよ…」

だが先に謝ったのは恋人の方だった。

「え…?何で成哉くんが謝るの…?」

「いや、言葉通りだよ。あんな相談されていたのに…気が緩んでた。玄関の扉を開ける前に確認すれば良かったし…。油断して相手が波ちゃんや咲凪ちゃんだと思っていたんだ…。目の前に知らない男性を捉えた時…僕は自分の行動の是非を考えたよ。明らかに間違った行動を取っていたと思う。そのせいで皆に不安を感じさせたし、心配にもさせたと思う。それに皆、僕が傷付いたことによって…自分を責めたでしょ?この件で悪いのは犯人だけだよ。強いて言えば…後は僕だね。失敗してしまったよ。全ての人を許したことによって…完全に気が抜けていた…。皆。ごめん…」

正直に思っていることを口にするが皆、首を左右に振って応えた。

「悪いのは私だよ…。成哉くんを家に残した…」

「いいや。悪いのは私だよ…。私が動画配信なんて始めたから…」

「いいえ。悪いのは私です。もっと気を付けないといけないってずっと思っていたのに…怖くて口にできなかった…」

各々が謝罪を口にして深く頭を下げるのだが…。

「ここは謝罪会見場か?誰も悪くないって言ってるだろ?たまたま傷付いたのが僕で良かったよ。皆は無事?」

微笑みを浮かべて問いかけると彼女らは何とも言えない表情で頷く。

「そう。じゃあ退院するまで家で待っていてよ。すぐに戻るから」

「ごめんね…」

それぞれが僕に謝罪をしてくるのだがそれを受け取ることはない。

首を左右に振って励ましの言葉を口にした。

「詠とみどりさんは…これからも動画配信をちゃんと続けてね?今回の件でやめる。なんて言わないでよ?」

「でも…」

詠とみどりは明らかに俯いて気が引けているようだった。

「ほら。これからも詠やみどりさんの活躍を待っている人達は沢山いるでしょ?」

「でも…」

「僕と尊さんもその一人だから。ちゃんとやってほしいな。今度から僕も本格的に手伝っていいかな?」

「良いの…?」

「もちろんだよ。ちゃんと見守るし。ちゃんと手伝う。二人を危険にさせないためにも。これからこんな事が起きないように注意するのも大切でしょ?僕の存在で抑止力になればいいけど…」

「うん…。ありがとうね。じゃあ帰ってきてから…よろしくお願いします…」

「あぁ。じゃあまた家で会おうな」

皆に別れの挨拶をすると彼女らは僕に手を振って病室を後にするのであった。


そこから数週間ほど入院生活を送ると退院の日は訪れるのであった。


師走となり寒くなってきた年末の世界で…。

僕らの関係はまた一つ変化しようとしていたのであった。

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