第40話二人きりの甘い時間。スパイスを効かせて…
「えぇ〜本日はスタッフのみどりちゃんをモデルにしてメイクの実践をしていこうと思います。自分の顔をメイクするのは手慣れているので流れ作業でできると思います。でも他人の顔をメイクするのは少しだけ難しいんですよ。骨格が〜…ベースカラーは〜…服装のニュアンスは〜…髪型からのイメージは〜…みたいな感じでトータルで似合う姿に完成させないといけないわけですね…。では、早速メイクをしていきます」
ある日の動画撮影でみどりはモデルとしてカメラの前にお披露目された。
僕はその日、詠とみどりに呼び出されてカメラマンを担当していた。
詠がみどりに施術をしてから数十分が経過しようとしていた。
施術中は詠とみどりの雑談で話しは盛り上がっていた。
「うん。まぁこんな感じです。どう?」
遂に施術が終了すると詠は僕の名前を呼びはしなかったが明らかに意見を求めているようだった。
無言で何度か頷いてみせると詠とみどりは嬉しそうに微笑みを返してくれる。
「別に喋っていいよ?」
詠は僕に向けて声を掛けてきたが何となく僕は無言で首を左右に振ってみせる。
「何のこだわりよ…」
詠は呆れたように嘆息すると動画を占める挨拶をしてカメラを止めるように指示してくる。
「と、まぁこんな感じで。自分の顔に合ったメイクや服装を見つけると自然と美しく見られると思いますよ。簡単に言えばモテるようになるってことです。自分にあったベースカラーなどの色彩診断もしてみると良いと思います。では、今回の動画はこれにて。お疲れ様でした」
締めの挨拶とともに詠は一度手を叩く。
ここで終了ってことらしいのでカメラの停止ボタンを押す。
「みどりも成哉も手伝ってくれてありがとうね。きっとみどりも人気者になるよ」
詠はみどりに無邪気な笑顔を向ける。
みどりも嬉しそうな詠を見てつられて笑顔になっていた。
「じゃあこのまま編集作業に入るね」
みどりはそのままパソコンに向かい動画の編集作業に取り組んでいた。
「あ…!成哉。そっちのカメラを三脚に立てて…椅子とテーブルが全体的に映る様にしてくれる?」
「あぁ。分かった。またこれから撮影するのか?」
「うん。みどりが編集している間に私はゲーム配信をして再生数と投げ銭で稼がないと…」
「そうか。僕はもう退室して良いのか?」
「うん。逆に見られると恥ずいから」
「わかったよ。じゃあ二人共頑張って。何か飲み物でも用意する?」
「じゃあタンブラーにお茶を二つ入れて持ってきてくれる?」
「了解」
僕はカメラを三脚に立てて定点カメラのようにすると彼女らの作業部屋を出て階下へと降りていく。
冷蔵庫を開けて二つのタンブラーにお茶を注いでいくと再び作業部屋へ向かう。
「はい。じゃあ頑張ってね」
それぞれにお茶を渡すと階下に降りてソファで寛いでいるマリネの元へと向かった。
リビングの時計を確認すると十五時を三十分程過ぎた所だった。
外は少し寒々しい曇り空だったが何となく外に出たい気分だった。
「マリネちゃん。散歩行かない?尊さんの働いている小学校まで歩こうよ」
マリネはそれに了承するように美しく鳴いた。
「寒くない?」
小首を傾げて問いかけてみるがマリネは首を左右に振って応える。
きっと否定の意味だと思うと僕らは玄関へと向かった。
靴を履いて玄関の扉を開くと尊の職場である小学校まで散歩に出かけるのであった。
道中で道草を食ったがそれも僕とマリネの間のコミュニケーションの一貫だった。
マリネが空を飛ぶトンボを見つけるとジャンプして捕まえようとしたり。
猫じゃらしに何故か威嚇のようなものをして眉間にしわを寄せてシャーシャー鳴いていたり。
そんな二人だけに与えられた特別なスパイスを味わうようにマリネとのデートは続いた。
尊の職場である小学校に着くと裏口に向けて歩き出した。
小学校に勤めているあらゆる職員の車が停まっている駐車場に向かうと待っていたその人物は僕らを見つけて破顔した。
「どうしたの?二人でデート?」
尊は僕らを見つけて微笑むと流れるような手付きで車のキーを開けた。
「乗ってく?」
試されているような錯覚がしたが僕は微笑んで頷くと助手席の方へと向かった。
マリネも僕と同じ方角に歩いてくるので車に乗る前に抱きかかえてあげる。
僕の膝の上で丸くなったマリネと運転席で未だに何が嬉しいのか美しく微笑んでいる尊と共に帰路に就いた。
「今日はどうしたの?」
尊は車を運転しながら僕に世間話のようにして問いかけてくる。
「なんだろう。一秒でも早く…尊さんに会いたかったのかな…変だよね」
「うんん。変じゃないよ。私は毎日そんな気分だから。同じ気持ちで嬉しいよ」
「そう…なら良かったよ」
僕と尊の甘い雰囲気にマリネは軽く嫉妬するように注意でもするようにして軽く鳴いた。
「マリネ。いつも二人きりなんでしょ?今ぐらい許しなさいよ」
尊はマリネに冗談のようにして叱責するとマリネも仕方無さそうに口を閉じた。
「今日は何していたの?何でも良いから話を聞かせて?」
尊は僕の全てを知りたがるような口ぶりで日常の何気ない変化や疑問に思ったことを知りたがった。
「今日は…」
そうして僕は本日の出来事を尊に詳細に話して聞かせるのであった。
因みに尊は気を利かせたのか遠回りして二人きりの甘い時間を堪能しているようであった。
次話以降予告。
詠とみどりに迫る影…。
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