第38話未知の世界へと足を踏み出せ!
一ヶ月ぶりの人物が家を訪ねてきて僕とマリネは彼女を仏間に迎えた。
妹の真悠の親友である神室咲凪は、手土産を持参すると仏壇にそれを供えていた。
お線香をあげて手を合わせた神室をそのままリビングに案内した。
「ありがとうね。真悠も喜んでいるよ」
微笑みを向けて感謝を告げると神室はくすぐったそうにハニカンだ。
「少し間が空いてしまって申し訳ないです。本当は毎日でも来たいんですが…」
「ははっ。そんなに真悠を大事に思ってくれていたんだね」
「はい。親友ですので」
きっぱりとはっきりとその事実を口にした神室に僕は嬉しくなって破顔した。
「ありがとう。本当に真悠も嬉しいと思っているよ」
リビングの椅子に腰掛けていた神室に淹れたてのホットコーヒーを差し出すと彼女は感謝を告げてそのままマグカップに手を伸ばした。
「そう言えば…この間来たときよりも靴の数が増えているような気がしたんですが…」
神室は何気ない会話を構築すると玄関の方へと視線を向ける。
別にリビングの位置から玄関の靴が見えるわけではないのだが神室はそちらに視線を向けた。
「あぁ〜…うん。あの頃より同居人が増えたのは確かだね」
「そうなんですね。もしかしてこの間、ビーチで一緒に居た女性と同棲しているとか?」
「それはそうだね。それにその妹と友人と…擬似的な家族みたいな関係になっていて…なんて端から見たら子供っぽいよね」
自虐的な言葉を口にして自分を蔑むような何とも言えない表現に神室は首を左右に振る。
「全然そんなことないですよ。それほど大事だって思える人が増えたんですね」
「そうかもね。家族を失って…やっと少しずつ前に進めているのかもしれない」
「じゃあ良いことじゃないですか。そう言えばこの間よりも顔色が良い気がしますよ」
「ホント?毎日美味しい食事を作って貰っているからかな」
「恋人の手料理ですか?」
「そうだね。小学生の給食を作る仕事をしているんだよね。だから料理上手でさ」
「そうなんですね。料理上手な恋人で羨ましいです」
「羨ましい?」
「はい。私は料理が下手なので…恋人には料理上手な人がいいんです」
「料理上手な人か〜…居なくはないと思うけど…一般人だったら少数じゃない?それこそ料理人と付き合うとか?」
「う〜ん。出会いがあまりないんですよね〜…介護の仕事をしてて…職場の人とはあまり気が合わなくて…過去の友人と付き合う気にもなれないんですよ。だから結構フリーな期間が長いんです」
「そうなんだ。フリーが長いなら自分を磨くのに力を入れたら?なんてお節介なことを言っているのはわかっているんだけどさ…何となく真悠に相談されていると錯覚してしまったよ…ごめんね」
「真悠に同じ様な相談をされていたら…そう答えたってことですか?」
「うん。もちろんだよ。受け身な状態のままでは何も変わらないよって言うかもしれない。受け身というか殆ど投げ出していた僕が言うのもおかしいけどね」
「お兄さんは投げ出していたのに…今は幸せを掴んだんですか?」
「まぁ…本当に奇跡みたいな幸運でしか無いよ。でもその後も色々と合ったんだけどね」
「そうなんですね。アドバイスありがとうございます。今は一人を楽しもうと思います。色々と挑戦してみて…魅力的な女性になろうと思います。また来てもいいですか?」
「うん。もちろんだよ。お線香あげにいつでもおいで。もしも話し相手が見つからなくて…僕でも良いかなって思ったら話に来るだけでもいいからさ。ろくなアドバイスは出来ないけどね」
そこでキレイに微笑んで見せると神室もつられて笑った。
「コーヒーご馳走様でした。では」
「うん。大したお構いもできなくてごめんね。お供物もありがとうね。後で皆でいただきます」
「はい。じゃあまた来ますね」
「うん。気を付けて帰って」
外まで神室を見送りに行くとリビングに戻る。
ソファではマリネが僕を待っていたようで構ってほしそうに軽く鳴いた。
「じゃあちょっと出掛けようか」
その一言でマリネは了承したらしく二人揃って玄関へと向かう。
靴を履いて玄関の扉を開いたら…。
本日もまた未知の世界へと足を踏み出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます