第33話みどりの歓迎会。後編。また一人大切な人が増えた

「私と家族はあまり良好な関係ではなかったんです。何故かはあまり理解していないんですが…そりが合わないと言うか…話が通じないと言うか…私が心を読める人間だと知っているから…気味悪がってあまり関わらないようにしていたんだと思います。そんなわけで私は家族間でも孤独でした。就職して家を出て…彼氏が出来たんです。それから永瀬さんと出会って…私の性質を理解して信じてくれて…家族でも理解してくれない話を他人が理解してくれる場合もあるんだって思いました。その日の仕事が終わると彼氏と一緒に住んでいるマンションに帰宅しました。そして打ち明けたんです。心が読めるんだって…。そうしたら…彼氏も家族と同じ様に私を気味悪がって…離れていきました…。それに職場もあまり良い環境ではないです。こんな性質だからか他人と上手くコミュニケーションも取れなくて…。あの日、永瀬さんと出会ったバス停で私は…仕事をサボろうとしていたんです。でもそのサボろうとした先で何の因果か永瀬さんを助けることになるんです。私は何かしらの運命めいた感情を抱きました。一言で言えない感情が胸を覆って…でもそれが恋愛感情かと問われたら…今はわからないんですが…でも…!この環境が羨ましいのは本当です。私もここに居たい…そんなことを厚かましくも思ってしまうんです…。私は冷たい環境から離れたい。もう私自身が傷付く環境に身を置いていたくないんです…。こんな話しされても困るのは承知の上です…。ただ愚痴のような言葉を聞いていただいて本当にありがとうございました」

みどりは自分の置かれている環境や家族の話をしてくれた。

僕らは黙ってみどりになりきって、その環境を追体験しているようだった。

それは非常に辛く冷たい人間関係に身を置いていることが理解できる。

きっと尊も詠も理解したのだろう。

二人とも顔を引き攣らせて辛そうな表情を隠そうともしなかった。

この場の誰もが口を開こうとしていたが…。

意外にも一番最初に口を開いたのはマリネだった。

美しい声で鳴いたマリネは誰に何を訴えているのか。

この場の誰もが理解できずにいるとみどりはクスっと笑う。

「なんて提案するんですか?おかしいです」

マリネの言葉を誰よりも先に受け取ったのは人の心が理解できるみどりであり、僕らは未だにマリネの言いたいことを理解できずに居た。

「マリネはなんて?」

尊がみどりに問いかけると彼女は首を左右に振る。

「私の口からは…言いにくいことです…」

みどりは尊や詠や僕に遠慮しているようで黙って口を噤んだ。

「マリネ。もう一回」

詠がマリネの元へと向かうと急かすようにお願いをしていた。

マリネは仕方無さそうにもう一度鳴くと僕らは完全に言いたいことを理解する。

「ここに住めばいいじゃない」

マリネはみどりにそう伝えたそうだ。

突拍子もない提案だったが、この場の人間は誰もその提案を拒絶しようしなかった。

「良いんじゃない?私は賛成だけど」

尊が先に口を開き、詠は少しだけ様子を窺っているようだ。

「え?本当に良いの?」

確認するように尊に問いかける詠に彼女は当然のように頷いた。

「でも…ライバルみたいな存在になるかもよ?」

妹の言葉を受けても尊は薄く微笑むだけで何も嫌がった素振りを見せない。

「そうなっても…もしも奪われても…成哉くんがそれを本気で望むなら…私は受け入れるよ。強がりにも聞こえたのなら…違う強がりを言うわ。もしも奪われても…必ず私が奪い返す。それだけの話しなのよ。みどりちゃんの置かれている環境を考えると…私は救いの手を差し伸べたいわ。それを受け取るかはみどりちゃん次第だけど」

尊は余裕な笑みを浮かべて誰よりも自然体な態度でみどりに接していた。

「ライバルだなんて…ありえないです。永瀬さんが私に振り向くことなんて無いってわかっています。永瀬さんが大事にしているのは家族ですから。私を構ってくれるなんて期待してないです…」

みどりは自分を卑下するような言葉を口にして少し俯く。

「お姉ちゃんが良いなら…私も賛成する。その職場もやめなよ。私の撮影の手伝いをしてくれたら助かるな。例えば編集とか配信環境の最終チェックとか。裏方が嫌なら私と一緒に動画に出る?これからはペアで活動するのでもいいよ?」

詠は本気でみどりを勧誘すると彼女は信じられないのか口をあんぐりと開けていた。

「僕も皆が良いのであれば…良いよ。その代わり。詠もこっちに住んでもらいたい。何故かは僕と尊さんは恋人関係でしょ?そんな二人に挟まれて生活していたら…いくら良い人達だと思っていても息が詰まるでしょ?だから詠も一緒に住んでほしい。それでいつでもみどりさんと一緒に居て上げて欲しいな」

僕は正直な思いを口にすると彼女らは頷いてくれる。

「えっと…これは…からかわれている…?」

僕らの話を信じることが出来ないようでみどりは明らかに狼狽していた。

「ん?皆本気だよ?」

僕はこれが皆の総意だと口にするとみどりは信じられないとでも言うように口を噤んだ。

そこからしばらく無言の状態が続いたがみどりは観念したのか決断したのかどうにか口を開いた。

「本当にお世話になっても良いんですか…?」

涙をこらえてどうにか口を開くみどりに僕らは当然とでも言うように笑顔で頷く。

「では…しばらくお世話になりたいです…!」

「「「「是非!」」」」

僕らは同じ言葉を口にしてみどりを本当の意味で歓迎するのであった。

「これから…よろしくお願いします…!」

ということで、何の因果か僕にはまた一人大切に思える人間が増えるのであった。

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