第31話諏訪みどりに感謝の準備

「それで…諏訪みどりって人に助けてもらったみたいなものなんだ。街でスブ濡れの格好をしていた僕に救いの手を差し伸べてくれて…温かい飲み物を買ってくれて。救急に警察も呼んでくれた。その御蔭で僕は不審者として扱われることもなく、今こうして家に帰ってくる事ができたんだ」

休日の朝方のことであった。

僕と詠とマリネはリビングに集まって尊の作る朝食が出来上がるのを待っていた。

「街にズブ濡れで現れた男性を不審者だって思わなかったのは…奇跡だね」

「本当にそうよね。なんて感謝すれば良いのか…」

詠が先に話を受け入れると続いて尊が話を続けるようにして口を開いた。

「皆がそう言うと思ったから名刺も貰っておいたんだ。落ち着いたらちゃんと感謝を伝えたいって。皆はどうやってお礼がしたい?」

再び話を振ると二人は少しだけ頭を悩ませているようだった。

「大勢でぞろぞろと相手の住む場所に行くって言うのは迷惑じゃないかな…」

「でもお礼をしたいのはこっちなのに来てもらうっていうのもね…」

詠と尊はそんな言葉を口にしながら、これからの出来事に頭を悩ませていた。

「失礼かもしれないけど…来てもらおうか。こっちに来てもらって盛大な振る舞いをするっていうのはどうだろう?尊さんの手料理に…詠は美容の施術を無料でしてあげるとか?マリネちゃんはいつも通りに可愛く居てくれたら良いよ」

「成哉は何するの?」

詠は半ば納得しているようで数回頷くと続けて口を開く。

「僕は何も出来ないから…プレゼントを買おうと思う。助けてもらった女性に贈るプレゼントってどんなものが相場かな?」

「それは成哉くんの気持ちだから好きなものを贈りなよ」

尊は軽く微笑んで答えをくれると朝食ができたようでそれらをテーブルの上に運んでくる。

「まずはご飯食べてからまた考えよ」

詠の言葉に全員が納得すると僕らはそこから朝食に手を付けていくのであった。


朝食が終わり片付けを率先して行っていると二人は身支度を整えているようだった。

休日で何処に出掛ける予定もまだ組んでいないと言うのに彼女らは手早い手付きで身支度を整えていた。

片付けを終えると僕も簡単に身支度を整えてリビングで待っている二人の元へ向かう。

「じゃあ行こうか」

尊の言葉に従った詠はソファから立ち上がる。

マリネも尊の言葉に従ったらしく、すぐに起き上がると玄関へ向かった。

「何処行くの?」

首を傾げて問いかけると彼女らは当然のように口を開いた。

「プレゼント買いに行かないとでしょ」

尊の言葉に頷くと荷物を持って玄関の外へと向かう。

尊の車の助手席に乗り込むとマリネはいつものように僕の膝で丸くなる。

後部座席には詠が一人で座っていた。

エンジンを掛けた尊はそのまま街のショッピングモールへと向けて車を走らせるのであった。


ショッピングモールに着くとマリネは行きたい場所があるらしくショップの前に着くとナァ〜と軽く鳴いた。

「ここに入りたいの?」

尊に抱かれていたマリネはその言葉に返事をするように再び鳴く。

「じゃあここに入ろうか」

そのショップはおしゃれな小物を扱っているお店だった。

「マリネはちゃんとカゴに入っててね。商品を割ったりしたら弁償しないといけないでしょ?」

尊はカゴに入ろうとしないマリネにどうにか説得しているようだった。

ナァ〜と不満げに鳴いたマリネだったが仕方なくカゴに入っていく。

猫扱いを受けているようで不機嫌な表情になったマリネだったが店の中に入るとどうにか機嫌を直したようで表情を明るいものにしていた。

店内を歩き続けてお目当ての商品を見つけると僕はそれを手に取った。

マリネも感謝の印の為に贈りたいものが見つかったらしく尊におねだりをしていた。

「わかったよ。これが良いのね?」

尊の言葉に再び鳴くマリネに彼女は頷いて商品を手にした。

「一緒に買いますよ。マリネちゃんが僕のために感謝を伝えたいって思っているのであれば…僕が支払います」

「え…でも…」

「良いですから。任せてください」

会計を一緒に済ませると僕らはペット可の喫茶店へと向かい軽い昼食を取るともう少しだけぶらぶらしてから帰宅するのであった。


帰宅すると僕はスマホを操作する。

「この間、助けていただいた。永瀬成哉です。名刺を貰ったものです。感謝を告げたいのですが…大勢でそちらに向かうのも迷惑だと思うので…予定を合わせて家に来て頂けないでしょうか?恋人もその妹も愛猫も感謝を伝えたくて仕方がないそうです。勝手なことを言っているようですが…いかがでしょう?」

僕のメッセージを読んだであろう諏訪みどりは了承の返事を寄越す。

「では。今週の土日とかはどうですか?」

「わかりました。是非。住所を送っておきます。当日をお待ちしていますね」

「はい。では土曜日に向かいます」

「了解です」

ということで諏訪みどりを招く日はもうすぐそこまでやってきているのであった。

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