第29話失踪届を出しに行く

仕事から帰ってきた私は恋人の不在に首を傾げる。

その様な連絡は入っておらず心の何処かで心配のような不安が胸を覆い尽くしていた。

「お姉ちゃん。マリネが変なの…」

リビングでマリネを撫でようとして威嚇されている妹の詠を見て不可解な点がいくつも出てくる。

マリネは決して詠を嫌っているだけではない。

いくら強引でしつこく触られてもマリネは詠を嫌っていることはない。

いつも仕方なく触らせては面倒くさそうな表情を浮かべているのが常だ。

だがしかし…。

本日のマリネは警戒心MAXで誰にも触られないようにしているようだった。

「どうしたの?マリネ?」

近付いて行くとマリネは私に視線のピントを合わせる。

そのまま付いてこいとでも言うように縁側の方まで歩いていくと窓ガラスの前でピタッと止まった。

「窓がどうしたの?」

私の言葉を耳にしたマリネは美しい声でナァ〜と鳴く。

「ん?なに?」

再びナァ〜と鳴いたマリネは窓ガラスを軽く猫パンチするような仕草を取った。

その後も窓ガラスをカリカリと引っ掻いたりして何かしらの異常を伝えようとしてくる。

「ん?そう言えば…窓が異常にキレイになってるわね。何でこんなに新品同様なのかしら?」

少しの疑問を口にすると詠も縁側までやってきて戯けたような言葉を口にした。

「マリネが窓ガラス割っちゃったんじゃない?それで成哉が業者を頼んだとか?」

詠の言葉を耳にしたマリネは思わず大きな声を上げて鳴く。

「びっくりしたぁ〜。冗談だって。怒んないでよ」

詠はマリネに謝罪のような言葉を口にして少しだけ拗ねていた。

だがマリネはどうやら怒っているようではない。

「それだよ!当たらずとも遠からず!」

そんなことを咄嗟に口にしているように思えてならなかった。

「もしかして…誰かが窓ガラスを割って…成哉くんを連れ去ったの?」

私の言葉にマリネは頷きながら美しい声で鳴いた。

「まさか…でしょ…」

詠は明らかに動揺しており私もどうしたら良いのか分からずに居た。

「警察に連絡してみる?」

動揺した詠は正義の助けを求めたがどうやら証拠らしいものは全て消されているようだ。

それはこの部屋がいつもと何ら変わりないからだ。

もしも変わった場所があるとしたら…。

この窓だろう。

しかしながらこんなに用意周到な犯行をする人物だ。

指紋などの証拠を残すとは思えない。

「意味ないと思うよ。でも失踪届は出しておこ」

「うん。警察署に行ってくるね。お姉ちゃんはどうする?」

「私も行くよ。もちろんマリネも行くでしょ?」

マリネは私の言葉に了承したようで急ぎ足で玄関へと向かった。

玄関を抜けた私達は最寄りの警察署で失踪届を出すのであった。


何処かに行ってしまった恋人を私達は探しつつ、いつか帰ってくることを願い続けるのであった。

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