第28話必ず帰ると心に誓う

木組みの家のリビングでは当然とでも言うような表情で瑠唯が対面の椅子に腰掛けていた。

「ご足労ありがとうね。報酬はいくら欲しい?」

瑠唯は全身黒で包んだ女性たちに問いかけていた。

「いえいえ。もしも報酬を頂けるのだとしたら…一回でいいので好きな時に占ってください」

女性たちの総意を耳にした瑠唯は軽く微笑んで頷く。

「そうだ。何か手荒な真似はしてないよね?」

「えっと…家に侵入するために窓ガラスを割りました…」

一人の女性が釈明するように申し訳無さそうな表情で伝える。

「そう。じゃあ修理屋に頼んでおいて」

いつも語尾が♡に見える女性は瑠唯の側近らしく、それに了承すると部屋の外に出て何処かに電話をかけているようだった。

「じゃあ皆は帰っていいよ。ありがとう」

瑠唯の言葉を受けた女性たちは木組みの家を出るとそのまま車に乗り込んで帰路に就く。

部屋に二人残された僕らは対面の席で顔を突き合わせることになる。

「瑠唯…何でこんな事するんだ…誘拐や拉致と一緒だぞ?こんなのバレたら犯罪だ」

正面切って瑠唯と対峙すると先手を取るようにして口を開く。

正直に言えば主導権を相手に握らせたくなかったのだ。

「わかってる。でもバレたらでしょ?連れ去られた時、家に居たのは猫ちゃんと成哉だけだから。今すぐに修理屋を向かわせて何事もなかったようにしておけば…きっと簡単にはバレないわ」

「何でそんな事知ってる?それも占いか?」

「ははっ。本当に平和で過ごしてきたんだね…別れてからの私がどうして生きてきたか知りたい?」

「………」

不穏な雰囲気を醸し出す瑠唯を目の前にしてつばをゴクリと飲み込んだ。

「色んなことを経験してきた人達を沢山占ってきた。色んな話を聞いたよ。だから何にでも少しは知識がつくようになったんだ。色んな立場の人を占ってきたからね。特殊な経験をしてきた人の心理とかも理解できるようにもなったんだよ。占い師って言う肩書きの他にもカウンセラーの様な仕事もしてきたんだ。もちろん占いのついでに話を聞いてあげるって感じだったんだけどね。沢山の有力なアドバイスをするようになってから少しして。お客さんと言うよりも信者のような人達が増えてきたんだ。さっきの娘達も私の信者なんだ。それと今、外に電話に行った女性は私の右腕。便利に何でもしてくれる役に立つ娘なの」

自分語りをして過去を振り返る瑠唯の表情は何処かやつれて疲れているようにも見える。

外から戻ってきた瑠唯の右腕の女性は耳打ちするように何かを伝えると二人は何らかの合図のようなものを送り合っていた。

「うん。きっと成哉の家族とか名乗っている人物たちは何にも気付かないわ。知らぬ間に居なくなってしまったとしか思わないでしょう。だって証拠は全部キレイに掃除できたから」

そんなことを僕に自信満々に伝えてくる瑠唯に嘆息することしか出来ない。

「こんなことしなくても…どうしても話がしたいって言うなら…外で会ったよ。こんな手段を使ってくるとは思いもしなかった…もう対話は不可能なのか?」

「不可能ね。成哉はここで監禁されて一生を過ごすんだから。対話の必要なんて無いわ。ずっとここに居てもらうから」

瑠唯はそんな言葉を口にすると側近の女性に合図を送る。

「では♡成哉さんはこちらにお越しください♡」

拘束は手だけなので自由に歩くことは出来る。

側近の女性の方に歩いて向かうと二階の一室へと案内されるようだった。

「あの女の言う通りよ。私は自分の運勢を良くするためだけに成哉をここに飼い慣らしておきたいだけなんだわ…」

瑠唯はそんな投げやりにも思える言葉を口にして何処か儚げな表情を浮かべていた。

側近の女性に連れられて二階の一室に案内される。

「ここで暮らして貰います♡外からしか鍵は開けることが出来ません♡窓も高い場所にある、あの小さな小窓だけです♡人間が一人通れるくらいですけど…そもそもあそこまで登れないでしょう♡それに窓を破って外に出ても…この高さからどうやって降りますか?♡飛び降りて足の骨でも折ったら逃走も出来ないですよね?♡ですので早々に諦めてください♡部屋の中では自由にしていいですよ♡では♡」

側近の女性は一つ一つの所作を大げさにぶりっこしている様に見えてならなかった。

糖分過多な甘い声に嫌気が指すと仕方なく椅子に腰掛ける。

どうにかしてここを抜け出す算段をこれから一生懸命に捻り出さなければならない。

家で僕の帰りを待つ彼女らのもとに必ず帰ると心に誓うのであった。

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