第25話簡単には終わってくれない一日
久しぶりに感じた孤独が顔を出したことにより僕は大事な人を失う怖さを再び思い出していた。
大事な人は自分の手で守れるだけの人数に絞りたかった。
まず尊は当然なこととして。
それにマリネに詠。
この二人と一匹は絶対に守り抜きたい。
少しだけ訂正するとしたら僕は僕自身も守る必要があるのだ。
何故ならば彼女らを不幸にしないために尽力するのは当然なことだと思うからだ。
尊が仕事に向かい、詠は作業部屋に籠もってる。
現在はリビングのソファでマリネと寛いでいるところだ。
何気なくマリネの頭を撫でて悩み事をしている脳内をクリアに保ちたかった。
マリネは美しい声で静かに鳴くと何かを訴えているようにも思えてならなかった。
「どうしたの?」
言葉が通じているかは定かではないがマリネとのコミュニケーションは言語を使うのが一番有効的だった。
「皆も成哉のこと守ろうと思っているよ。抱え込みすぎないで…私がちゃんと守るって言ったでしょ?心配要らないよ」
もしもマリネが人語を話せるとしたら、こんな言葉を投げかけてくれている気がした。
マリネの表情や声音がそう思わせるに値するものだったのだ。
「いつもありがとうね。本当に助かるよ」
優しい微笑みを浮かべてマリネの喉元を擽るように撫でると彼女は嬉しそうに喉を鳴らす。
「しかし…どうしたものかな…」
僕の悩みは他にも存在する。
もちろん、瑠唯のことであるのは言うまでもない。
彼女は占い師を生業としており90%程の的中率が自慢だった。
瑠唯の占った結果は大体が当たってしまう。
しかも瑠唯が本気になればなるほどに的中率は上がっていくのだ。
あの自信に満ちた表情を浮かべていた瑠唯は、きっと本気で何度も占ったのだろう。
そんなことが簡単に予想された。
だが僕は運勢や占いだけで恋人を選ぶつもりは毛頭ない。
僕には尊しかいないと自信を持って言える。
尊とマリネと詠がいつの日か本当の家族になることを信じているのだ。
それ故に戸惑っている。
瑠唯の自信満々な表情や態度を目にして僕は自分の気持ちを正当化する言葉を見つけられずにいる。
「だから会いたくなかったんだよな…昔から僕の心を土足で踏み荒らす自分勝手なやつだ…」
そんな独り言にマリネは反応したのか僕の膝へと登ってくる。
そのまま僕の目を見つめて何かを伝えようとしてくれているみたいだ。
なんだろうと期待しているがマリネは今回、わかりやすく伝えてくれはしない。
「自分で迷って。ちゃんと考えて答えを見つけ出して。私達は信じているだけだから。ちゃんと答えが出るまで待っているよ」
わかりにくいマリネの表情を読み取るに、きっとこの様な言葉を投げかけてくれているはずだ。
そう信じて僕は本日の家事を進行しながら頭を悩ませるのであった。
夕方になる頃に家事が終わると再びソファに腰掛ける。
マリネは眠っていたらしく隣りに座った僕に気付くと眠たそうな表情で目を開けた。
「おはよう。よく眠れた?」
何気ない会話をマリネに投げかけると彼女は言葉を理解しているのか頷く。
ふふっと軽く笑うとマリネは僕の膝の上で丸くなる。
そこから尊が帰ってくるまでの間、ゆっくりとした時間が流れると思っていた。
だがそうならないことも往々にしてある。
突然の来客や面倒事を持ってくる人間はいつだって僕の人生にはつきものだ。
本日も終わりに差し掛かっていたのだが…。
まだ今日は簡単に終わってはくれそうもない。
そう、何故なら面倒な来客のせいで難なく一日は終わってくれないのであった。
インターホンにより僕は玄関へと向かうことになる。
本日、面倒事を運んできたのは…。
「瑠唯…もう来ないでくれって言っただろ?」
目の前の元彼女に呆れたような表情を浮かべると彼女は何でも無いような表情で口を開く。
「いや、今日は成哉に用があるんじゃないの。恋人は?」
「今は仕事に行っている」
「そう。何時頃帰るのかな?」
「もうそろそろだと思うが…何のようだ?」
「ん?説得するつもり」
「なにを?」
「成哉と別れるように説得する」
「勝手なことしないでくれ。本当に困るから」
「いやいや。私も自分の幸せの為なら何でもするから」
瑠唯の勝手な言葉に嘆息していると二階から詠が降りてくる。
「どうしたの?誰か来たの?」
そうして玄関で顔を合わせた二人はどちらからともなく口を開いた。
「瑠唯…何のよう?」
「恋人って詠のことだったの?昔から仲良しだったもんね」
噛み合わない二人の会話が妙に気持ち悪くて僕は頭を振る。
「尊さんを説得に来たらしい…面倒だからもう帰ってもらうよ」
「いや。今回でちゃんと終わりにしたいから…私の作業部屋に案内しても良い?私が話をつける」
詠は怒りに満ちているような表情で瑠唯に相対する。
瑠唯も数回頷いて詠の提案を受け入れるようだった。
「じゃあリビングで話な。僕が居る所で話して欲しい。その内、尊さんも帰ってくるだろうから」
そうして面倒事を運んできた瑠唯により一日は、まだ簡単には終わってくれないのであった。
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