第23話そういうことだけが関係性を進める訳では無い
家族とはタイミングの悪い時に何かしらの勘の様なものを働かせる。
結果的に今夜の詠は耐久ゲーム配信などという企画を立ててクリアするまで懐かしのレトロゲームをプレイしているようだった。
二十四時を迎える頃に僕らはどちらとも眠気に襲われつつあった。
楽しみにしていた二人の夜は、お預けを食らう羽目となり僕らは別々の部屋で眠ることとなった。
同じ部屋で同じベッドで眠ってしまったら問答無用で始まってしまいそうだと感じたからだ。
それは詠が配信をしている間に行ってはいけないと常識的に考えて自重した。
別々の部屋へ向かうこととなった僕らは二階の廊下で別れると一緒について来ていたマリネはいつものように僕の部屋を訪れた。
そのまま一緒のベッドに潜り込んできたマリネは僕のお腹の辺りで丸くなっていた。
僕のやましい気持ちや不純にも思える想いを浄化してくれるようにマリネは僕に対して接しているようだった。
「まだ早いんじゃない?」
そう姉に諭されているような気分にも陥ってしまう。
確かにと気付かされると流れや雰囲気に任せるだけではいけないと自分を律する。
どうにか悶々とした気持ちを押し殺しながら眠りにつくのであった。
「相手をもっと知ってからよ。それだけがコミュニケーションじゃないでしょ?対話を重ねて相手を知りなさい。これ以上知れないって思ってもまだまだ知れるわ。そのためには自分をさらけ出すことよ。自分の心を開けば相手のことも自ずと知れるから。頑張って」
夢の中で声が聞こえるようになったのは家族が亡くなってからだ。
その声の正体は家族だと僕は思いたい。
ただの幻聴のようなものかもしれない。
それでも僕はその声の正体を家族の誰かが夢を通して話しかけてくれていると信じたいのだ。
ありがたい助言のような言葉だと信じて…。
目を開けると世界は朝を迎えていた。
夢の中の声が不思議と耳や脳内に残っている。
身体を起こすと布団の上で丸くなっていたマリネも目を覚ました。
美しい鳴き声を静かにあげると珍しく欠伸のようなものをしていた。
そのまま僕の元まで歩いてくると身体によじ登るような体制を取っていた。
流れるような手付きでマリネは僕の耳たぶを軽く舐める。
甘えるようなマリネにくすぐったい気持ちを感じてしまう。
その感覚に身を任せているとマリネは急に舐めるのをやめて僕の目をじっと見つめていた。
何かを僕に伝えているようなマリネの視線が気になって僕は昨夜のことを考える。
あのまま尊と関係を発展させてよかったのだろうか。
自分の過去を曝け出した尊はきっと身体の関係に発展することを恐れているかもしれない。
簡単に尊と裸一つで向き合って良いのだろうか。
尊の本当の気持ちを知る必要がある。
彼女だって僕を思って怖いけど誘うような了承するような言葉を口にしたのかもしれない。
憶測でしか無いがしっかりと話し合ってからにしようと決意すると階下へ降りていくのであった。
階下に降りると尊は既にキッチンに立っていた。
「おはよう。昨日は良く眠れた?」
そんな探るような言葉に僕は軽く苦笑すると頷く。
「うん。眠れたよ。それでさ…」
いきなり核心を突くような話の切り出し方に尊は軽く身構えていた。
「無理してるんじゃない?そういうことしないと僕が嫌になるって思っていない?」
僕の言葉を耳にした尊は少しの恐怖を表情に現すと静かに頷いた。
「やっぱりそうだよな。でも大丈夫だよ。そういうことをするってだけが付き合っている証じゃないでしょ?僕らには僕らの関係性があるし精神的に繋がっているのは分かるよね?だから…本当にその時が来たらで大丈夫だよ。僕も我慢しているわけじゃなくて。尊さんが本当に少しの恐怖もなく、その気になった時じゃないと嫌だな」
はっきりとした気持ちを言って聞かせると尊は料理の手を止めて伺うように口を開いた。
「嫌じゃない…?堅苦しいっていうか…そういう行為に恐怖を抱いている私は…面倒じゃないかな…?」
明らかに自信を失っているような尊に僕は何でも無いように首を左右に振って応える。
「全然面倒じゃないよ。人にはそれぞれ恐怖するものや大切にしたいものがあって当然でしょ?それを他人が土足で踏み荒らしてはいけないのも当然だよ。全然面倒じゃないから。それだけはわかっていて」
「うん…ありがとうね。こんな私と付き合ってくれて…」
「何言ってるの…付き合いたいって思ったのは今の尊さんだからだよ。嫌いになる要素なんて何一つ無いよ」
僕の正直な気持ちを耳にした尊は照れくさそうに少しだけ俯いていた。
「あの…朝からいちゃつかないで貰ってもいいですか?」
と、そこに第三者である詠がリビングに顔を出して鬱陶しい様な表情を浮かべていた。
「昨日は深夜まで配信してて。疲れてたからそのまま作業部屋で寝てたんだけど…何この雰囲気…何かあったの?」
詠は椅子に腰掛けるとキッチンに立つ尊に問いかけているようだった。
「何も無いよ。ただ私がいつまでも怖がっていることを告白しただけ…」
「あぁ。それは仕方ないでしょ。悪い男に引っかかっていたんだし…怖くて普通だよ」
事情を知る詠は何でも無いような表情で当然だと口にすると朝食を急かしているようだった。
「そういうことだから成哉も急かさないでね?お姉ちゃんの気持ちが固まるまでは待っていて。それよりもご飯!早く!」
急に駄々をこねる子供のような言葉を口にした詠により僕らは現実に引き戻される。
詠の隣の椅子に腰掛けると感謝を告げる。
「ありがとうな」
「何が?」
「何でも。でも僕はちゃんと待つことを決めているから。心配するな」
「わかってるよ。成哉はそういうことしか考えてない男性じゃないって知ってるから」
「そうだな…」
そうして僕らの一日はまたここから始まる。
朝食を取って尊は職場へと。
詠は再び作業部屋へ。
僕はマリネと共に過ごす。
各々の人生を今日も必死で生きるのであった。
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