第18話未来の家族。三人と一匹の物語

詠は行動力のある女性だ。

やると口にしたことは必ずやる。

そういう人間である。

「私の部屋使ったら身バレしそうなんだよね…。何処か防音設備の整ったアパートでも借りようかな…」

配信機材を揃えた詠は独り言のように悩みを打ち明けてくる。

「身バレするのか?」

「多分。部屋の構造的に簡単にバレるかもしれない」

「どういうことだ?」

「ん?窓の配置とか…窓から見える景色とかでバレそうで…」

「カーテン使えばいいじゃないか」

「う〜ん。今の部屋はあれで完成しているの。あれ以上手を加えたくないんだよね」

「感性が違うからよくわからないが…。つまりは今の部屋に手を加えたくないんだな?それに身バレしたくないからアパートを借りようと?」

詠はそれに一つ頷いて応える。

僕も少しだけ考えてみるがお節介な提案しか思いつかない。

それを口にして良いのか…。

そんなことを悩んでいると家族の声が聞こえた気がした。

「助けてあげなさい」

脳内に聞こえたただの幻聴かもしれない。

けれど僕はその幻聴に従おうと決意する。

「二階の余っている部屋。使わないから使うか?結構余っているんだよ。郷兄の部屋に秋姉の部屋に真悠の部屋に両親の部屋。僕一人で使うには持て余していたんだ。キレイに使ってくれるなら…使ってくれ」

そんな提案をすると詠は少しだけ怪訝な表情を浮かべる。

「まだ上手くいくかもわからないんだよ?家賃なんて払えないかも…」

「何言ってる?始めからお金を貰う気なんて無いぞ?お金に不自由はしていないんだ」

「あぁ〜…でも良いのかな?お姉ちゃんにも許可取ったほうが…」

「それはそうだな。尊さんが帰ってきたら聞いてみな。僕は一向に構わないから」

「そう…ありがとうね。そのつもりで準備しておくよ」

そこで会話が途切れると詠はスマホを操作しだした。

現在は昼過ぎでもうすぐ十五時を迎える辺りだった。

詠はきっと尊に連絡を入れているのだろう。

返事が来ると詠は少しだけ表情を引きつらせていた。

「どうした?」

その表情を確認した僕は詠に問いかける。

詠は額を軽く押さえて髪をかき分けた。

「お姉ちゃんが…」

そう言うと詠は説明するのも面倒だったらしくスマホの画面をこちらに見せてくる。

「ん…まぁ…そうなるか…」

そこには尊も僕の家で住むといった内容が記されていた。

「私は住まないよ?二人の邪魔するつもりなんて無いから」

詠は言い訳をするわけでもなく事実を口にして少しだけ動揺しているようだった。

「わかってるよ。僕もそのつもりだったし。作業部屋とか配信部屋としていつでも使って良いよ。って言ったわけだし…」

「それって…深夜配信になっても良いの…?」

傍から見ると図々しい様な提案をしている詠に僕は当然のように頷いた。

「構わないよ。尊さんに頼まれているから。詠には好きなことさせてあげてって」

「そうなの?こんなの私のわがままじゃない?」

「関係ないさ。きっと詠はいずれ僕の義妹になるわけだし…」

「え…?お姉ちゃんとそんな話まで出てるの?」

「まぁ…そんなところかな。と言うよりも僕は尊さん以外ありえないって思ってるし…」

「どうして?付き合ってまだ少ししか経ってないでしょ?」

「そうだけど。僕を救ってくれたのはマリネちゃんと尊さんだから。二人の気持ちには全力で応えたい」

「それじゃあ…お姉ちゃんがここに住むのも許可するの?」

「もちろん。マリネちゃんも一緒にどうぞ。って返信しておいてよ」

「はぁ…何だか話が急展開すぎて…ついていけないよ…」

「機材運んだりするの手伝うからな。今のうちに好きな部屋を選んでおきな」

「うん…何から何までありがとうね」

詠はそんな感謝の言葉を残すと二階の空き部屋へと向うのであった。


帰宅してきた尊を迎えると彼女は期待した眼差しで問いかけてくる。

「本当に同棲してくれるの?」

その甘美な言葉に僕は思わず苦笑してしまう。

「同棲って…そうですけど…実家はすぐ隣ですよ?」

「それでも…毎日、朝から晩まで成哉くんと一緒に居られるってことだよね?」

「まぁ…尊さんは平日の日中は仕事がありますけどね」

「そうだけど。帰ってきたらずっと一緒に居られるってことでしょ?」

「そうなりますね。それにマリネちゃんも…たまには詠もいるでしょうけど…」

「家族だから構わないよ。成哉くんが良いのであれば…是非。一緒に住みたいな」

「何度も言いますけど…良いですよ。むしろ喜んで」

「ありがとう。休日にいる物だけ持ってこっちに運んでもいいかな?」

「構いませんよ。だって今日からここに住むんでしょ?」

「そうだね。ありがとう」

僕と尊はそんな会話を繰り広げて良い雰囲気に包まれていた。

だがそれを邪魔するように縁側から家に入ってきたマリネは僕の足元でぐるぐると回りながら何度も鳴いていた。

「あぁ。マリネちゃん。こんにちは」

挨拶を交わすとマリネを抱いてソファに腰掛けた。

「じゃあ私は詠の方を見てくるから。何だか機材を運んだり…設定がどうのって…てんやわんやしていたから手伝ってくるね」

「はい。じゃあまた後で」

ということで急展開だが尊とマリネとの同棲は決まり、詠は二階の一室で配信活動を始めるのであった。


ここから未来の家族になるであろう三人と一匹の物語は再始動しようとしていた。

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